
今回皆さんに紹介するのはYAMAHAのパワード・タイプの小型ニアフィールド・モニターHS50M、HS80Mです。昨今の自宅録音における機材の進歩とローコスト化は目覚ましいものがあり、誰もが気軽にハイクオリティな音楽を制作できるようになりました。そこで必要なのが、やはり精度の高いモニターです。そういった点からもHS50M、HS80Mは注目される存在になることでしょう。ちなみに両モデルともに2.1chシステムでの使用も想定した設計となっているので、同時発売となったサブウーファー、HS10Wとの組み合わせも試していきたいと思います。
ホーム・スタジオでは十分な出力と
セッティングに応じた音質補正機能
HS50M、HS80Mはどちらも2ウェイのバスレフ型。HS50Mのウーファーには12.7cmの白色コーン、ツィーターには1.9cmのドーム、HS80Mのウーファーには20cmの白色コーン、ツィーターには2.5cmのドームを採用しています。共にキャビネットには高剛性MDFを使用することで、余分な振動を排し安定した音質を狙っています。また、ツィーターのフレームは力学的にもスムーズな形状で抵抗ロスのない、肉厚のものを採用することにより余分な振動を排しています。内蔵するアンプはバイアンプ仕様で、HS50MはLF:45W、HF:25W、HS80MはLF:75W、HF:45Wとなっており、ユニットに対して最適なバランスになるようにチューニングされているそう。使用するアンプの違いや環境による音質の変化を気にせず、安心して使用できるのはパワードのメリットです。入力端子はXLRとTRSフォーンを併装し、ミキサーからの出力はもとより、オーディオ・インターフェースなどから直接入力することも可能です。そしてリア・パネルにはHIGH TRIM(+2/0/−2dB)、MID EQ(+2/0/−2dB)、LOW CUT (FLAT/−80/−100Hz)、ROOM CONTROL(0/−2/−4dB)という音質補正用のスイッチを装備(写真①)。ROOM CONTROLは、500Hzを2段階でカットすることができ、壁面やガラスなどに近付けてセッティングすることで起こる“低域のふくらみ”を容易に削ることができます。これらの音質補正機能で使用環境に合わせたセッティングに調整することが可能になっています。

上下左右のバランスがしっかりした
臨場感のあるサウンド
まずはHS80M単体で試聴してみることにします。電源を入れるとフロント下部の音叉マークが点灯し電源がONになっていることを確認できます。リア・パネルのスイッチをすべてフラットにし、生音、電子音楽、ラウド系などいろいろな音源で試聴してみると、一聴した感じではドンシャリ系と言えばいいのでしょうか。耳に痛いほどではありませんが、少々高域が強い印象です。楽曲が裸にされたような感じがして、クリアなのですが少し解像度が高過ぎるような気もします。また、中域が若干ですが弱く、少し物足りない印象もあります。そこで、リア・パネルのMID EQスイッチとHIGH TRIMスイッチの設定を変更し、バランスを変えてみることにしました。するとレコーディング・スタジオで聴いている音のような、“あのスタジオ定番モニター”を大きな音で鳴らしているときのような印象に近い感じがボリュームをさほど出さなくとも感じられました。幾つかのモニター・スピーカーと切り替えて聴き比べても、音の臨場感や上下左右のバランスがしっかりしていて、特に管楽器、ドラムなどの立体感は秀逸。広がりがある分、中央に定位しているボーカルは若干引っ込んで聴こえますが、これは最近のスピーカーの傾向でもあるようで、全体的にはより進歩した、全く新しい音だという印象です。また、今回試聴した環境は吸音/遮音が考えられたところだったのですが、リア・パネルでの音質補正が必要だったのはそのためかもしれません。むしろ、小〜中規模で遮音や防音の処理がされていないようなところ……つまり自宅スタジオでの制作に向けて設計されているのでしょう。そしてHS80MのサイズとパワーをよりコンパクトにしたHS50Mも試してみました。こちらはより音量も小さくて済み省スペースでセッティングできるので、コンピューターのディスプレイ脇に並べてセッティングできそうです。また防磁設計になっているので、ディスプレイへの影響もありません。音質的にはHS80Mと同傾向のドンシャリ系ですが、HS80M同様の音質補正スイッチを装備しているので、設置するスペースや使用する環境によってHS50MとHS80Mのどちらかベストなタイプを選ぶことができます。
HS50M、HS80Mに最適化された
コンパクトなサブウーファーHS10W
HS10W(写真②)はコンパクトな20cmのバスレフ型、HS50M/HS80Mに最適化されているサブウーファー。


小音量でも十分な音量感が得られ
立体的な音場の2.1ch環境
ではHS80とHS10Wをつなげて2.1chシステムで聴いてみます。サブウーファーの音量設定は人によりさまざまだと思いますが、全く音の出ない“0”から少しずつ上げて、自分好みの音と近隣への配慮などを考えて音量を決めるとよいでしょう。筆者のスタジオではごく少量で十分です。音源を再生してみるとHS10Wを足したことで、HS80M単体よりも立体的な音像が生まれてきます。さすがにシリーズとして最適化されている組み合わせだけに、音質にまとまりがあります。音量が小さくても低域を十分体感できるので、2chのシステムより小さな音で作業を行ってもしっかりとした音量感が得られます。また余分に音量を上げなくてもよいので、2.1chにすることは、自分の耳にも周辺の住宅環境にも優しいシステムとも言えるのではないでしょうか。ちなみにサブウーファーのレベル設定のコツは、あまりサブウーファーを出していると思わせない程度にしておくことです。このようにシリーズで2.1chでのモニター環境を提案しているケースは、まだまだ少ないのが現状です。とりわけホーム・スタジオと呼ばれるほど自宅での制作環境のクオリティが高くなっている現在だからこそ、初心者にも分かりやすくて、しかも高品位なモニター環境を構築することが大事なのです。HS50M、HS80Mは、今や世界中で標準となったYAMAHA独自のモニター・サウンドが受け継がれており、自宅録音でのモニター環境を手軽にワンランク上げることができそうです。個人的には音が前にドンッといるような中域中心のスピーカーも好きですが、HS50M、HS80Mのように音の奥行き感、上下左右の存在がよく見えるモニター・スピーカーはレコーディングやミキシングの過程においてはとても重要だと思います。そしてこのような小型で解像度の高いモニター・スピーカーというのが、次世代の音楽が生まれてくる個人スタジオにおける、1つの基準になるのではないでしょうか。
HS80M:47,250円(1本)
SPECIFICATIONS
●HS50M
■周波数特性/55Hz〜20kHz
■クロスオーバー周波数/3kHz
■アンプ出力/45W(LF)、25W(HF)
■外形寸法/165(W)×268(H)×222(D)mm
■重量/5.8kg(1本)
●HS80M
■周波数特性/42Hz〜20kHz
■クロスオーバー周波数/2kHz
■アンプ出力/75W(LF)、45W(HF)
■外形寸法/250(W)×390(H)×332(D)mm
■重量/11.3kg(1本)