DAWでのミックスの幅を格段に広げてくれる16chサミング・アンプ

SPLMixDream Model 2384

1990年代後期、ニューヨークのヒップホップ・サウンドにおける低域の処理ではかなりの必殺技となったVitalizerをはじめ、もはや定番とも言えるTransient Designer、そして個人的には、探しまくって手に入れた思い出のMachine Headに至るまで、SPLには本当につぼを押さえた、ほかにはないコンセプトや性能を持つ製品が多い。そんな個人的には思い入れたっぷりなSPLから、サミング・アンプ(いわゆるミックス・バッファー)が登場した。それがMixDream Model 2384だ。では早速レビューしていきたい。

リミッターやステレオ感増幅機能など
無駄のない必要十分な機能を装備


まず簡単に概要から。本機はいわゆるミキサーだが、通常のミキサーに付いているEQやコンプ、AUX、CDを聴くためのエクスターナル・インプットなどは省かれており、単純にアナログ回路で音が混ざればよいということを前提にしている。インプットは16chで、これらをアナログで2ミックスにまとめることができるわけだ。基本的にch1〜16までのインプットは8つのステレオ・ペアとなっているが、ch1〜6は切り替えてモノラルにもできるため、モノラル・トラックに対してステレオ・チャンネルを使用するような無駄が無く、チャンネルを最大限利用できる。また各chとマスターにインサートも装備。さらに、トータルのリミッターもあれば、変わり種としてはトータルにかかるStereo Expanderなるステレオ感増幅機能、それにマスター・アウトにおけるトランスの有無をセレクトできるスイッチもある。その他の機能はマスターのレベル調整のみ。各chはダイレクト・アウトにもアサイン可能なので、プリアンプとしても使えるが、余計なものは本当に1つも無く、あくまでDAWとのコンビネーションを追求していて本当に潔い。

申し分のないスピード感&位相感
トランス使用時はシルキーな音質に


では肝心の音の傾向を述べたい。チェックには実際の仕事でミックスしたDIGIDESIGN Pro Toolsのセッションを使用。またそのミックスの際に使ったハンドメイドのミックス・バッファー(NEVE 1272を改造したもの。8IN/2OUT)、本機、そしてPro Toolsの内部ミキサーという3つで比較した。本機の第一印象は、音のスピード感、位相感ともに申し分なく、クラスAディスクリートをうたっているのはダテじゃない。特に顕著なのが高域のきらびやかさで、レンジ感やスペースの広さが特徴的。低域のまとまり感や押し出し感は、比較した中では中間に位置する感じだが、特筆すべきは音のアタック感でその早さはダントツな印象。またレンジ感の広さから空間系のエフェクトが非常によく聴こえ、“ちょっと多くかけ過ぎたかな”と思うくらいの印象の違いにすらなった。中低域から低域の押し出し感やまとまり感はNEVEと比較すると多少物足りないが、アタック感でその不足を補っている印象なので、全体としては逆に現代的と言えるかもしれない。前述のStereo Expanderであるが、かなり自然な印象で、位相をいじって広げているのは明らかであるが、これほど自然なのはかなり珍しい。この機能だけでも個人的には購買意欲がわく。リミッターに関してはパラメーター的にもスレッショルドのみだし、ハードにかける方向というより軽く抑えるタイプのもので、派手にいきたい場合はインサートを利用してほかの機材で攻めるのが正しいと思われる。さらに本機では、マスター・アウトにLUNDAHL社製のトランスが採用されていて、これをオンにすると高域のシルキーさが増し、音の粘りみたいなものも増す。トータル的に音圧感、空間の大きさともに明らかに増した印象である。本機を使用すると音の抜けやスペースの大きさが明らかに違って聴こえ、エフェクトのニュアンスやバランス感に無理がなくなるなど、ミックスにおいてかなりのアドバンテージを得られるように思う。特に低音が多いダンス・ミュージックや音数の多い曲などにおいてその効果は高いだろう。もし、DAWソフトの内部ミキサーしか使っていない人ならば、ぜひ一度お試しを。音の好き嫌いはあるとしても、音の違いはすぐ分かるはずだ。

▲リア・パネル。右端には縦にインプット1〜8(D-Sub25ピン)、インサート・センド1〜8(D-Sub25ピン)、インサート・リターン1〜8(D-Sub25ピン)が並ぶ。その左にはインプット9〜16(D-Sub25ピン)、インサート・センド9〜16(D-Sub25ピン)、インサート・リターン9〜16(D-Sub25ピン)、さらに左にはダイレクト・アウト1〜8(D-Sub25ピン)、ダイレクト・アウト9〜16(D-Sub25ピン)、マスター・インサート/エクスパンション/アウト2(D-Sub25ピン)が並んでいる。その左はモニター・アウトL/R(XLR)とマスター・アウトL/R(XLR)

SPL
MixDream Model 2384
756,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/1Hz〜220kHz(±3dB)
■最大入力レベル/+28dBu(@1kHz)
■最大出力レベル/+28dBu (@1kHz/全高調波歪率:−95dBu)
■ダイナミック・レンジ/125dB(20Hz〜22kHz、A-weighted、全chアクティブ)
■クロストークL/R/97dB@1kHz
■入力インピーダンス/1kΩ(入力1〜16、拡張、インサート・リターン)
■出力インピーダンス/82Ω(トランスフォーマー無しのマスター/モニター出力、インサート・センド)
■出力インピーダンス/65Ω(トランスフォーマー付マスター/モニター出力)
■外形寸法/482(W)×88(H)×237(D)mm
■重量/6.6kg