クリアな音を引き出すADコンバーター搭載1Uサイズの8chマイクプリ

MACKIE.Onyx・800R

ミキサー製品などで読者の方々にもかなりなじみが深いと思われるメーカー、MACKIE.より、1Uサイズの8chマイクプリでADコンバーターも搭載した、Onyx・800Rが発売された。最近機材の少ないスタジオも多いし、野外でのレコーディングやライブ・レコーディングが増えてきており、そんな場合に“うーん、こんなのが欲しかった”と思わせるとても有効なマイクプリ/ADコンバーターである。組み合わせによっては、DAW中心のスタジオから、ライブ・レコーディング、PAとあらゆる状況、場面で活躍しそうだ。早速、チェックしてみた。

聴き疲れしない素直な音質を生み出す
充実の装備を持ったマイクプリ


まずは肝心のマイクプリ部から触れていこう。全チャンネルにインプット・ゲイン、位相反転、ハイパス・フィルター(75Hz、−18dB/oct)、48Vファンタム電源、マイク/ライン切り替えスイッチが独立して装備されている。1Uサイズでここまで充実した装備は、なかなかないと思う。ドラム・レコーディングなどにおける位相の問題の対処、あるいは、ダイナミック/コンデンサー・マイクが混在する録音には当然必要となるスイッチ群だ。背面にマイク入力用のXLR端子が8ch分、ライン入力にはD-Sub(25ピン)端子がうまくレイアウトされている。アナログ・アウトも同様に25ピンのD-Sub端子だ。このようにマイク入力とライン入力が完全に独立しているので、両者をつなぎ換えなくても済み、使い勝手も良い。さらに、ch1/2ではインピーダンスを300Ω、500Ω、1.3kΩ、2.4kΩの中から選べるようになっている。ほかのchでは2.4kΩ固定だ。通常のダイナミック/コンデンサー・マイクであれば固定の2.4kΩのインピーダンスで問題ないと思うが、リボン・マイクやアンプ付きの真空管マイク、特にリボン・マイクの中でもインピーダンスの低いものはこれが生きてくる。また、通常使用で問題のないダイナミック/コンデンサー・マイクでもインピーダンスを変えて積極的に音作りの“技”として使い込んでいくこともできる。さらに、このch1/2には、MID/SIDE DECODEというMS方式による広がりのあるステレオ・イメージを作り出す機能が装備されている。ch1に単一指向性のマイク、ch2に双指向性マイクを接続し、背面にあるMID/SIDE DECODEボタンを押すと、MS方式のマイクの効果が得られるという仕組み。これは特に音数の少ない曲やSE的に使う音に威力を発揮する。またch7/8にはフロント・パネルにHi-Z入力を装備。これでギターやベースなどを手軽に録音することが可能だ。例えばギターを全くのクリーンな音で録音し、その後にプラグインなどでひずませ、音色を変えるという場合に、きちんとHi-Z入力を通すことにより高域の輝きが違ってくるので、積極的に使っていきたい。重要なマイクプリ部の音質についても触れていこう。ダイナミック/コンデンサー(トランジスター真空管)、リボン・マイクと試してみたが、どのマイクにおいても明瞭度の高いクリアな音質。同社のミキサーの傾向を引き継ぎ、グレード・アップした感じだ。またほぼ1日中ライン入力を通して作業をしたが聴き疲れもなく、とても素直な音という印象を受けた。強烈な個性や味わいこそ無いが、この価格帯では一皮むけた音質なので安心して長く使えるキャラクターの音である。

サンプリング・レートを上げるごとに
明るい臨場感が増すADコンバーター


次は本機のもう1つの機能、ADコンバーターだ。サンプリング・レートは、32〜192kHzまでの7段階で切り替えができ、また特筆すべき点は、AES/EBU、S/P DIF、ADAT(S/MUX対応)とあらゆる形式でのデジタル出力が可能な点だ。そして、やはり気になるところは192kHzの音質である。この価格帯、チャンネル数で、ここまでのハイサンプリング・レートに対応しているのは本機だけではないだろうか?今回は48/96/192kHzでチェックしてみたが、サンプリング・レートを上げるごとに明るく、空気感、臨場感が増し、192kHzでは非常に細やかなニュアンスまで再現された。特別に上下が伸びているわけではないが、同じレンジの中で解像度が高くなっていく。チェックした中で一番好印象だったのは48kHz、AES/EBUでの変換だった。プロ・スタジオでは、一番よく使われるフォーマットだと思うが、非常にしっかりした音質で、本機の持つ性能が一番生かせると思う。また24ビットから16ビットへ変換させるディザ機能も装備されており、16ビットに落とし込む場合のひずみ感を押さえ、滑らかに変換してくれる。ここまで本機を紹介してきたが、とにかくベーシックな音質と機能の装備が、さまざまなシチュエーションに対応する。現在、DAWスタジオなどで一通りの機材を確保しており、インプット部分をより整えたいと考えている人などもいるのでは? そこに機能的にも、音質的にも対応してくれるのが、このOnyx・800Rだ。多分、多入力のオーディオ・インターフェースとの相性は抜群に良いように思う。末永くシステムの中枢となる、良妻賢母的な製品と言えよう。

▲リアパネル。左からマイク入力(XLR)×8、MID/SIDE DECODEスイッチ、ライン入力(ch1〜8/D-Sub25ピン/バランス)、ライン出力(ch1〜8/D-Sub25ピン/バランス)、オプティカル・アウト、ワード・クロック入力端子、ターミネーション・スイッチ、バランス・シグナル切替えスイッチ、AES/EBU/S/PDIFフォーマット切り替えスイッチ、ダブル・ワイアー/シングル・ワイアー切り替えスイッチ、デジタル出力端子(D-Sub25ピン)、電源コネクター

MACKIE.
Onyx・800R
オープン・プライス(市場予想価格168,000円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜30kHz(+O、−0.1dB。マイク入力からライン出力でユニティ・ゲイン時)
■全高調波歪率/0.0007%以下(20Hz〜20kHz@+4dBu。マイク入力からライン出力でユニティ・ゲイン時)
■ダイナミック・レンジ/123dB以上(マイク入力〜ライン出力)、113dB以上(ADコンバーター経由)
■入力ゲイン・コントロール・レンジ/マイク入力:OdB〜+60dB、ライン入力:−20dB〜+40dB
■サンプリング周波数/32/44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz
■外形寸法/483(W)×365(D)×44(H)mm
■重量:4.8kg