【製品レビュー】録音する喜びを生み出すマルチパターン真空管コンデンサー・マイク

BRAUNERVMA

近年、ビンテージ機材の人気が高まっています。私自身もマイクはNEUMANNのU67をはじめ数本持っていますが、その維持には大変な労力がかかります。ましてや真空管の入手が困難な機種に至っては、お金を出しても維持が難しい場合があります。結局代替え部品での修理となり、せっかくのビンテージ機材の音質はオリジナルとは似て非なるものとなってしまいます。ルックスだけのビンテージ機材が出回っている中、ドイツのBRAUNERから伝統的なビンテージ・サウンドを継承する真空管コンデンサー・マイク、VMAが発売されました。

特性や指向性パターンを
自在に設定することが可能


BRAUNERは最高の信頼性、音質を保証するために必要とされる部品を厳選し、熟練した職人によって本機を1本1本手作りさせているそうです。このマイクの特徴は、スイッチによって2種類の特性が選べる点。1つは同社の代表的なマイクであるVM1をモデルとしたモード、そしてもう1つが、ドンシャリ気味ではありますが中域も若干持ち上がった印象のVMAモードです。また指向性のパターンを連続的に変えられるのも特徴の1つ。オムニ、カーディオイド、ハイパー・カーディオイド、ブライト・カーディオイド、8の字と、それぞれの間の微妙な特性を電源ユニットに内蔵されているノブを回すことで選択可能です。どのパターンでもマイクの感度が変わらないのも特筆すべき点で、これで演奏中でもマイクをカットせずに特性を調整することが可能になります。

バランスが良くハイファイで
高品位な音色


では肝心のサウンドについて。まずはアコースティック・ギター、スチール弦のMARTIND-35とナイロン弦のクラシック・ギターで試してみました。まずはD-35。VM1モードでの試聴です。フェーダーを上げた瞬間の音の空間が心地良く感じます。これは高級マイクの特徴で、これだけでうれしくなってきます。空間ノイズが音楽的といいますか、ヤル気が出る音という感じです。低価格帯のマイクではダイアフラムや使っている素子の質が悪いなどの原因で変な周波数帯域にピークがあるため、周囲の音が奥行き感に欠けたり雑音が耳障りだったりします。いきなり楽器音ではなくアンビエンスのことを長々と書いていますが、実は音作りの重要なファクターだったりします。実際の楽器音ですが、バランス良く高域に向かってエネルギー成分が上がって行く高品位な音色です。普通にハイファイに録りたいのであれば、このままノーEQで十分です。次にVMAモードですが、少しジャリジャリ感が強調されている感じで、ギター本来の音を聴かせるというより、積極的に加工したいときにいいかもしれません。ナイロン弦では若干のハイ上がりが心地良く響きます。クラシックやジャズならVM1、ポップスならVMAといったところでしょうか。今度は女性ボーカルをVM1モードで試聴してみました。なめらかでいて適度にハイが伸びている聴きやすいサウンドです。U67に比べると中高域が抑えられ、高域から超高域にかけて徐々に伸びている感じで、ロックよりもポップスやジャズに合うのではないかと思います。VMAモードに関しては、ハスキーで硬い成分の少ない声の人に向いているように感じました。次に男性ボーカルです。これもいろいろなタイプの方がいるので一概には言えませんが、日本人にはVM1モードの方が合っているのではないかと思いました。一般的な日本人の声は欧米人に比べ中域から低域が少ない、いわゆる細く硬い声です。それが大きなドラム・サウンドやディストーションの効いたギターなどが入るオケに乗ると、バランスに違和感を感じることがあります。私はその解決法としてショート・ディレイなどを使ったダブラー効果を利用しているのですが、本機のような高品位な音だと、それほど苦労することなく目的の音像を得られるのではないでしょうか。大変高価なマイクですが、こうしたマイクを持つと録音する喜びが生まれます。それは良い音楽が生まれる条件の1つです。最後にBRAUNERからのメッセージをお伝えします。“私たちの哲学は、レコーディングは科学であるより芸術であるべきである”……良い言葉ですね。こんなメーカーのマイクを使ってみたくなりませんか?
BRAUNER
VMA
819,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜22kHz ■指向性パターン/オムニ、カーディオイド、ハイパー・カーディオイド、ブライト・カーディオイド、8の字を任意/連続的に可変 ■外形寸法/50(φ)×220(H)mm ■重量/558g