この価格帯で32tr同時再生/44chミキサーを実現した一体型HDR

KORGD3200

KORGは早い時期からミキサー一体型のハード・ディスク・レコーダーをDシリーズとして発表してきたが、いずれも先進的なスペックと充実した付加機能が魅力でヒットした。今回発売されたD3200もその例に漏れず、強力な基本性能に加え、豊富なエフェクトやセッション・ドラムスなどの魅力的な機能が満載されている。D3200を実際に使用する機会が得られたので、その使用感をレポートしてみたい。

基本性能をしっかり押さえた
44ch/12バスのミキサー部


KORGには現在幾つかのハード・ディスク・レコーダーがラインナップされている。D3200はその最上位機種であるD32XD/D16XDに次ぐポジションにある製品だが、基本性能はそれほど落とさず大幅にコスト・ダウンされているのが特徴だ。最大32トラック同時再生&16トラック同時録音が可能でこの価格というのは、かなりのお買い得感があると言える。同じような価格でコンピューター+オーディオ・インターフェース+DAWソフトをそろえるとしたら、なかなか難しいだろう。実機を見た第一印象は、16ch分のフェーダーを配置しているにもかかわらず、意外とコンパクトだと感じた。両サイドには木材が使われており落ち着きのあるデザインとなっている。44ch/12バス仕様ながら、エントリー・クラスの16chミキサーが少し大きくなった程度という感じで、無理なくリハーサル・スタジオなどにも持ち込めそうだ。基本的に入出力はパネル上に配置されているので、宅録での使用には便利だろう。LCD表示パネルは未使用時は本体に埋め込まれるように収納されていて、使用するときは起こして使うタイプなので運搬時にも邪魔にならない。ミキサー部を見てみよう。アナログ入力は基本的に12ch分用意されており、すべてTRSフォーン対応。さらに、そのうち8chは高品位マイク・プリアンプ付きでXLRにも対応する。もちろんファンタム電源付きで、コンデンサー・マイクやファンタム対応のプリアンプなどが使用できる。また各チャンネルごとにON/OFFできるので、ファンタム電源を必要としない機器に無駄なストレスをかけずに済む。入力チャンネルからレコーダーへのアサインは表示パネルのパッチ・ベイ画面で視覚的に行える。チャンネル1にはハイインピーダンスのギター入力も用意されているので、パッシブ・タイプのギターやベースもプリアンプ無しでクリーンに収録することが可能。後述の内蔵アンプ・シミュレーターなどと組み合わせれば、D3200だけでもかなりの音作りができそうだ。EQは4バンド&Q可変のパラメトリック・タイプがチャンネル1〜24に用意されている(チャンネル25〜32とAUX入力などのサブミキサー部は2バンド・シェルビング)。4バンドのうち、LOW、HIGHは切り替えによってシェルビングにすることも可能。操作はLCD画面下にある16個の“ノブ・マトリックス”を使って行うため、本物のアナログ・ミキサーを扱うようにストレス無くオペレートできる。音質変化もナチュラルで可変範囲が広いので、ベーシックな音作りでは重宝しそうだ(EQは録音時/再生時とも使用できる)。また、EQのパラメーターはライブラリーとして保存して、ほかの曲などへスピーディに適用することもできる。オートメーションはシーン・メモリーの切り替えによって行う形だが、非常に簡単という印象を持った。ほとんどのミキサーの設定を記憶することができ、シーンのコピーなども可能だ。これらを駆使すれば、さほどの労力をかけずとも凝ったミックスが作れそうだ。

最大16trの同時録音が可能
定評あるREMSエフェクトも搭載


レコーダー部のスペックは、前述したように32トラック同時再生、16トラック同時録音が可能。同時録音の16トラックのうち2トラックはS/PDIF入力、さらに2トラックは後述のセッション・ドラムス用となっているので、アナログ入力による同時録音数は実質12トラックである。だが、小編成のバンドなら、D3200だけでマルチマイクの一発録りが十分可能と言える。レコーディングのスペックは44.1/48kHz対応で、通常のCD制作には問題の無いレベルだろう。16ビットに加え、24ビット・モードも使用できるため、アコースティックな音楽など繊細さが求められる場合にも活用できる。ハード・ディスクは40G
Bのものが内蔵されているので、録音時間の面でも通常の使用では十分なものと言えるだろう。もちろん、バーチャル・トラック機能も搭載され、各トラックにつき8トラックまで使用可能だ。テイクのキープや編集のバッファー領域として活用して十分おつりが来るだろう。編集機能は基本的な切り張り編集に加え、タイム・ストレッチや学習型ノイズ・リダクションなど実戦的で便利なものが用意されている。エフェクターは内部処理56ビットで、アンプ・シミュレーターにはKORG独自のREMSというテクノロジーが継承されている。このモデリング・テクノロジーにより、真空管、トランジスター、キャビネット、スピーカーなどのシミュレートが実現可能。確かに、ギターなどを直接入力して内蔵アンプ・シミュレーターを通すことにより、簡単にある程度完成された音色を作ることができる。コンプレッサー、リバーブやコーラスなどの基本的なエフェクトも完成度が高く、よほどのことが無い限り外部のエフェクターに頼る必要はないだろう。エフェクトはインサート、マスター、ファイナルという3つのステージで11エフェクトを同時に使用することができる。もちろん録音時にもコンプレッサーやアンプ・シミュレーターといったエフェクトをかけることが可能だ。同時使用できるエフェクトが多過ぎて頭の整理がつかなくなってしまうほどだが、慣れればかなり幅の広いエフェクト・ワークが可能となるだろう。D3200の操作は基本的にはエディット・コントローラーというポインティング・デバイスを使って行う。これはジョイスティックを短くしたようなものの周囲に方向キー、YES/NOキー、ENTERキーなどが配置されており、これを使って表示パネル上のカーソルを操作できるコントローラーだ。ジョイスティック状の棒はクリックみたいな感じに押し込むことができ、これで選択や確定などの動作を行う。ポインティング・デバイスに関しては、普段はマウス党の筆者だが、このエディット・コントローラーは30分ほど触っていただけで何となく操作のコツをつかむことができた。意外と自然な操作感である。さらに、EQのところでも少し触れたが、ノブ・マトリックスという縦横4個、計16個配置されたノブが表示パネルのパラメーターにそれぞれ対応していて、ダイレクトにパラメーターにアクセスできるというのもスピード感のある操作を可能にしている。トランスポート周りの操作も感覚的に理解できるようになっており、特にKORGのレコーダーに触れたことのある人ならマニュアルを見なくてもかなりのところまで操作できるだろう。

