優れたデジタル・ミキサー部を誇る高品位ハード・ディスク・レコーダー

YAMAHAAW2400

02Rの発表以来、デジタル・ミキサー市場で大きなシェアを誇るYAMAHAは以前からミキサー一体型ハード・ディスク・レコーダー(以下HDR)にも力を注いでいる。もちろん同社以外のメーカーも多様なHDRをリリースしているが、最近個人的に少々思うのはMTR部に関しては各メーカーの足並みはそろってきたものの、デジタル・ミキサー部では02RやDMシリーズの豊富なアイデアが投入されている同社のHDR、AWシリーズに分があること。今回紹介するAW2400は、AWシリーズとして第二世代となる高品位なミキサー一体型HDRである。

第二世代となるAW2400の特徴と
充実した内容の入出力端子


AWシリーズのハイエンド・モデルとなる本機は、新たなデバイスが数多く実装されている。まずは、バランス調整はもちろん、オートメーションを書き込む際に必要不可欠な13本のフェーダーには02RやDMシリーズと肩を並べる100mmのモーター・ドライブ・フェーダーを採用。しかも、同クラスのHDRに搭載されているものと比較すると非常にスムーズな動きが印象的だ。そのほかに目に付くところでは、レベル監視性を高める各chに装備したピークLEDと12セグメントのステレオLEDメーター、操作状況を一目で把握できる大型の液晶ディスプレイ、随所で作業効率を高める専用のLOCATE/NUMキーやルーティングが容易に行えるQUICKNAVIGATE、チャンネルごとの詳細な設定が行えるSELECTEDCHANNELも搭載。視認性/操作性ともに進化しているのに加え、音質面でもAD/DA変換は24ビット(内部処理32ビット)となっている。次に、リア・パネルに集結した入出力端子を見ていこう。アナログ入力端子はヘッド・アンプを備えた8系統のフォーン端子とXLR端子(共にバランス型)をそれぞれ独立して併装するプロ仕様。8系統すべてにファンタム電源も供給でき、コンデンサー・マイクも使用できる(1〜4ch、5〜8chで電源のオン/オフが可能)。ch1/2にはインサート入出力を装備しているので、外部アウトボードも使用できる。また、最大16系統のアナログ入出力や、さまざまなフォーマットのデジタル入出力をサポートするオプションのMY(Mini-YGDAI)カードを挿せるスロットも一基あるのでユーザーのニーズに合わせて拡張していけるのもポイントだ。出力系ではマスター・レコーダーに接続するためのステレオ出力、コントロール・ルーム用のモニター出力に加え、任意の信号を独立して出力できるオムニ出力を4系統搭載。また、デジタルのマスター・レコーダーやCDプレーヤーとの接続が行えるデジタル入出力(コアキシャル)も装備。ほかにもヘッドフォン端子、MIDIIN/OUT、フット・スイッチ、コンピューターとの連動用としてUSB2.0端子も搭載している。デジタル・ミキサーとしての入力チャンネル数はインプット×16ch(8系統のマイク/ライン入力と、オプションのMYカード・スロット経由のデジタル入出力×8ch)、トラック×24ch、エフェクト・リターン×ステレオ4系統の計48ch仕様。このようにAW2400では多彩なソースが入力できるほか、エフェクト・バスとは別に独立したAUXを4系統も用意。録音時のモニターや外部エフェクターへの信号の送り出しなど、さまざまな用途に対応できるだろう。また、面倒なルーティングの設定もQUICKNAVIGATEのRECORDボタンを押すと入力部からレコーダーまでの信号の流れが分かりやすく液晶ディスプレイに表示される。本体上のインプットchセレクトのボタンと録音したいトラックのSELボタンを押せば希望のルーティングになり、それが画面上で確認できるのだ。

