高感度でフラットな音質のハンドヘルド・タイプ・コンデンサー・マイク

M-AUDIOAries

コンピューター・ベースのホーム・スタジオ用製品を数多くリリースしているM-AUDIOより、ハンドヘルド・タイプのコンデンサー・マイクが発売されました。同社は今や、音の入り口であるマイクから、出口となるモニター・スピーカーまでスタジオ仕様の機材がそろう人気メーカーです。かつてはMIDIMANというブランドで各種インターフェース類も作っており、その製品群は今に受け継がれています。昨年AVIDに買収されましたが、M-AUDIOというブランド名は継続されるそうで、いわばソフト系メーカーと、ハード系メーカーの合体といったところですね。同社は、マイクに型番ではない名前を付けるのが好きらしく、先発のスタジオ用マイクもSolaris(太陽)、Luna(月)と名付けていますが、今回の新製品も天文系のネーミングで、Aries(おひつじ座)となっています。

コンデンサー・マイクの
特長を生かす高感度タイプ


本機は48Vファンタム電源で動作するコンデンサー・マイク。そのルックスですが、本体の下半分にやや膨らみを持たせてあり、自然と手になじむ持ちやすいデザインです。ただ表面がツルツルに仕上げられているため、人によっては手から滑らせることもあるかもしれません。ウィンド・スクリーン部は、ダイナミック・マイクのSHURE Beta57Aに近い感じ。ちなみにウィンド・スクリーン取り付けネジのピッチはBeta 57Aと同じでした。ハンドヘルド型コンデンサー・マイクは、高感度型と、ポピュラーなダイナミック・マイクが持っているのと同程度の感度である標準感度型に大別されますが、本機は高感度型です。代表的なダイナミック・マイクより+16dBほど感度が高くなっています。これは実測してみましたが、ほぼメーカーの発表値通りでした。一般的なハンドヘルド型コンデンサー・マイクが感度をダイナミック・マイクとほぼ同程度に抑えているのに対し、あくまでこのタイプの長所である高感度な特性を生かすというポリシーがうかがえます。またコンデンサー・マイクは、その構造上アンプを内蔵しているのですが、アンプ部のノイズは十分低く抑えられています。ただし、最大音圧レベルは134dBと、一般的な同タイプのマイクよりやや低めです。つまり、やや小さめの声量向きと思われます。音質は、クセがなくフラットで、一般的にこのタイプのマイクに対してイメージされやすいハイ上がりな傾向はありません。テストに同席した渋さ知らズのPAエンジニア、田中篤氏も“シャキシャキした音質でシンバルの音がカブって困るような、ハンドヘルド型コンデンサー・マイクにありがちなトラブルが少ないのでは”とのこと。

ハイパー・カーディオイドに近い
鋭い特性を持った単一指向性


メーカーが自信を持ってうたうハンドリング・ノイズの少なさについては、十分に合格ライン。同程度の感度を持つ一般的なマイクと比べてもノイズ比が低く抑えられています。指向性は単一となっていますが、ハイパー・カーディオイドに近いと思われ、さすが小型カプセルを採用しただけあって、特に90度方向からの音はかなり広い周波数帯域でカットされています。ダイナミック・マイクと同じように、振動板の周りにマグネットやヨークなどの部品がないので、指向性を持たせるための逆相導波が比較的容易にできるのでしょう。ただし、スクリーン部を手で覆ってしまった場合、本機も無指向性マイク同様にハウリングなどが起こるので、持ち方には注意が必要です。本機の市場予想価格は15,750円前後。30年前に、比較的安価なダイナミック・マイクでさえ6万円を費やして購入していた筆者としては、最近の製品の低価格化に複雑な思いが込み上げてきます。というのも、昨今のコンデンサー・マイクは低価格化の影響からか、仕上げの精度についてまだまだといった製品が散見されるのです。本機も付属する専用マイク・ホルダーのネジ部などはやや造りが甘いように感じました。しかし、本体における加工精度は合格点と言っていいでしょう。本機はコンデンサー・マイクなので、ライブ・ハウスなどに持ち込む場合はPAにお願いしてファンタム電源を送ってもらわねばなりません。接続する前には“今から、マイクを挿しまーす”と声を掛け、片付ける前には“マイク、抜いてもいいですか〜?”という確認が必要。ステージが終わった後に自分で声を掛けるのはちょっと恥ずかしいかもしれませんが、これも気に入ったマイクを使うための試練(?)なのでしょう。
M-AUDIO
Aries
オープン・プライス(市場予想価格15,750円前後)

SPECIFICATIONS

■指向性/単一
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■感度/13.8mV/Pa(−37dBV re 1V/Pa)
■最大音圧レベル/134dB SPL
■等価雑音レベル/17dB A-Weighted
■出力インピーダンス/200Ω
■推奨ロード・インピーダンス/1kΩ
■プリアンプ・トポロジー/クラス A FET
■電源条件/48V ファンタム電源
■接続/XLR
■外形寸法/40(φ)×168(H)mm
■重量/260g
■付属品/ジッパー・バッグ、 ハード・マウント