低コスト＆高性能なコンデンサー・マイクが次々と発売されて、性能はもちろん、さまざまな機能やデザインが宅録ユーザーの選択基準になっている現状は一昔前では考えられなかったことだ。何ともうれしい時代になったものである。今回紹介するELECTRO-VOICE（以下EV）Cardinalもそんなうれしいマイクと言えるだろう。EVとBLUEの共同開発による低価格で精度の高いコンデンサー・マイクだ。
自由度の高いマイキングが可能
レトロ感覚あふれる木製ボディ
届いたマイクを箱から出す。ライブ・ハウスやリハーサル・スタジオのモニター・スピーカーで有名なEVとコンデンサー・マイクの性能では定評のあるBLUEによるコラボレーション・マイクということで期待が高まる。まず、デザインとして目を引くのは卵型の木製ボディ（材質はチェリー・ウッド）だろう。木目の見える赤い塗装がBLUEの得意とするレトロな雰囲気をにおわせている。本体はやや小ぶりで片手いっぱいに収まるくらいの大きさ。シルバーのウィンド・スクリーン、マイク本体と一体化されているマイク・ホルダー、そして背面のコネクターを囲むダイキャストなどに高級感とデザインへのこだわりが漂っている。ダブル・スウィベル・マウントのホルダーは本体に直接装着されている部分で約30度、スタンドに装着するジョイント部分で180度強の角度調整が可能。自由度の高いマイキングができるようになっている。指向性は単一のみのシンプルな作りで、特にPADスイッチなどの調整装置は装備していない。しかし、マイクの本分である回路の設計はとてもストイックだ。ボディの中にクラスAディスクリートの超ローノイズ増幅回路を装備している。
レンジの広い周波数特性
ツヤのある低域感が特徴
それでは実際にアコースティック・ギターでチェックしていこう。録音された音を聴いた第一印象はとにかくレンジが広い！ 高域にコンデンサー・マイクならではの光沢感を保持しながら低域のヌケが良く、ツヤがある。私はEVのマイクをチェックするのは初めてだが、感覚としてはEVのモニター・スピーカーの音に近いレンジの広さを感じる。高域から低域までまんべんなくレンジが出ていて、特に低域の立ち上がりが良い。つぶれがちなアコギの低音弦の音がストローク奏法でもアルペジオ奏法でもはっきりと聴こえる。メーカー発表の周波数特性のグラフを見てみると、ほぼすべての周波数帯（35Hz〜20kHz）がフラットにカバーされ、80Hzと3〜4kHzと10kHzにピークがあると記されている。実際にこのグラフに近い印象だ。指向性は単一だが、録音してみると範囲は少々広めになっているのが分かる。アコギの12フレット辺りから25cmくらい離れたところにマイクを立て、そこからサウンド・ホールを狙うのが私の通常のセッティングなのだが、マイクの角度と距離が少々ずれたくらいでは聴こえ方がさほど変わった感じはしなかった。激しい演奏で体が動きやすいギタリストの録音にはお勧めである。また、先述のようにディスクリート構造の超ローノイズ増幅回路を採用しているためノイズが少ない。私のデジタル・ミキサーによる無音状態でのモニタリングでもその効果は確認できた。続いてボーカルでも試してみたが、ボーカルに関してはかなり太めな印象だ。実際に同価格帯のコンデンサー・マイクRODE NT2で録った音と比較してみると、Cardinalで録った音の方をシェルビングのEQで150Hz辺りから下を−2dBほどカットしてみたところでニュアンスが近い感じになった。高域はやはりツヤがある。高域が出ている分、低域にもツヤが乗っているように聴こえる。ボーカル録りの際には小ぶりな見た目から近寄って発声してしまいそうになるが、通常のコンデンサー・マイク同様にポップ・ガードを使用して15〜20cmくらい離れた位置からの録音でちょうどいいダイナミクスが得られた。見た目とも相まって非常にウォームなサウンド・キャラクターのマイクである。ドラム・セットでは試せなかったが、タムやパーカッションなどとも相性が良いだろう。宅録で歌録りやアコギなどの楽器をメインにコンデンサー・マイクの使用を考えているユーザーにはお薦めの１本である。
SPECIFICATIONS
■周波数特性／35Hz〜20kHz
■感度／10.6mV/Pa
■指向性／単一指向性
■出力インピーダンス／50Ω
■クリッピングレベル／148dB/SPL
■ダイナミック・レンジ／127dB
■等価ノイズ・レベル／ー25dBA
■電源／48VDC
■消費電流／1.8mA
■外形寸法（ホルダー含む）／100（W）x140（H）x95（D）mm
■重量（ホルダーを含む）／410g