02R96やDMシリーズ直系の
チャンネル・ファンクション


各チャンネルにはYAMAHAのデジタル・ミキサーならではの強力なチャンネル・ファンクションを実装している。まず、全チャンネルに4バンドのフルパラメトリックEQとダイナミクス系エフェクトを装備。4バンドのEQはそれぞれ21.2Hzという超低域から20kHzまでを調整でき、ハイとローのEQに関してはピーク、シェルビング、ハイ/ローパス・フィルターの切り替えが可能だ。また、02R96やDMシリーズではおなじみのアナログ的なフィーリングのEQである“TypeII”も各トラックおよびBUS1/2、STEREOに搭載。実際にTypeIIを使用してみると、デジタル臭さが減って4バンドの各EQの干渉が少なくなる印象だ。ダイナミクス・プロセッサーもBUS、AUX、エフェクト・リターンを含む全chに装備。調整可能なパラメーターはスレッショルド(0〜−54dB)、レシオ(1:1〜∞:1)、アタック(0〜120ms)、リリース(6ms〜46s)、アウト・ゲイン(0〜18dB)、6段階のニーだ。また、ステレオ・リンクやプリ/ポストフェーダーの切り替えも可能。ダイナミクス系を中心に音の印象を紹介していこう。デジタル・コンプにしては非常にかかり具合が良いのだが、やはりナチュラルなかけ方が合っている。飛び道具的なキツい使い方をした場合、ただ音が引っ込んでしまうという印象だ。しかしながら、アコギや生ドラムなど、ダイナミクスの激しい楽器に軽いリミッティングをする際にはとても重宝するだろう。また、インプットの1〜8chにはゲートも同時に使用可能。これによりドラム・セットやバンドなど、マルチトラックでの録音時には重宝しそうだ。02R96やDMシリーズでも定評のある同社の内蔵エフェクトだが、AW2400もかなり高品位なマルチエフェクターを搭載している。リバーブやディレイ、コーラスなど、オーソドックスなもののほか、ディストーションやダイナミック・フィルターなどのような飛び道具系、YAMAHAのお家芸でもあるモジュレーションを複合したリバーブ/ディレイなど、使えるエフェクト/プログラムが満載だ。しかも、このマルチエフェクトを4基搭載し、内蔵エフェクトはチャンネルごとにプリ/ポストのどちらでも選択できるほか、インサート・エフェクトとしても使用可能なので、アンプ・シミュレーターやディストーションのようなひずみ系エフェクトを使用する際には便利だ。これらのパラメーターのエディットは液晶パネル右にあるSELECTEDCHANNELセクションで行う。02Rに慣れている私にとっては非常に扱いやすいが、非常にシンプルで簡単なのでビギナーでも安心だろう。具体的な操作手順を紹介すると、まずはエディットを行いたいチャンネルのフェーダー上にある“SEL”ボタンを押す。そして、SELECTEDCHANNELセクションの左に並んでいる縦のラインでDYN(ダイナミクス)、AUX、EFFECT、PAN/EQのいずれかを選択し、4つのリング・エンコーダーの下にあるボタンでパラメーターを選択して各パラメーターにアサインされているエンコーダーを回して調整をするというもの。この縦のラインと横のラインの間にアサイン先が書いてあるので大型の液晶パネルも分かりやすく表示が変わっていく。このようにとてもよく考えられたインターフェースなので操作に迷うことは無いはずだ。

