タッチセンス・ムービング・フェーダー搭載のオールインワン・マシン

ROLANDMC-808

ROLANDがMC-303を発表したのは1996年。後続のMC-505を含むMCシリーズが契機となって各社からダンス・ミュージック制作に特化したコンパクトなオールインワン・マシンが登場してきたのですが、ROLAND製品に冠された"groovebox"という名称は同タイプの機材で総称的な使われ方もされるようになりました。2000年にはDJの現場に焦点を当てたMC-307が登場し、その2年後にはサンプリング機能を搭載し、拡張音源ボードにも対応したワークステーションMC-909をリリース。そしてMC-303から10年を経た今、MC-808が誕生したのです。本機は音源&サンプラーとステップ・シーケンサーが一体となっているだけでなく、何とタッチセンス・ムービング・フェーダーを搭載しているとのこと。早速見ていきましょう。

音源部のエディットにも使える
8本のムービング・フェーダー


MC-808の最大のトピックは8本のタッチセンス付きムービング・フェーダーの存在。直感的なフィジカル・コントロールこそがハードウェアに求められる大きな要素の1つである今日において、待望の新機能です。ムービング・フェーダーは16トラックある各パート(PART ASSIGNボタンの使用で8トラックずつを切り替え)のレベルやパンの調整などのミキサーとしての役割だけでなく、音源部のピッチ、フィルター、LFOなどのコントローラーとしても使用可能です。フェーダー上部にある横4列のマトリクス状のパネル表示に沿ったボタンの切り替えで、アサインされたパラメーターの値に合致したポジションへ瞬時に各フェーダーが動きます。故に視覚的にも気持ちよく作業でき、思い通りにエディット可能なのです。さらに、タッチセンス機能によりフェーダー上部に軽く触れることでアサインされているパラメーターとその値をディスプレイに表示してくれるので、より繊細な調整もできます。なお、触ると同時にオートメーションが解除されるので、作り込んだシーケンスのリアルタイム・コントロールも可能です。本格的なサンプラー機能が搭載されている点も本機の特徴の1つ。メモリーは最大512MB(DIMMスロット)まで拡張でき、4MBの内蔵RAMと合わせ16ビット/44.1kHz固定で最大102分(モノラル)の長尺サンプリングが可能です。バックアップ・メディアにはコンパクト・フラッシュを採用。最大1GBのカードを挿すことで余裕のデータ・スペースを確保。バックアップという点では、USB端子でコンピューターなどとの接続も可能なので容量は実質無限大と言えるでしょう。

即戦力の896の内蔵パッチ
128のリズム・セットを搭載


では、内蔵パターンを聴いてみます。MCシリーズはテクノ/トランス系に強い印象がありますが、冒頭にはR&B系パターンを配置。幅広いシーンへの対応を印象付けています。もちろんテクノ系も充実していてCo-Fusion/Wall5のHeigo TaniやRemo-conこと田村哲也氏など、国内屈指の音職人がプリセットを提供。ほかにもJustin Berkoviや、Sterling Mossなど、テクノ界の実力派も参加しています。幾つかのパターンは本機の機能をデモンストレーションするかのごとくムービング・フェーダーがにぎやかに動きまくって、各パートの細かなレベル・コントロールを視覚的に伝えてくれます。ボイス・サンプルを駆使したパターンも幾つかあり、本機のワークステーションとしての可能性を感じさせてくれます。オリジナル・パターンの作成については従来のMCシリーズ同様、リアルタイム、TRタイプ、ステップ入力などを交えた打ち込み方になっています。次に、これらのパターンを構成する音色パッチを見ていきましょう。波形は新たにMC-808専用に用意されたものを使用し、896の内蔵パッチ、128のリズム・セットを搭載。最大同時発音数は128音なので、16トラックをフルに使った複雑な構成のシーケンスを組む際にも全くストレスを感じないでしょう。サウンドの印象はさすがという感じで、まさに即戦力。さらにエディットの土台としても使い勝手の良さそうなものがそろっています。

最大6系統を同時使用できる
充実のエフェクト・セクション


では、続いてムービング・フェーダーを使ったパッチ・エディットにトライ。パネル上のSYNTHESIZER 1を押すと、最も使用頻度が高いと思われるフィルターのカットオフとレゾナンスが一番左に配されていてスムーズに操作ができます。LFOに関してもWAVE FORM、PITCH/FILTER/AMP DEPTH、RATEが各フェーダーにアサインされるので、ボタンやツマミよりはるかにスピーディな操作ができます。ここでPART ASSIGNボタンを押すと、フェーダーを使ってアナログ・シンセ的な視点でピッチやフィルターのエンベロープを調整可能。続いてSYNTHESIZER 2ではアンプのエンベロープやマルチエフェクト、リバーブのタイプなどをコントロールできます。次はエフェクトについて。MC-808ではMC-909の流れをくんだ2系統のMFX(マルチエフェクト)、リバーブ、コンプレッサー、外部入力用ピッチ・シフター、マスタリング・エフェクトの6系統を同時使用できます。しかもMFXはフィルター系(9種類)、モジュレーション系(7種類)、コーラス系(6種類)などの計47種類を用意。各エフェクトは全パート共通の設定で使用し、コンプ、MFX1、MFX2は並列/直列を選択できます。マスタリング・セクションでは最終段における各バンドごとのコンプレッションを設定可能。なおエフェクト設定は本体では各エフェクターのタイプとルーティング、各MFX固有のコントロールを2種類ずつ行え、細部の編集に関しては付属の編集ソフトMC-808 Editorを使います。

