設定のメモリーやステレオ・リンクが可能な英国製2chアナログEQ

ORAMHi-Def 4T

英国のメーカーORAMから新しいパラメトリックEQ、Hi-Def 4Tがリリースされた。基本的にはシンプルな2chアナログEQであるが、メモリー、リコール、アンドゥなどのデジタル・コントロール機能を持ち合わせている。操作に慣れれば多機能で便利なアナログ・プロセッサーとして重宝するはずだ。

デジタル・コントロール方式を採用し
1つのツマミで2ch同時に調整可能


では早速、機能面から紹介していこう。まずはリア・パネルから見ると意外にもシンプル。電源ジャック(デモ機は115V仕様)とアナログの入出力端子のみ(XLRまたはTRSフォーンのバランス入出力)。一方フロント・パネルは右側のブロックに電源スイッチ、出力レベル・メーターがあり、このメーターは通常表示と−10dBのシフト表示がボタン切り替えで可能となっている(アウトプット信号の−10dBパッドではない)。そしてその左にシンセやサンプラーを思わせるボタンや2ケタのLED表示が並んでいる。これらが本機のデジタル・コントロール機能を操作するスイッチ・ブロックだ。入出力ゲインを含むすべてのEQセッティングは、一時的なスナップショットとして5つ、プログラム・メモリーとして100、計105パターンの記憶が可能で、瞬時に番号やボタンで設定を呼び出すことができる。音源ごとに、あるいはラジオ・ボイスなどの特殊な設定を作ってメモリーしておけば、後から同じ設定をすぐ呼び出せるわけだ。またアンドゥ機能も備えており、いちいちツマミを戻すことなく直前のセッティングに戻って聴き比べることも可能だ。アウトボードもプラグイン・ソフトの機能を意識してデジタル・コントロール化しているのかと思わせる。本機は2ch(Ach、Bch)仕様であるが、すべての操作ツマミは1ch分だけ用意されている。つまりA、Bのどちらかのチャンネルにツマミをいったん割り当ててから操作するのだ。このためA/B切り替えのボタンがあり、ステレオで使用したい場合は“A&B”というボタンを選択すると、1つのツマミで両チャンネルをリンクしてエディットすることができる。ステレオ・ソースに対して有効になる。左のブロックのインプット・レベル/アウトプット・レベル・ツマミも同様の方法で操作する。狭いパネルに2ch分のたくさんの小さなツマミを詰め込むことなく、合理的にかつ操作しやすい配置になっているのがうれしい。電源を入れるとツマミの外周に小さなLEDが点灯し、内側のLEDにAch、外側にBchの設定位置が表示される仕組みになっている。EQとしての仕様は、ピーキングの中央3バンド、ロー&ハイのシェルビングに加えて、ローカット&ハイカット・フィルターで計7バンド。ゲイン幅はそれぞれ±15dBだ。フィルターのカットオフはローカットが12Hz〜300Hz、ハイカットが1〜50kHzで、フィルターとしてはかなりの広範囲。ロー/ハイのシェルビングEQの周波数は、低域が50/150Hzのどちらか、高域が8/12kHzのどちらかといったように、周波数を切り替える。そしてピーキングの3バンドはそれぞれ35〜350Hz、300Hz〜3kHz、2〜20kHzを担当。バンド・ワイズ(Q)はN(Narrotw)/W(Wide)をボタンで切り替える方式だ。

ヨーロッパ製らしい上品な音質
ゲイン幅が広く積極的な音作りも可能


肝心の出音は、さすがにヨーロッパ製らしい上品な音質。各バンドは±15dBのゲイン幅を持つのでかなりの変化がつけられるし、大幅に変化させたときにも嫌なひずみが感じられない。プラグイン・ソフトなどに比べるとかなり滑らかで、トータルの音質はとても素晴らしい。ストリングスやシンセ・パッド、バックグラウンド・コーラスなどの埋もれがちなステレオ音源に対しては特に威力を発揮した。操作に慣れれば録音時にも適度に使用できそうだ。リセット・ボタン1つで全パラメーターをゼロに戻せるので、耳がリフレッシュできるのもうれしい。また、各チャンネルのアウトプットにミュートスイッチが装備されているが、この機能でチェックしてみるとチャンネル・クロストークが全く無いことが分かる。両チャンネルは完全に独立されているので、全く別の周波数帯域の音源を各チャンネルへ同時に接続しても問題はなさそうだ。総合的にはシンセや楽器、ボーカルなどの単体音源に対しての音質補正はもちろん、積極的な音色作りやエフェクティブな使い方にも有効なEQではないだろうか。2ミックスに関しては、マスタリング・スタジオ用となるとバンド・ワイズや各周波数のゲイン幅をもっと細かく設定できる必要があると思うが、プラグインで音圧を上げて音を飽和させてしまうくらいなら、本機を試してみてはいかがだろうか。

▲リア・パネル。入出力端子は左側が出力、右側が入力で、chB/AともにTRSフォーンとXLRとの両方を用意

ORAM
Hi-Def 4T
オープン・プライス(市場予想価格538,000円前後)

SPECIFICATIONS

■メモリー数/105(プログラム・メモリー×100、スナップショット×5)
■外形寸法/482(W)×133(H)×245(D)mm
■重量/5.2kg(本体)