【製品レビュー】RODEC創業50周年を記念したDJミキサーMXシリーズの集大成モデル

RODECMX180 Limited Edition
1954年にスタートしたベルギーのブランド、RODECが今年で創業50周年を迎えました。それを記念して発売されたのがMX180 Limited Editionです。同社はマニア向けのハイクオリティな真空管アンプやチューナーなどの製造からスタートしたものの夜遊びが高じてバーの音響システムにかかわるようになり、1960年代にはディスコ・ミキサーや単体クロスフェーダーを開発。1986年に世界で初めてインプット・チャンネルに3バンドEQを搭載したDJミキサーMX18を発表し、DJから絶大なる支持を獲得しました。1990年にクロスフェーダーを搭載したMX180を発表。これがヨーロッパを中心に全世界的に認められ、1997年にMKII、1999年にはMKIIIと基本設計はそのままでマイナーチェンジを繰り返してきました。現在、MX180シリーズはテクノ系DJの間ではDJミキサーの最高峰とされ、事実日本国内においても有名クラブには必ずと言っていいほど常設されているミキサーです。

音楽的なイコライジングができる
3バンド・チャンネルEQが秀逸

創業50周年を祝した本機は、MKIIとMKIIIのいいとこ取り+αといったところです。概観上ひときわ目を引くのはフロント・パネル右上に光る"r"のロゴ。基本的な仕様はMKIIIに即したもので、4つのステレオ入力チャンネルすべてで、ターンテーブル、CD/DAT、MD/AUX、マイクの計4種類のソースを接続してセレクトできるという豊富な入力端子を持ち、各チャンネルに3バンドのEQを装備。加えて同じく3バンドのEQを持つマイク入力も別途用意されています。出力に関しては2種類のマスター・アウトとモニター・アウトがあり、マスター1をメイン・フロアのPAに、マスター2をサブ・フロアのPAやレコーディング用に使用することができます。

まず従来のMX180シリーズと共通する特長から見ていきましょう。長年MX180シリーズに触れている実感として述べさせていただくと、何といってもその出音。テクノやハウスにマッチした豊かでパンチのある低音とエッジの効いた抜けの良い中高音。ミキサーにおける命題とも言える各チャンネル音の混ざり具合。レコードによって音の質感が違うのを魔法のごとくなめらかになじませます。多少のピッチ・コントロールのズレさえもカバーしてしまうのは驚きです。好みもあるようですが、チャンネル・フェーダーの独特のカーブによって低レベルでのコントロール幅が広く、非常に滑らかなフェード・インが可能。同時にフルで出していた音を若干抑えたいときに素早くコントロールでき、また歯切れの良いリズミカルなフェーダーさばきもしっくりとキマります。

チャンネルEQが秀逸なのも優れた特長の1つです。ローが100Hz、ミッドが1kHz、ハイが10kHzと明快なポイントで、それぞれが±13dB。これはアイソレーター的に出音を完全にカットする±24dB以上のEQと比較すると、数値的に寂しいものに思えるかもしれません。ところがさにあらず! 極端にカットしてしまうEQではほかの帯域にも影響を与えてしまいます。例えばローをカットしたときにミッドにも影響を及ぼし、ミックス時に残しておきたいボーカルなどのキモの部分が削られてしまうのです。MX180シリーズではそれが無く、非常に音楽的なイコライジングが可能です。単にEQを微調整すればいいだけじゃないかという声もありそうですが、ダイナミックなDJプレイ中に微細なツマミ操作はそぐわないものです。その点で"分かっている"設計と言えます。

使いやすさで言えば、DJミキサーに必要な機能だけを備えたシンプルなインターフェースも重要です。各フェーダーやツマミは余裕を持ったスペースで配置されていて、明快かつ操作性に優れています。DJのポテンシャルを最高に引き上げてくれて、プレイをうまく聴かせる魔力があります。

2系統のマスター・アウト端子に
XLR/RCAピンの両方を装備

従来モデルと本機の相違点は、まずマスター・アウト2系統共にXLR端子とRCAピン端子を装備している点です。大会場のサウンド・システムからホーム・スタジオまであらゆるシーンに対応します。MKIIIから装備されたチャンネル・パンや、別途用意されたモニター出力端子とフェーダー、それにPFL(ヘッドフォン・モニター)用のレベル・メーターなどはそのままで、MKIIにはあったのにMKIIIでは消えていたエフェクト・インサートが復活しています(個人的に一番のポイント!)。ただし、これはRCAピン接続でなくY字のインサーション・ケーブルを使用します。またMKIIIではヘッドフォンの左耳側からモニターするソースをPFLにするかマスターにするかを切り替えるスイッチが付いていましたが、本機では両耳を通してPFLとマスター・アウトのバランスをクロスフェード的に調整するツマミが採用され、劣悪なモニター環境下においても焦ることなくピッチ判断が可能です。また各チャンネルのPFLセレクト・スイッチが従来のレバー式からプッシュ・ボタン式に変更され、LEDも付いたためモニター中のチャンネルを視覚的に確認しやすくなっています。一方、これまで背面に装備されていた外部プレーヤー用のリモート・コントロール・ターミナル・オプションは姿を消しました。ここにも必要最少限にこだわる同社の意気込みが感じられます。

ここまで見てきたように本機は今までで最強、かつこれ以上の発展は望むべくもない完成形のモデルと言えるでしょう。

▲リア・パネル。一番左は2つ目のヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)。その右は上からMASTER OUT L/R×2(XLRオス)、続いて上からMASTER OUT L/R×2(RCAピン)、MONITOR L/R(RCAピン)、EFFECTSインサートL/R(TRSフォーン)。その右はDJ MICイン(XLRメス)とEFFECTSインサート(TRSフォーン)。一番右は4ch分の入出力端子で、各チャンネルごとに上からMD/AUX(RCAピン)、CD/DAT(RCAピン)、MIC(XLRメス)、PHONO(RCAピン)の各入力端子。最下段はRECORD OUT(RCAピン)

RODEC
MX180 Limited Edition
220,500円

SPECIFICATIONS

■トーン・コントロール/Bass±13dB@100Hz、Middle±13dB@1kHz、High±@10KHZ
■内蔵ローカット・フィルター/−25DB@10Hz
■外形寸法/482(W)×310(D)×150(H)mm
■重量/6.3kg