作業領域を効果的に分割する
編集ソフトMC-808 Editor


ここで付属CD-ROMに用意されたMC-808 Editor(画面①)を使ってみます。MC-808のUSB端子はデータ・ストレージ用だけでなく、MIDIインターフェースとしても機能するのです。MC-808 Editorを起動すると、自動的に現在のパターン設定を読み込み開始。MC-808 Editorではエフェクターのパラメーター以外にも各パッチのピッチベンド・レンジ、パッチを構成するトーンのFXM、フィルターやアンプのベロシティ・カーブ/センスなど、本体ではできなかった本格的なエディットが可能なのです。▲画面① エフェクトの設定でシビアな追い込みに重宝するMC-808 Editorのメイン画面。各パートに用意された"EDIT"ボタンを押すと"Patch Edit"という別ウインドウが開く。そのPatch Editには"GENERAL""WAVE/PATCH""FILTER""AMP""LFO""STRUCTURE""VEL RANGE""MATRIX CONTROL"というボタンが用意されているので、各項を選んで詳細な編集を行う。ちなみに、MC-808 Editorと本体のフェーダーは連動する また、各エンベロープや、ディレイ/フェード情報を交えたLFO波形などがグラフィカルに表示されるので、視覚的にも非常に快適な作業が可能です。MC-808 Editor上のフェーダーをマウスで操作すると、本体のフェーダーも連動するので、相互でシームレスなエディットができるのもうれしいところ。実を言うと、最初は本体で全エディットができないことに疑問を感じたのですが、こうして使ってみると幾重もの階層になったページを開きながらのエディット(これこそがハードウェア最大の弱点!)よりもライブなどにも生かせる使用頻度の高いコントローラーのみを本体に置くことで、複雑な見え方を一掃。ある意味で効率的かつ潔い構成だと感じます。サンプリング時にはインプット・エフェクトとしてピッチ・シフターを用い、各パッドに音階のついた状態でアサイン可能です。WAV/AIFFファイルもインポートでき、各サンプルのBPMをあらかじめ設定した上でAUTO SYNCボタンを押すことで、サンプルとパターンのテンポを自動的に同期させられます。サンプルはMC-808 Editor内に含まれるSample Edit(画面②)で波形を拡大表示して時間軸に沿った音量変化のグラフィカルな編集や、サンプルを分断してパッドごとにアサインするチョップ機能など、専用機並みの編集を視覚的に行えます。▲画面② MC-808 Editorの右側にある"SAMPLE"ボタンを押すと表示されるSample Edit画面。メイン・ウィンドウではループ・ポイントの設定などを行えるMC-808は高価なデジタル・ミキサーなどに使われることが多かったムービング・フェーダーを搭載したことで、ハードウェアとしての進化を遂げています。コンピューターとの共存を意識した、まさに"今あるべき姿のオールインワン・マシン"と言えるでしょう。トラック制作段階の仕込みにはエディターを駆使し、ライブなどには本体のみを持ち込むといったフレキシブルな使い方ができる1台です。

▲リア・パネル。左から電源スイッチ、ACアダプターのインレット、MIDI OUT/IN、USB端子、INPUT(TRSフォーン)×2、DIRECT OUTPUT(TRSフォーン)×2、MIX OUTPUT(TRSフォーン)×2、PHONES(TRSフォーン)

ROLAND
MC-808
オープン・プライス(市場予想価格/121,000円前後)

SPECIFICATIONS

■最大同時発音数/128
■パート数/16(メイン)+16(RPS)
■ウェーブ/622
■サンプリング・データ方式/16ビット・リニア(ファイル形式WAV/AIFF)
■サンプリング周波数/44.1kHz
■最大サンプリング時間/モノ=約47秒(インターナル・メモリーのみ:4MB)、モノ=約102分(DIMM最大拡張時:516MB)
■シーケンサー・パート数/16+テンポ&ミュート・コントロール
■分解能/♩=480クロック
■エフェクト/リバーブ=1系統(4タイプ)、コンプレッサー=1系統(1タイプ)、マルチエフェクト(MFX)=2系統(MFX1&MFX2=各47タイプ)、外部入力用ピッチ・シフター=1系統(1タイプ)、マスタリング用3バンド・コンプレッサー=1系統(1タイプ)
■拡張スロット/サンプリング・メモリー拡張=DIMM1スロット(@168ピン、128/256/512MB)
■外部メモリー/コンパクト・フラッシュ=1スロット(パターン、パッチ、サンプル保存用、最大1GB)
■外形寸法/431(W)×104(H)×327(D)mm
■重量/3.4kg
■付属品/ACアダプター、カード・プロテクター、CD-ROM(専用エディター、USB-MIDIドライバー)