ハンドメイドによるディスクリート回路のトランジスター製マイクプリ - サンレコ〜音楽制作と音響のすべてを届けるメディア

SAGE ELECTRONICSSE-Pre 1

谷田茂（ビクタースタジオ）

SAGE ELECTRONICSはレコーディング／ミキシング・エンジニアとしてカナダ本国で数々のセッションに携わってきたフィリップ・ヴィクター・ボヴァ氏のデザインにより、これまでにマイクプリ、DIボックス、コンデンサー・マイクなどを発表している。熟練エンジニアによる“完全ハンドメイド”のこれらレコーディング・アイテムは、まさに“ONE-OFF”商品であり、２つとない貴重な存在。その中から今回はマイクプリのSE-Pre 1を取り上げ、その仕様や音質、キャラクターについて詳しくチェックしたいと思う。

高級家具を思わせる外観と
シンプルにして十分な仕様

このプリアンプは本体（SE-Pre 1）と別に独立タイプの専用電源モジュール（SE-PS2）があり、１台のSE-PS2でSE-Pre 1を２台まで駆動可能。大きさは縦で３Uのラックに並べると８台分収納できるくらいのコンパクトなサイズだ。２ch用に２Uのラックマウント・キットも近日発売予定らしいので、わざわざ別々に持ち歩く心配はない。まずは本体の外見だが、高級な感じの赤いカナディアン・ウッドのフロント・パネルがとても印象的である。一見、リビングにある高級家具という感じだろうか。その木製パネルには、たった３つのパーツしかない。ビンテージ系ルックの黒いツマミは高信頼性で知られるCLAROSTAT製ボリューム（ノッチ式ではないので一度レベルを決めたらマーキングをお忘れなく！）で、そのほかにはファンタム電源のON/OFFスイッチ、そしてファンタムONで琥珀色に光るインジケーターの３つ。何ともシンプルな作りだ。内部は最初“チューブ・アンプかな”と思ったが、トランジスターを用いたディスクリート回路を採用している。リア・パネルには金色にメッキされたアナログ入出力（XLR端子）があり、その下に専用電源との接続コネクターを用意。これまた何１つ無駄な物が無いピュアなマイクプリである。

ビンテージ機器を彷彿させる
豊潤かつナチュラルな響き

肝心の音質について。今回はボーカル、アコースティック・ギター、コンガにダイナミック・マイクのSHURE SM57、SENNHEISER MD421、コンデンサー・マイクのNEUMANN U87、それにリボン・マイクのRCA 77DXなどを立て、我がビクタースタジオ所有のマイクプリの中からTUBE-TECH MP1A、NEVE 1073、JOHN HARDY M-1とメイン・コンソールであるSSLのヘッド・アンプなどと聴き比べてみた。先に結果を言うと……SE-Pre 1はとにかくS/Nが良く、とても抜けがいい。音像がくっきりして、かつ自然な響きを持つ。最初に聴いたときに思わず“いいなぁ〜”と言ってしまったほどだ。印象はJOHN HARDY M-1に一番近く、より高音域が伸びやかになった感じである。大抵、聴いて抜けがいいと最近ありがちな“ドンシャリ”イメージが強いが、しっかり中域に腰のあるサウンドは失われることなく表現されている。4〜5kHz辺りのいわゆる“イタい”部分の音域も強調されている感じではないので、安心してどのマイクにも使えそうだ。ポップスのバラードなどの歌やピアノなど“奇麗に”録りたいときにはうってつけだろう。繊細さを求められるクラシック音楽の録音にも重宝すると思う。また、意外にもリボン・マイクの77DXともすごく相性が良い。歌で試したが、ビンテージ・リボン・マイクのあのふくよかさを保ちつつ、EQせずに十分聴ける音色に“目からウロコ”という感じであった。加えてコンガで試したところ、皮もの系などの“ドーン”といった伸びのある低域や倍音の鳴りの感じは、むしろ中低域に強烈なキャラクターを持つ1073の方が合うのかもしれないという印象。しかし、SE-Pre 1はビンテージ機器をほうふつさせる豊潤かつナチュラルな響きを持つので、楽曲、楽器構成によってうまく使い分けていけばベストな音作りが可能となるであろう。カナダからやってきた、最高の音質を得るために厳選された素材を用い、シンプルな回路構成でプリアンプ部分だけにこだわったSE-Pre 1。ワイヤリング、組み上げまで完全ハンドメイドで行われた、言わば“工芸品”とも言えるこのマイクプリは幅広いソースに対応する逸品だと言えよう。