シンプル&スリムで"ちょうどいい"PA用32chアナログ・コンソール

SOUNDCRAFTGB8

夏の繁忙季を前にわらわらしていたPA屋。そんな時期の機材更新の話し合いの後、当方の勝手な言い分を聞き流してひょっこりやってきたスリムなアナログ・ミキサーがSOUNDCRAFT GB8。今回は実際に現場で使用してのレポートです。

すっきりしたボディに
充実した入出力端子を装備


当社にやってきたのはGB8の32モノ+4ステレオ入力仕様。重量35kgで全幅1,442mm、奥行きは656mmとあまりなく、見た目はすっきりしたイメージです。同封されているVUメーターはつぶつぶ感のあるLEDが丸く並んで懐かしさを醸し出しています(BGW 750とかですね)。ちなみにこのメーター、ちゃんとVUらしい動きをしています。その他の同梱品としては、電源ケーブルと英語の勉強もできる取り扱い説明書が入っていました。興味を引いたのは、"Working Safely with Sound"と称して、健康に影響が少ない1日あたりの音圧レベルと時間が表にされていること。欧米での音量制限の厳しさが垣間見れます。電源は内蔵のスイッチング電源となっています。別売予備電源としてDPS-3(123,900円)が用意されていますが、上位機種のMHシリーズが自動切り替えになっているのに対し、本機は手動での切り替えとなっています。入出力は豊富です。モノラル入力にはそれぞれXLRのマイク入力とTRSフォーンのライン入力、おなじくインサート(イン/アウト兼用)、プリ/ポストの切り替え可能なダイレクト・アウトが備わっています。プリを選んだ場合はハイパス・フィルター(100Hz:18db/oct固定)を通ったEQ前の信号を取り出すことができ、MTRなどへの接続に便利です。またステレオ入力にはTRSフォーンのライン入力とXLR(各2系統)によるマイク入力が装備されています。ちなみにファンタム電源は、チャンネル別にステレオ入力にも供給することが可能です。ほかに入力はステレオ・ライン×4、ステレオ×1(RCAピン)、トークバック用マイク入力などがあります。出力としてはミックスL/R/C、AUX×8 、グループ×8、マトリクス×4、ステレオ、レコーダー(TRSフォーン、RCAピン)など、このクラスとしては充実していると思います。またミックス、AUXまたはグループ出力にはそれぞれインサート・ポイントが設けられています。この"または"というのは、後述するスワップ機能によって、グループ/AUXどちらにでも使用できるという意味です。基本的に本機種のすべての入力はバランス、出力はアンバランスとなっています。レベルは内部バスを含めほとんど0dBu、極性は2番ホットで統一されています。この0dBu統一というのは、本体内のクロストークなどの低減を狙ったのと、パーツを統一してのコスト・ダウンをにらんでのことかと推測されます。一昔前のミドル・グレードのミキサーではメイン・アウトは+4dBなのに、そのほかは−2dBや−6dBなどの中途半端なレベル設定のものがありました。きっちり+4dBで出すことのコスト的な問題を考えた上で、それに対しての割り切った回答が0dBuなのだと思います。PA屋的にはバランス・アウトにしてあればと思う面もありますが......。もっともアンバランスとは言え厳密にはSOUNDCRAFTが200Bのころから採用しているグランド・キャンセリング・タイプの回路構成になっているようなので、要らないお世話とも言われそうです。

SOUNDCRAFT伝統の
効きの良いEQを継承


私はこれまで200、200B、800B、Viena、Series4、MH3、その他いろいろなSOUNDCRAFTの卓を使い続けてきましたが、なぜ使うのかと言われれば、それはEQが良いからです。ガシガシ効かせて音作り。カット・オンリー? いいえブースト・オンリーで全部上げれば気持ちいい。位相シフト上等なそんな漢(おとこ)のEQを装備したコンソール(ちなみに位相シフトは測定してみるとフルブースト/カットとも±45°程度です。ついでにブースト/カット量も1dB内の誤差です。周波数はさすがに可変フリケンシーのHI MID、LO MIDでは数%の誤差は見受けられたものの、ほぼ正確でした)。この機種でも若干上品になった感はありますが、基本的には同じ感覚で使用できます。モノ入力のEQは4ポイント。LF、HFはそれぞれ80Hz、13kHzのシェルビング固定で±15dB。ただしFFTで見たところ純粋なシェルビングではなく、ややピーキング的な要素もありそうです。HI MID、LO MIDの2ポイントはピーキング周波数可変ですが、Qは1.5に固定されています。自分をなぐさめる方法を知っている大人ですから、"転換時のメモが簡単だからそれもありか"と前向きです。ステレオ入力部のEQは13kHz、2.5kHz、450Hz、80Hzの固定4ポイントで、上下の2つがシェルビング、中の2つはピーキングという仕様になっています。

