ビンテージ機器の質感を手軽に入手できるコンパクトなステレオ・コンプ

FMR AUDIORNLA7239

アメリカのテキサス州にあるメーカーFMR AUDIOは、これまでにRNC1773やRNP83 80といったコンプやマイクプリを発表している会社。これらは原音を忠実にコントロールするキャラクターのモデルでしたが、この度新しくリリースされたのは、従来のモデルと対照的なビンテージ・サウンドのキャラクターを持つステレオ・コンプ/リミッターRNLA7239です。ちなみに、RNLA7239のアイディアは1980年代にRNC1773を開発していたときに生まれたものだそうで、約20年の時を経て製品化されたようです。

リリース・カーブを急峻にする
“Log Rel”モードを搭載


まずは外観から見ていきましょう。RNLA(Rea lly Nice Levelling Amplifier)7239のツマミはL/R共用で、スプリットでの単体のコントロールはできないようになっています。デザインはとてもシンプルで、電源のON/OFFスイッチも無く、フロント・パネルの配置やツマミは非常に分かりやすくなっています。また、ケースやメーター、ツマミ、スイッチなどはRNC1773と全く同じ筐体を使用することでコスト・パフォーマンスを高くしており、サイズはとてもコンパクトです。具体的には19インチ・ラックの1/3で、RNC1773のオプションのようにラック・マウント用キットがリリースされれば1Uに2台をラック・マウント可能です。さらに詳しく見ていくと、コントロール部分はアナログ回路をデジタルで制御する設計になっており、音声信号がフロント・パネルのコントロール部分を通過しないためノブによる音質劣化の心配もありません。また、外部ノイズの影響を受けにくいのもポイントです。ダイナミック・レンジも117dBと、ほかの機器に引けをとらないでしょう。ツマミはアウトプット・ゲインの0dBのセンター・クリックを除いてトリム式になっており、レシオなども細かく設定することができます。ツマミの周囲にはアタック/リリース・タイムの数値が書かれておらず、UREI 1176のようなスタイルが採用されています(1176とはFAST/SLOWが逆方向で、数値の低い左に回していくとタイムが早くなる一般的な仕様)。仕様はRNC1773と同じで、アタック・タイムが0.2ms〜200ms、リリース・タイムが0.05ms〜5.0sとなっています。バイパス・スイッチは完全に回路をスルーする設計になっており、ライブなどで使用時に万が一、電源が抜け落ちたといった場合でも音声信号が流れ続けます。ちなみに、インサート方法は通常のステレオ接続(アンバランス接続)のほか、TRSタイプのバランス・ケーブル2本でミキサーなどとステレオ接続することも可能です。そして、RNLA7239の最大の特徴とも言えるのが、フロント・パネル中央上段に用意された“Log Rel”というスイッチです。これはリリース・カーブをノーマル・モード時よりさらに加速させることでサウンドにより強力なパンチ感を与えることを可能にするものです。

歌モノではパンチのある感じになり
とても滑らかな二次倍音を感じられる


では、実際にテストした感想を紹介していきたいと思います。まず、歌モノの場合。パンチのある感じを出してくれる上に、とても滑らかな二次倍音を感じられます。トラックの中に埋もれずにパワー感を出すことができ、どちらかというと女性ボーカルよりも男性ボーカルの方が好印象です。次にシンセ・ベースの場合。普通は帯域によってコンプのかかりが悪かったりしますが、“Log Rel”モードを使用することでレンジが上がったりしたときもコンプレッションの引っかかりがよく、音に腰を出してくれます。さらに、ドラムの場合。キックやスネアといったキット単体にインサートしたときよりも、ドラム・ミックスのトータルにインサートして全体をサウンド・メイクしたときの方が、より良い印象を受けます。また、“Log Rel”モードを使用することでパンキッシュでハードなサウンドをも手軽に引き出すことができます。音質についてはビンテージ機器のようにインサートするだけで音が変化してしまうことも無く、とてもナチュラルな印象。ステレオ・コンプとして、位相特性も非常に良く、センター定位もブレないので2ミックスのトータルに入れても問題なく使用できます。ややローエンドとハイエンドがロスする感じはありますが、宅録レベルでは全く問題無いと思われます。スレッショルドを下げてコンプがかからない状態にしたときや、バイパス・スイッチを入れた状態でも音色変化が少なく、フラットな状態からコンプレッションをコントロールしていけるのも好印象です。トータルの感想は、レベリング・アンプのTELE TRONIX LA-2やLA-3のような低域のファットさは無いものの、二次倍音の質感を容易に引き出せる上に、アタック・タイムやリリース・タイムが可変であることを考えると、非常に扱いやすいコンプだと言えるでしょう。また、操作性としてツマミを回す感触と音の変化がちゃんとリンクして感じられるのも特筆すべき。その結果細かいニュアンスまで表現でき、心地よく音作りができます。これだけの低価格でビンテージ・コンプの質感を持ったサウンドが得られるのにはとても驚きました。初心者にも優しい設計でコンシューマーからプロ・レベルまで多岐にわたって使える素晴らしいコンプだと思います。

▲リア・パネル。アナログ入出力(TSフォーン)、サイドチェーン端子、電源コネクターが並ぶ

FMR AUDIO
RNLA7239
オープン・プライス(市場予想価格/43,050円)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/10Hz〜100kHz(±0.5dB@0dBu)
■スレッショルド・レンジ/−40dBu〜+20dBu
■レシオ・レンジ/1:1〜25:1
■アタック・レンジ/0.2ms〜200ms
■リリース・レンジ/0.05s〜5s
■出力トリム・レンジ/±15dB
■外形寸法/139.7(W)×40.6(H)×139.7(D)mm
■重量/900g