クリエイティブ魂をくすぐる玄人好みの4ch仕様マイク・プリアンプ

UNIVERSAL AUDIO4110

“古き良き時代”“無骨な放送機器”“使いこなすには技術が要求される専門機器”……そんなイメージがビンテージ機器には少なからずあると思います。実際、昔の機器は現在のように誰にでも簡単に、間違いなく、失敗することなく操作ができるようなものではありませんでした。しかし、その操作の失敗や誤動作、間違った使用法の結果偶然生み出された音が、実は“ビンテージ・サウンド”と呼ばれている場合もあると思います。このUNIVERSAL AUDIO 4110は、昔のビンテージ機器が持っていた、そうした持ち味をコンセプトにした、プロのエンジニアが思わずにんまりしてしまう、とても発想豊かなマイク・プリアンプなのです。

インピーダンス・マッチングで
音色をコントロール


この4110はディスクリート・クラスAの80dBゲイン・アンプを4ch分搭載し、各チャンネルにカスタム入力トランス、PAD、ファンタム電源、ローカット・スイッチなどを装備しています。まず驚くのが、最近ではあまり見かけないマイクの入力インピーダンス切り替えスイッチがあることで、500Ωと2kΩの選択が可能になっています。マイクの出力インピーダンスは、チューブ・マイクでよく見られる50Ωから600Ωまでの間が一般的です。特にマイク・プリアンプの入力がトランス受けの場合は、インピーダンスのマッチングがレベルや音質に影響を与えるので非常に重要になります。通常、入力インピーダンスはマイクの出力インピーダンスの10倍程度までが良いとされているのですが、この4110はインピーダンス・マッチングによる音への影響を積極的にとらえ、サウンド・キャラクターとして選択できるようになっているのです。その原理を簡単に説明すると、パッシブのエレキギターをアンプで鳴らす場合、ギターのボリュームは小さくしておき、アンプの方でボリュームを上げる場合と、ギターはフルボリュームでアンプの方で音量を下げた場合では、明らかに出音に差が出ます。これはインピーダンスのマッチングに差があるために起こる現象なのです。一般的に正常な音とされるのは後者なのですが、これを逆手に取れば、音色にキャラクターを加えることができるわけです。さらにユニークな機能が、プリアンプのキャラクターを変化させるShapeコントロール・スイッチです。密度が高く、力強いビンテージ・サウンドが得られるのが“Vintage”。このモードではインピーダンス・カーブがより過敏に反応するため、より存在感のあるサウンドが得られます。さらに“Satulate”ではソフト・リミッティングが追加され、多くのサチュレーションが得られます。

クリアかつこくのある出音の
プリアンプ部


4110を実際のレコーディングで使用してみたのですが、そのセッションではウッド・ベースとドラムのトップを通した感じが印象的でした。ウッド・ベースはクリアでスピード感がある音からしんの太さが強調された音まで、入力インピーダンスとShapeコントロール・スイッチを使ってすぐにキャラクターをチョイスできたのには感激しました。ドラムのトップも、音の輪郭やスピード感が好印象でした。また、ミックス・ダウン時にライン・アンプとして使用し、音のキャラクターを変化させる使用法も面白いと思います。別のセッションでメイン・ボーカルとコーラスに使ってみたのですが、歌の前後関係などをリバーブなどを使わずに調整できたことには驚きました。さらに、ベースやキックなどのドライブ感を増すことも可能です。プリアンプ自体の音色は“1970年代のレコードがSACDでハイビット、もしくはDSDでリマスターされ、聴き直したら実はすごく高音質だったことに気付いた”……といった感じで、目を見張るようなワイドレンジではないのですが、クリアかつまろやかでコクがあります。スピード感もバランスが取れていて、すごく“音楽的な知識”を持った機材だと感じました。実際に使用した感想は、使って楽しい、クリエイティブ魂をくすぐる玄人好みのマイク・プリアンプでした。ビンテージ機器のように通すだけで音が変わる効果が得られるのはもちろん、それ以上に幅広くキャラクターを調整することができます。イコライザーやコンプレッサーを使わずに音の輪郭や奥行きをコントロールできるのは非常に便利。ビンテージ機器を駆使して得ていた質感を幾つかのつまみを操作して得られる感覚は、ほかのマイクプリでは味わえないのでは……まさに“サウンド輪郭整形マシーン”と言えるでしょう。

▲リア・パネル。上段よりマイク入力×4、ライン入力×4、ライン出力×4(XLR)

UNIVERSAL AUDIO
4110
オープン・プライス

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/マイク