高速な低域レスポンスを実現したパッシブ型ニアフィールド・モニター

REQST PRODW-S1

スモール・モニターの定番、YAMAHA NS-10Mが製造中止になり数年。そろそろ空きそうなその場所に置かれるべく、数多くのメーカーが新モデルを投入しているが、いまだ定番と呼べるモデルは出てきていない。そんな激戦スモール・モニター市場に、レゾナンス・チップなどを手掛けるオーディオ・アクセサリー・メーカーREQSTが参戦。REQST PROブランドから、DW-S1が発売された。これまで料理で言えばコショウや七味、あるいはタバスコ級の効き目のある調味料を作っていたメーカーが、“料理そのもの”を出したのだから、果たしてどんな味がするのか……。早速確かめてみよう。

±8mmの振動幅を持つ
DDリニア・ウーファーを2基搭載


サイズはNS-10Mとほぼ同じ。カラー・バリエーションは今回試聴したグレー&オレンジ(写真)のほか、ブラック&グレー、ホワイト&レッドの3種類があるそうだ。全体の作りもしっかりしていて、ダブル・ウーファーの割に6.6kgと軽めな重量だが、高級感漂う仕上がりである。ウーファーには、ALPINE製の170mm DDリニアが2基採用されている。独自の磁気回路を搭載し、一般的なスピーカーの±3mmをはるかに超える±8mmという振幅幅を持つもので、音量を上げていっても低域のリミッター感が無く、大音量でもリニアな反応が得られるそうだ。ツィーターも同じくALPINE製。ボイス・コイル2基を持つ30mmデュアル・エミッション・タイプだ。ネットワークには独自の“レゾナンス・コントロール・ネットワーク”なるものが採用されている。なんとコイルを使用せず、物理的な処理のみでウーファーの高域をコントロールしてあるということだ。普通は入力ターミナルから入った信号はコイルを通り、高域がカットされウーファーに入るのだが、本機ではターミナルとウーファーが直結されているという。また2基のウーファーの特性を上下で微妙に変え、ウーファー間で音の相殺が無いようにチューニング。ツィーター側もコイルは使わずコンデンサーによるハイパスのみでクロスを作り出しているそうだ。インピーダンスは公称4Ω、一番低いところでは3Ωとなるそうなので、アンプは4Ωドライブが保証されているものを使わなければならない。また背面下部に開いている200×10mmほどの細長いポートは、バスレフ・ポートではなく内圧を抜くためのもの。抜け具合をウール85%のわたでコントロールしてあり、特性は密閉型に近いものとなっている。

キレの良い低域と奇麗に伸びた高域
コンソールでの低域反射を避ける設計


試聴はformのroom 2で行った。まずメーカー推奨の“ツィーターが内側&縦置き”にして、SSL SL9000Jのメーター・ブリッジにセッティング。アンプはYAMAHA PC-2002を使用した。DDリニア・ウーファーは宣伝文句通りキレの良い低域を出す。高域も奇麗に伸び、定位も良好である。この状態で若干高域が強めに感じられたので内振りをやめてみると、高域の感じが良くなり、位相感も良く定位もつかみやすくなった。しかし60Hz辺りのベースの基音がどうにもつかみにくい。本機はコンソールでの反射による低域ブーストを避けるため若干後ろに斜傾しているのだが、普段から“コンソールで反射した低域”に慣れている私には物足りなく感じられる。そこで、後部の下に十円玉を二枚重ねて入れ垂直にすると、ベースの基音も聴こえるようになり、キックの音の長さもつかみやすくなった。さらに低域を出してみようと横置きも試してみたが、メーター・ブリッジ上では低域が出過ぎて解像度が下がる。後部のポートをふさぐのも良いと言われていたので、ガム・テープでふさいでみる。私としてはこの方が好みの音である。ウーファーの動きが制限されるためか、中域の解像度が上がった感じがする。しかし、同席したエンジニアはふさがないときの開放感が好きだというので、これは好みの範囲であると思う。メーカーによると、どんな状況でも鳴るスピーカーを目指したので高級なスタンドやインシュレーターは必要ないという。確かにセッティングを変えても基本的な音色は変わらないが、必要に応じてセッティングを積極的に変えることにより、その音色を保ったまま好みのバランスが得られるスピーカーであると思った。オーディオ・アクセサリー・メーカーが作った本機は、高級なアクセサリーを必要としない、しっかりと味付けされたものであった。
REQST PRO
DW-S1
504,000円/ペア

SPECIFICATIONS

■形式/2ウェイ半密閉式
■高域ドライバー/30mmデュアル・エミッション・ツィーター
■低域ドライバー/170mm DDリニア・ウーファー×2
■インピーダンス/4Ω(公称)、3Ω(最小)
■周波数特性/40Hz〜60kHz
■入力/50W(Nom.)、100W(Max)、200W(Music)
■出力音圧レベル/89dB
■外形寸法/230(W)×385(H)×204(D)mm (1本)
■重量/6.6kg (1本)