真空管らしさを主張する初のデュアル・チューブ・コンデンサー・マイク

SE ELECTRONICSGemini

リイシューだったりコピー・モデルだったり、あるいはオリジナルだったりとチューブ・マイクもいろいろありますが、最近の傾向なのか大抵どれもエッジが効いて、きらっとしています。もちろんどれも良い音なんですよ。ただ、チューブの温かさみたいな部分がやや薄れて、派手なサウンドを持ち味としている製品が多いような気がしていました。しかし、今回試したSE ELECTRONICS Geminiは、実に先進的な思想を持って本来のチューブ・サウンドを聴かせてくれる、筋金入りのマイクロフォンです。それにしてもSE ELECTRONICSって、はっきり言うと聞いたことの無いメーカだなぁと思っていたら、設立が2003年だそう。非常に若いブランドなんですね。すべての製品をハンドメイドし、1本ずつのリスニング・テストを経て出荷されるという徹底ぶりだそうです。

マイクロフォン史上初の
デュアル・チューブを採用


まず手にした瞬間のずっしりとした重量感に、何だか“もうすごく音が良いんじゃないかしら”と思わせる魅力を秘めたGemini。ずんぐりとした外観に加え、メッシュの中で“私を震わせてみなさいよ”と挑発するかのようにこっちを見つめるダイアフラムが、何とも悩ましく金色に輝いています。背中にはスリットならぬ放熱用の通気口が水玉模様のようにポツポツと開いていて、その中にチューブが2本。そうこのGemini、何とチューブを2本も内蔵しているではないですか。だから名前がGemini(双子座)なんですね。この双子のチューブは入力だけでなく、出力段の両ステージにそれぞれ使われているといった具合。しかもこれはマイクロフォン史上初だというのですから驚きです。グラマラスな本体からパワー・サプライにつながるケーブルやコネクターもかなり頑丈にあつらえてあり、細部にまでこだわったパーツのチョイスが信頼を高めてくれます。

極めて真空管らしい
温かくパンチのある音色


それでは、実際に音をチェックしてみましょう。ちょうど録音セッションが入っていたので、ボーカルやサックス・ソロなど、上もののダビングに使ってみました。比較対象に世界のスタンダード、NEUMANN U87aiを立てて聴き比べです。まずは女性ボーカル。明るい雰囲気のレゲエ調の曲ですが、“チューブ・マイク”と聞いたときに頭の中で想像するような、温かくパンチのある音色がそのまま素直にスピーカーから聴こえてきます。何の面白みの無いコメントかもしれませんが、非常に重要なことなんですよ。冒頭にも書きましたが、真空管らしさをここまできちんと主張してくるマイクは最近の製品には少ないように思います。マイクをイメージに合わせてチョイスすることの意味を、あらためて実感することができた気がしました。また、マイクをU87aiにスイッチしてみると、Geminiに比べて上下の帯域に余裕があるものの少々暗いサウンドに感じます。さらにゲインも十分。U87aiよりも大きいくらいです。マイクの感度という部分になると、出音の小さい楽器には今まで安易にU87aiをチョイスしていた私でしたが、頼もしい選択肢が増えたことに喜びを隠しきれません。協力してくれたボーカリストに感想を聴いてみると、“U87aiでは高い方でザラザラとした感じが耳障りに感じたけれど、Geminiはそれが気にならないし、声を張ったときに気持ち良く伸びていく感じが好印象だ”とのこと。曲調によってクリアにしっとりと聴かせたい場合などにはU87aiに軍配が上がるかもしれませんが、今回は協議の結果Geminiを採用。続いてテナー・サックスのソロ・パートです。ボーカル録音同様にU87aiを並べて収録しました。これはGeminiが何と言ってもサウンドにマッチしました。音のつややかさ、腰の粘りが素晴らしく即決採用です。U87aiだけが最初から立っていたなら何の問題も無く録音したはずですが、こうして比較すると音の太さがちょうどいい具合にハマってくれたという感じです。キンキンと耳に痛かったり、低い音がこもってしまうようなことも無く、バランスのいい音を得ることができました。恥ずかしながら私、GeminiだけでなくSE ELECTRONICSというメーカーも今回初めて知りましたが、これはいいマイクだと思います。お値段もほどほどですし、次に買うならこれだなという感じです。
SE ELECTRONICS
Gemini
186,900円

SPECIFICATIONS

■指向性/単一指向
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■感度/12.6mV/Pa−37±1dB
■最大SPL/130dB
■インピーダンス/200Ω
■ノイズ・レベル/16dB
■外形寸法/78(φ)×232(H)mm
■重量/1,330g
■付属品/専用パワー・サプライ、ショック・マウント、ケース、ケーブル