本格的なリズム・パターンが組める
セッション・ドラムス機能


D3200にはセッション・ドラムスというリズム・ジェネレーターが内蔵されている。以前のDシリーズにもメトロノーム/リズム機能としてリズム・マシン的なものが装備されていたが、これはそれをさらにブラッシュ・アップし、音楽的にも完成度を高めている。660種類ものリズム・パターンの切り替えだけでなく、ドラム・キットの変更や音色エディットもでき、単に録音時にリズム・ガイドとして使用するにとどまらず、本格的なリズム・トラックを作成することが可能になっている(トラックに録音も可能)。プリセットされたリズム・パターンはコンテンポラリーでクオリティが高く、単なるリズム・ガイドに使った場合でもいろいろとインスパイアされるところがあるだろう。VARIATIONというパラメーターで音の厚みや手数を調整できるので、リズム・ループを作るような感覚で編集できる。またコンピューターとUSBで接続し、DAWソフトとの連携作業も簡単だ。USB接続した際、コンピューター側からD3200は外付けドライブとして認識されるので、とても手軽である。逆にコンピューターの無い環境でも、標準搭載のCD-R/RWドライブでCDの作成はもちろん、データのバックアップなども可能で、D3200一台で作業を完結することができる。D3200は機能面でも充実しているが、何よりも12トラック同時録音というスペックを非常に身近なものにしてくれた点が注目に値する。自宅録音で緻密にサウンド作りを行うにも十分であり、スタジオに持ち込んでハイクオリティなバンドの一発録りなども気軽にできそうだ。レコーダーにはノート・パソコン+DAWソフトという選択肢もあるかもしれないが、ミキサーやエフェクトと一体型である手軽さとトータル・コストの点ではD3200の方がはるかに勝っているだろう。プラグイン・エフェクトなどの拡張性にこだわらなければ、間違いなくD3200がお薦めだ。

▲アナログ入出力はフロント・パネルに集約。左上からチャンネル1〜8入力(XLR×8/ファンタム電源対応)、チャンネル1〜12入力(TRSフォーン)で、チャンネル1入力のみHi-Z端子が用意される。右上は出力部で、AUX出力×2、マスター出力×2、モニター出力×2(すべてフォーン)、そしてヘッドフォン端子



▲リア・パネル。左からフット・スイッチ、エクスプレッション・ペダル、MIDIOUT/IN、S/PDIF入出力、USB

KORG
D3200
126,000円

SPECIFICATIONS

●レコーダー部 ■録音フォーマット/16/24ビット(非圧縮)、44.1/48kHz ■同時再生トラック数/32(16ビット時)、16(24ビット時) ■同時録音トラック数/16(16ビット時/アナログ×12+S/PDIF×2+セッション・ドラムス×2)、12(24ビット時) ■同期/MTC送受信、MIDIクロック送信 ●ミキサー部 ■内部処理/最大69ビット ■入力チャンネル/44ch(レコーダー×32ch+サブイン×12ch) ■バス/12(エフェクト・センド×2+AUX×2+ソロ×2+CUE×2、マスター×2、モニター×2) ■シーン・メモリー/1ソングにつき100 ●エフェクト部 ■内部処理/56ビット ■構成/インサート×8(最大)、マスター×2(最大)、ファイナル×1 ■プログラム/プリセット128、ユーザー128、ソング32 ●その他の仕様 ■周波数特性/10Hz〜20kHz(+1dB/−2dB@44.1kHz、+4dBu、10kΩ負荷)、10Hz〜22kHz(+1dB/−2dB@48kHz、+4dBu、10kΩ負荷) ■内蔵ハード・ディスク/40GB ■外形寸法/547(W)×115(H)×371(D)mm ■重量/7.8kg