倍音を付加する新機能を搭載したEシリーズ直系チャンネル・ストリップ

SSLXLogic E Signature Channel

乱暴な言い方をすればエンジニアにとって最もなじみあるものが、SSLのコンソールではないだろうか。個人的には何年か前にDIGIDE SIGN Pro Toolsを導入したとき、一番の悩みが"あのSSLの使い慣れた効きのいいEQ"を何で代用すればいいのかということだった。そして結局、代用はきかずN-TOSCH製のSSLのEQ/COMPを購入したり、本家SSLのXLo gic Channelも発売と同時に購入したりした。今回レビューするのはその"ブランド中のブランド"SSLの初期、Eシリーズのチャンネル・モジュールをラック化し、さらにマイクプリに面白いアイディアを詰め込んだ製品である。

コンソールよりも"抜け"に秀でた
EQ/FILTERSセクション


まずEQセクションだが、SSLはEシリーズとGシリーズ2種類のEQがあり、9000シリーズのJやKといった最近のモデルではEQに関してEとGを選択できる方式になっている。それぞれの音の違いは、Eが割と多めのゲインでもEQくさくならず、オーバーEQで積極的に音を作れるという印象。逆にGは非常にレスポンスが良く、少しのゲインでもシビアに反応してくれるが、やり過ぎるとEQくさくなるという印象。実際に測定すると、両者はQ幅も大きく違うし、ゲインもかなり違う。個人的には積極的な音作りはEで、補正はGといった使い方が最近は多い。さて、本機はその名の通りEシリーズのEQを搭載し、サウンドはまさにコンソールの印象と一緒。さらに"抜け"という観点からすると一段階上の雰囲気だ。構成的にはQ幅可変式の中低域(LMF)と中高域(HMF)、Q幅固定(BELL)/シェルビング選択方式のHF/LFの4セクション。特筆すべきは現在9000シリーズに搭載されている後期EシリーズのEQである242回路(Blackツマミ)とオリジナル(Brownツマミ)がBLKボタンを押すことで選択できる点。両者の違いはゲインに関してBrownツマミが±15dB、Blackツマミは±18dBとなっている。また、各ポイントに装備されたCT OUTスイッチは各周波数の相互干渉を避けるためのもので、微妙なコントロールが可能となっている。FILTERSセクションに関してはXLogic Chan nelがボタン式のON/OFFだったのに対し、ツマミを絞った状態でOFFになる設計になっている。ここでも前出のBLKスイッチが連動しており、ノーマルで12dB/Octに対して、BLKスイッチがONの場合は18dB/Octとなっている。

自由度の高いルーティングで
積極に使えるダイナミクス・セクション


ゲートとコンプから成るダイナミクス・セクションも非常に使いやすい(というか、これは慣れかもしれないが)。細かい説明は省くが、アタックの早さの調節がコンソールではツマミを引っ張ることで選択できたところがスイッチになっていたり、コンプのリリース・カーブを変えられるスイッチの搭載などの変更点がある。個人的にはSSLのダイナミクス・セクションは補正的な使い方が多いが、結構無茶なかけ方も可能で、かなりえぐい使い方もできる。さらに、シビランス・コントロールやコンプのかかり方や音質にかかわるルーティングは非常にフレキシブルで、各セクションのさまざまなスイッチでほぼ考え得るすべてのルーティングが可能。この辺は、さすがSSLといったところ。コンソールの持ち得た自由度の高さがこういったアウトボードでも達成されている。それではいよいよ本機の最大のウリと思われる2つのセクションについて触れていきたい。まずINPUTはコンソール同様のJENSENのトランスを装備したマイクプリが装備されているが、そのGAINツマミの隣に見慣れないDRIVEと書かれたツマミがある。これは真空管系マイクプリなどの特徴である2次/3次倍音を付加する機能。実際に試してみると、確かに倍音成分が聴こえてくる。軽めにかけてちょっと音を前に持ってきても思い切りひずませても、とても気持ちのいい音がする。さすがはスーパー・アナログ。こういった倍音/ひずみはやはりアナログにはかなわない。ちなみに、入力もXLRに加え楽器も直接挿せるようにTRSフォーンも別で装備されていて親切だ。次にLCOMP(SSL LISTEN MIC COMPRE SSOR)。これはトークバック・マイク用に組み込まれたコンプで強弱以外に何の設定もできない。しかし、そのかかり方が非常にユニークであったため、1980年代のシークレット・テクニックとしてドラムのアンビエンス・マイクに使われたりした。とにかく無茶にかかる。操作的にもスイッチをONにして、後はツマミをひねっていくだけのシンプルさ。クレイジーでホント面白い。なお、本機にはオプションとして192kHz対応のADコンバーター・カードXLogic ADC Card For E&XL Channel(市場予想価格/115,50 0円前後)が用意されている。大型スタジオの権威の象徴的な存在であったSSLサウンドが、現在ではこうしたアウトボードで小規模スタジオ・レベルでも手に入れることができる、すごい時代になったと感じる。個人的には昔はSSLのEQ/COMPなどは当たり前過ぎて特に意識しなかったが、プライベート・スタジオで作業するとき実際に無いと非常に困ることが多いことを実感する。プラグインしか使わないという人はぜひ本機を試していただきたい。音に対する認識が変わるように思う。

▲リア・パネル。左から電源ケーブルのインレット、ヒート・シンク、A/Dカード、XLogic ADC Card For E&XL Channel用のブランク・プレート、OUTPUT(XLR)、KEY IN(XLR)、LINE IN(TRSフォーン)、LINK(TRSフォーン)、INPUT(XLR)

SSL
XLogic E Signature Channel
オープン・プライス(市場予想価格/488,250円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz(0.025%以下/Tran sformer Coupled、±0.3dB/Electronically Balan ced、±0.25dB/Line Input)
■入力インピーダンス/>1.2kΩ(XLR)、6kΩ(ライン入力)
■外形寸法/481(W)×44.5(H)×363(D)mm
■重量/4.0kg