耐久性が大幅に改善されたナチュラル・サウンドのリボン・マイクロフォン

AEAR92

AEAから新型のリボン・マイクR92が発売になりました。上位機種であるR84の開発技術をそのまま継承し、軽量化を図ったモデルとのこと。そもそもAEAは1963年にアメリカ、カリフォルニアで設立され、プロ用のテープ・レコーダーやマイクプリ、電源、ミキサーなどを設計/製造している会社です。なぜデジタル全盛のこの時代に、リボン・マイクを作ったのか? その辺りにも興味があるので、早速チェックしてみましょう。

大幅な軽量化によって
個性的なルックスを実現


まずは、目を引く少し変わった外観から。リボン・マイクのほとんどは、マグネット部分の重量の問題からでしょうか、リボンに対して水平位置のU字型ホルダーで本体を支える設計になっています。今回のR92は、そのマグネット部分が軽量化され、リボンと同一線上にマイクを固定するデザインです。また、見た目だけでなく、その重量にも驚かされます。リボン・マイクは大きなマグネットがあるという構造上、かなりの重量がある製品が多いですが、R92はSHURESM58より少し重い程度。その他の仕様としては、リボン・マイクなので中には厚さ1.8ミクロン、幅4.7mm、長さ59.7mmのアルミニウムはくが蛇腹状に折りたたまれ格納されています。指向性はこれもリボン・マイクの構造上、双指向性。パッドやローカットなどのスイッチ類は一切無いシンプルな設計となっています。

輪郭のくっきりした豊かな音質で
演奏の細かなニュアンスも表現


それでは肝心の音をチェックをしましょう。今回は、ダイナミック・マイクのSM58とコンデンサー・マイクのNEUMANNU87との比較です。まずマイクの感度ですが、SM58より若干小さく、U87と比べると20dB近く差ができてしまいました。ただし、R92自体のS/Nは悪くないので、マイクプリのレベルを上げることで対応できます。まず出力差をマイクプリで調整して、ボーカルをチェックすると……かなり印象の違いが出てきます。R92は、SM58やU87よりも中低域がかなり充実し、ウィスパー・ボイスでも子音の突出も押さえられて明りょう度が高いのです。オンマイクでもU87のように低域の変化は無く、吹かれにも強い。大きめな声量でもヒステリックなサウンドにならず、伸びやかで太く重心が低い印象です。次にアコースティック・ギター(ガット弦)でのチェックです。抜けの良さはU87やSM57の方が感じられるのですが、R92は音が太く、かといって低域も膨らみ過ぎず音の輪郭がハッキリしています。またコード弾きの際の、低/中/高域の音のスピード感も同等に感じられるのです。音の大きさの違いやピックを使った際に気になるアタック音なども、まるでナチュラルなコンプがかかっているような感じでうまく抑えられ、演奏の細かなニュアンスを表現できます。さらに比較的、小音量のパーカッションでもチェックしてみましょう。皮物系はボトム感が多くなったようで存在感が増し、金物系でもかなり高い倍音までスムーズに拾うことができます。いずれにしても、アタックだけが強調された音ではない、細かなニュアンスが感じられます。全体的な印象は音が太く、細かなディテールも失わない“音楽的なバランス”で録音できるというもの。特に、ギターやウッド・ベース、三味線などの弦楽器から打楽器など、細かなニュアンスを大事にする楽器には特に好結果が期待できそうです。また、マイク・セッティングを変えるときや、ミュージシャンの足音などのノイズで分かったのですが、ラバーのショック・マウントがかなり効果的。SM58やU87に比べても、振動などのノイズに強い設計となっているようです。振動や吹かれに弱いといったリボン・マイク特有の扱いづらさは、R92には感じられませんでした。ただ出力に関しては、高出力系のマイクが多いという現状では、マイクプリの能力次第で、現場において困ることがあるかもしれません。また、どんなに改良されていても大音量の楽器やかなりのオンマイクなどには、怖くて使いにくいかもしれませんね。また、双指向性なので、自宅で録音する場合、車の音など録音に関係のない音までも拾ってしまうという心配も考えられます。しかし、それ以外は音のキャラクターや存在感など、とても満足のいく製品です。リボン・マイクは、コンデンサー・マイクの開発以降も個性的なサウンド・キャラクターが評価され現役で使われ続けてきました。しかし、メインテナンスを含む非常にシビアな扱いを要求されることと、他のタイプにより安価な製品が多く出回ってきたため、使用される頻度が減ってきたのも事実。しかし、R92はリボン・マイクの持つ欠点から解放され、多彩なセッティングも可能になった新しい感覚のモデルです。ぜひ、あなたのバリエーションの1つに加えてみてはいかがでしょうか。デほかにもPC上へのデジタル・アウトもUSB接続で可能となるなど、細かい点までかなり強化されたアンプ・シミュレーターとなっており、今後当分はスタンダードになることは間違いないだろう。これからアンプ・シミュレーター購入予定のある方は多少無理をしてでも手に入れたいところだ。
AEA
R92
オープン・プライス(市場予想価格/96,000円前後)

SPECIFICATIONS

■指向性/双指向 ■感度/-55dBV/Pa ■周波数特性/20Hz〜18kHz(±3dB) ■最大入力音圧/135dBSPL ■出力インピーダンス/270Ω ■外形寸法/73(φ)×190(H)mm ■重量/900g