シンプルながらツボを押さえた
機能の数々を搭載


便利な機能としては、まずはグループ/AUXスワップ機能。10年ほど前からコンサート用アナログ・コンソールで増えてきた機能です。基本はAUXのボリュームつまみとグループ・フェーダーを入れ替え可能にして、モニター・コンソールとしての使用時に扱いやすくしようとするもの。本機では同時にインサート・ポイントと出力メーターもスワップさせています。実際にはモニター用のEQをインサートで使用しつつ出力を監視することが可能です。またこの機能はグループ/AUX1〜8の各チャンネルごとに設定できますので、1〜6をモニター用にAUX、7と8をグループ化しコンプレッサーをインサートするという使用方法も可能です。ちなみにスワップ時にも出力端子は固定のままです。センター出力ですが、LCR PANではなくLR PANとは独立した出力です。このためレコーダー出力には、LRに加えてちゃんとCをミックスできる機能が付いています。また、レコーダー出力と予備ステレオ出力にリミッターが付いています。スレッショルドは+4dB固定で圧縮比は測った感じではほぼ∞:1です。"0dBu規定の出力に+4dBでかかったって民生の録音機器で使えるものか"とお思いでしょうが、御安心ください、RCAピン側はアッテネーターが組んであります。取りあえず測定してみると、フォーン端子に対して−8.2dBです。英文取説のダイアグラムには300mVとなっていますので、これもかなり正確です。ほかには、さすがにVCAとまではいきませんが、4系統のミュート・グループが組めます。これで出ばやしSEをドラム・カウント4拍目でカット・アウト→バンド・スタートでも安心です。また1kHzの発振器を内蔵しており、ミックスおよびグループに選択して送れます。放送、録音またその他の信号受け渡しの際に重宝します。口で"ピー"と言いながらハァハァしなくも、もう大丈夫です。入力メーターは4セグメントのLEDではありますが、素早いゲイン設定が可能です。慣れてくればヘッドフォンを装着しなくても入力ソースを見分けられる能力が手に入ったりします。あえて改良してほしい点を挙げれば、出力系のミュートが無いこと。ライブPAでモニター系を中心に一時的にミュートする場面はかなりの頻度であります。このときフェーダーなどのレベルを固定したままでミュートできるのとできないのでは安心感の上でも差が生まれます。またXLRでの入力感度が−5dBまでであるのも惜しい。フルトリムのヘッド・アンプに多いパターンですが、サブミキサーなどの大きなライン・レベルはフォーンのライン入力でしか受けられません。ライブ・ハウスでは転換時にパッチの挿し換えが必要になります。もっとも自宅で使う際はむしろ変換ケーブルが少なくなりますので、一長一短ではあります。あと、ヘッドフォン・アンプにインピーダンス制限があります。もともとSOUNDCRAFTのミキサーは600Ωのヘッドフォンを前提に設計されていました。ですから現在主流の低インピーダンスの機種は駆動し切れません。そのためひずみやクロストークの増加、ヘッドフォン・アンプの破損などの問題が生じていました。本機でも50Ωから600Ω、200Ω以上のものを使用することを推奨しています。肝心の音質ですが、現在まで"これといった印象が無い"というのが本当のところです。細くも太くもありませんが、逆に言えば癖が無い。自然に使えて意外に細かいとこまで気配りしてくれている......そのあたりが、私がGB8を"ちょうどいいミキサー"と感じるゆえんでしょうか。

▶GB8のチャンネル・ストリップ(MONO)。上よりファンタム電源スイッチ、フェイズ切り替えスイッチ、ゲインつまみ、ローカット・スイッチ、EQつまみは上よりHF、HI MIDフリケンシー、HI MID、LO MIDフリケンシー、LO MID、LF、EQスイッチ、AUXつまみ×8、黄色のつまみがPAN、100mmフェーダーがあって、その右上よりミュート・スイッチ、センター出力スイッチ、LR出力スイッチ、グループ出力スイッチ×4、シグナル・レベルLED、ミュート・グループ・スイッチ×4、PFLスイッチ



▲リア・パネル。左上よりインサート×8(TRSフォーン)、ライン入力×8(TRSフォーン)、マイク入力×8(XLR)、ダイレクト入力×8(TRSフォーン)、その右のマスター・セクション左上よりステレオ入力(RCAピン)、レコーダー出力(TSフォーン、RCAピン)、予備ステレオ出力(TSフォーン)、ステレオ・リターン×4(TRSフォーン)、マトリクス出力×4(TSフォーン)、中段左よりミックス出力L/R/C(XLR/アンバランス)、インサート×3(TRSフォーン)、グループ出力×8(XLR/アンバランス)、インサート×8(TRSフォーン)、モニター出力(TSフォーン)、AUX出力×8(TSフォーン)、その右がステレオ・ライン入力×4(TRSフォーン)、ステレオ・マイク入力×4(XLR)、インサート×24(TRSフォーン)、ライン入力×24(TRSフォーン)、マイク入力×24(XLR)、ダイレクト入力×24(TRSフォーン)

SOUNDCRAFT
GB8
1,155,000円(32chモデル)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz(±1dB)
■マイク等価入力ノイズ/−128dBu(22Hz〜22kHz、150Ωソース)
■全高調波歪率/<0.006%
■最大信号レベル/マイク入力