定評あるLA-2AとM610の実力を継承したチャンネル・ストリップ

UNIVERSAL AUDIOLA-610

TELETRONIX LA-2Aと言えば、“エンジニアで使ったことがない人は居ない”というくらい有名なビンテージ・コンプレッサーの1つです。僕の必ず使う機材リストの中にも常に入っているくらいです。現在は復刻版も出ているし、プラグインでもシミュレートされたものがリリースされているので、それらを使ったことがある人も居ることでしょう。ちなみに、もともと古いものなので以前はなかなか良い状態のものを手に入れるのが難しく、復刻版が出たときはすごく興味を引かれたものです。

そのLA-2Aを、マイクプリとして定評のあるUNIVERSAL AUDIO M610と1つにしたような仕様のチャンネル・ストリップ、LA-610が発売されました。マイクプリ、EQ、コンプの各部にそれぞれ真空管を用い、特にコンプにはクラシックLA-2AスタイルのT4オプティカル・ディテクターが採用されているというこの製品、早速見ていきたいと思います。

必要なファンクションだけを備えた
分かりやすいパネル構成


まず外観ですが、モノトーンの色調が良いですね。古めかしいツマミも印象的です。VUメーターは少し小さめですが、作業上は問題ないでしょう。レイアウトは中央から左側にマイクプリ部、そして右側にコンプ部という構成です。まずはマイクプリ部から見てみましょう。左上はゲイン・ツマミで、設定値は−10/−5/0/+5/+10dBの中から選びます。その下は500Ω/2kΩ/13.8kΩ/47kΩ/2.2MΩのインピーダンス切り替えが可能なツマミです。その右には−15dBのPAD/フェイズ/+48Vファンタム電源スイッチ、Hi-Zイン(フォーン端子)、そしてレベル・コントロール・ノブが配置されています。さらにその右はEQ部で、HIGHは4.5/7/10kHz、LOWについては70/100/200Hzの中からポイントを選ぶことができます。共に±9dBの範囲をステップ式でコントロール可能です。一方、右のコンプ部は至ってシンプルです。ピーク・リダクションとゲイン・ノブに加え、VUメーター切り替えとコンプ/リミッター/バイパス切り替えツマミが配置されています。ピーク・リダクションでコンプの深さを決めて、最終的なレベルをゲインで調整するという感じでしょうか。メーター切り替えはプリアンプ後のアウトと最終的なアウト、そしてリダクション量の3種類があります。特にM610の方にはVUメーターが付いていないため、本機の仕様は便利ですね。またリアにはマイク・イン、ライン・イン、ライン・アウトがそれぞれXLR端子で用意されています。

通すだけでニュアンスの出るコンプ部
マイクプリ部のひずませサウンドも良好


では実際に使ってみたいと思います。最初にボーカルを通して使用してみました。音色的にも太く、歌が前に出てくる感じで、とても好印象でした。そして操作性が良いですね。パッと手がツマミに伸びるレイアウトなので、歌録りなどサッと調整したいときに便利です。しっかりとした色付けができ、オールマイティではないかもしれませんが、“これでしか出ない音”は魅力です。次にベースを入力してみました。マイクプリ、EQ、コンプのすべてに真空管を使用しているためか、とても温かみのある、そしてパンチのある音がします。隣にビンテージのLA-2Aを置いて比較しながら使ってみましたが、本機はクラシックLA-2AスタイルのT4オプティカル回路を用いているというだけあって、ビンテージのLA-2Aに迫る印象を得ることができました。通しただけでニュアンスが出るのは良いですね。ただ“LA-2Aスタイル”というキャッチ・コピーが付いているだけに、LA-2Aそのままの音を求めている人は最初からLA-2Aを使う方がよいかもしれません。復刻版もありますしね。LA-2Aに比べると、本機の方が奇麗なコンプレッション具合で、深くかけても自然でつぶれ過ぎず、ナチュラルな印象でした。EQも細かい調整はできませんが、ローカットをしたいときや、少し明るい雰囲気にしたいときなど補正的に使うのに便利ですね。よくボーカルのレコーディングで、マイクプリとコンプをつないでパッと録音しようと思ったときに“少しだけローカットしたい”という場合があります。そういった場面で何かと重宝しそうです。今回は上記以外のパートの録音を試せなかったので、DAWに録音されたいろいろな音を入力してみましたが、なかなか作業しやすかったです。ライン入力も付いているし、本機をコンプのみの用途で使う場合も、コンプに送るサウンドをマイクプリでレベル・コントロールしたり、EQできるのはLA-2Aには無い本機の利点です。ちなみに、あえてマイクプリで入力音をひずませてみたりもしてみましたが、そのひずみの古くさい感じがなかなか良い印象でした。やり過ぎはよくないかもしれませんが、ベースやドラムに使うと面白いと思います。ここはいろいろと試しがいのある部分でしょう。最近いろいろなチャンネル・ストリップが各社から出ていますが、本機は高品位なサウンドと、録音時にもパッと作業できる操作性が利点です。こんなに使いやすくしっかりした製品がこの価格で手に入るというのは、チャンネル・ストリップの選択の幅がますます広がりますね。

▲リア・パネル。右上にライン・アウト、ライン・イン、マイク・イン(すべてXLR)が並ぶ

UNIVERSAL AUDIO
LA-610
236,250円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/500Ω/47kΩ(マイク)、20kΩ(ライン)、2.2MΩ/47kΩ(Hi-Z)
■最大マイク入力レベル/−8dBu(入力インピーダンス2kΩ、15dBパッド・イン)
■周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.5dB)
■外形寸法/483(W)×89(H)×310(D)mm
■重量/5.5kg