付加機能を多く持ったレコーダー部
分かりやすい操作性のオートメーション


レコーダー部もなかなかのスペックで、40GBの大容量ハード・ディスクを実装し、ソングごとに16/24ビット、44.1/48kHzからレコーディング・フォーマットが選択できる。USB2.0端子を介したオーディオ・ファイル(WAV)の送受信も可能なのでコンピューターとの連携も問題なく行える。また、16ビット使用時で最大16tr録音/24tr再生、24ビットで8tr録音/12tr再生となっているので、リハーサル・スタジオなどでのバンドの一発録りやマルチマイクでの生ドラム録りにも対応可能。しかも各トラック+ステレオ・トラックにバーチャル・トラックが8trずつ用意されている。加えて、CD-RWドライブを実装しているので、CD制作を完結できるわけだ。なお、レコーダーのトラックには影響を与えずにワンタッチで録音/再生が行える“サウンドクリップ機能”にも注目したい。これはアレンジを進める上で、まだフレーズが決まっていない段階で何回も繰り返しフレーズを記録しながら行いたい場合、パート練習をしているときに“今のフレーズ録っておけば良かった!”といったときに役立つメモ録りのような機能で、気に入ったフレーズは任意のトラックにコピーすることも可能だ。また、コピー/ムーブ/イレースなどのスタンダードな編集機能に加え、高音質化を追求したタイム・コンプレッション(50%〜200%)、ピッチ・チェンジ(上下10オクターブ)のほか、ボーカルなどのピッチを修正できる“ピッチ・フィックス”という機能まで搭載。ロケート機能ではスタート/エンド/リラティブゼロ/A&B/イン/アウトなどの7つのロケート・ポイントを設定でき、マーカーも99まで設定可能だ。また、A&Bリピート、オート・パンチ・イン/アウトにも対応し、テンキーを使ったダイレクト・ロケートも可能なのでストレスなくオペレート可能だ。AW2400ではレコーダーの付加機能として“トリガー・トラック・モード”というものがある。これは各チャンネルのONスイッチを一押しするだけで24trそれぞれの再生が可能になり、イベントや演劇などで使用するBGMや効果音の“ポン出し”などにとても便利な機能だ。また、この機能はフェーダーを上げた時点で再生をするモードがある。ただし、この機能では、再生をさせるポイントはソングの先頭からしかできないので、最大でも24通りのポン出しとなる(このトリガー・トラック・モード中は通常のトラック再生はできない)。ミキサー部は前述した通り非常に充実しているが、それはオートメーションに関しても同様だ。オートメーションで書き込めるのは、フェーダー、パン、各chのオン/オフのほか、AUXやエフェクト・ライブラリーの呼び出し、EQなどで、ほとんどのコントロールが可能だ。各パラメーターをあらかじめ調整したものをシーン・メモリーにストアしてAUTOMIXスイッチを入れ、簡単な設定を少々するだけで書き込みが始められる。フェーダーはタッチセンスではなく各トラックのSEL(セレクト)スイッチを押してからフェーダーの動きを書き込むという1クッションを挟む方法だが、何のストレスも感じない。なお、オートメーションを再生する際も安いミキサーにありがちなガタガタしたフェーダーの動きでなく、レスポンスの良さが光っていたことも紹介しておこう。非常に多くの機能が搭載され、まさに2世代目のミキサー一体型HDRというのがトータルでの印象。ビギナーはもちろん、宅録歴の長いユーザーにもふさわしいMTRだと思う。マルチトラックでの同時録音、そしてしっかりとしたミックスを考えているユーザーには特にお薦めだろう。

▲エフェクターのパラメーターをエディットする際に重宝するSELECTEDCHANNELセクション。液晶ディスプレイとの連動も熟考され、とても使いやすい



▲リア・パネル。上段左からヘッドフォン出力、オムニ出力(フォーン)、モニター出力(TRSフォーン)、ステレオ出力(TRSフォーン)、マイク/ライン入力(TRSフォーン、XLR)×8、インサート端子(TRSフォーン)×2。下段からファンタム電源スイッチ(5〜8ch、1〜4ch)、MIDIOUT/THRU、MIDIIN、フット・スイッチ、S/PDIFデジタル入出力(コアキシャル)、USB2.0端子

YAMAHA
AW2400
オープン・プライス(市場予想価格/230,000円前後)

SPECIFICATIONS

■ハード・ディスク容量/40GB ■周波数特性/44.1kHz、48kHz ■量子化ビット数/16ビット、24ビット ■全高調波歪率/0.05%以下@20Hz〜20kHz/+4dBu ■トラック数(バーチャル・トラック含む)/208(16ビット)、112(24ビット) ■最大同時録音/16tr(16ビット)、8tr(24ビット) ■最大同時再生/24tr(16ビット)、12tr(24ビット) ■外形寸法/533(W)×153(H)×503(D)mm ■重量/11.5kg