ルックス、信頼性、サウンド、すべてにおいて満点の2ch VCAコンプレッサー

DBX162SL

以前から気になっていた、なまめかしいアルミ・ブルーのDBX 160SLを思い起こさせるルックスを持つ162SLが今回のレビュー対象です。

160SLとほとんど同じ機能の2ch VCAコンプレッサーで、なおかつツマミやメーターのレイアウトもほぼ同じです。しかし、パッと見はかなりおしゃれ(?)というか派手というか美しいというか、見事なくらいにパープルなのです。その美しい2Uのパープル・ボディにきらめく多数のLEDのスイッチや明るいVUメーター、そしてアルミ無垢の削り出しの操作つまみがステレオでレイアウトされているのですから、私のような“スタジオ機械フェチ”には、たまらないルックスなのです。

音声出力の端子には
JENSEN製トランスを採用


残念ながら160SLを使ったことがないのでその違いは検証できないのですが、スペックを見た限りではインピーダンスをはじめかなり違いがあるようで、後継機種ではなく兄弟的なものと考えた方が良さそうです。仕様面で大きく異なっているのは入出力の端子や、160SLではオプションのカードを追加することでデジタル出力が可能だったのに対し、162SLはアナログ専用となっているところなどでしょうか。さて、そのスペックから紹介していきましょう。音声入力の端子は、自宅録音でも非常に便利なXLRとTRSフォーンになっています。電子バランス回路でインピーダンスは50kΩ、最大レベルが+24dBuです。サイドチェイン入力(リターン)端子はTRSフォーンのみ、電子バランス回路でインピーダンス40kΩ。続いて音声出力の端子は、入力と同じくXLRとTRSフォーンで型式はトランス・バランス(なんとJENSEN製のトランスを採用!)、インピーダンスは30Ω、最大レベルが+24dBuです。サイドチェイン出力(センド)は、端子がTRSフォーンで型式は疑似バランス、インピーダンスは100Ωです。なお、周波数特性は2Hz〜200kHz(+0/−3dB)、全高調波歪率が0.008%(+4dBu、1kHz、0dBゲイン)、ダイナミック・レンジは117dBになっています。

ひずんだ野太いサウンドから
自然なリミッティングまで幅広く対応


さて、実際に使ってみてのレポートをお伝えいたしましょう。DBXといえば、160や165には随分とお世話になったものですが、サウンド的なファースト・インプレッションはまさに“165そのもの”です。厳密には165ほど野蛮な使い方はできないものの、いかにも165的な温かく太いサウンドが得られます。もちろん、ナチュラルな効果を得ようと思えば、問題なくその期待に応えてくれます。最も好印象だったのは、何といっても操作性とその操作によって得られるサウンドのバランスの良さです。視認性という意味では、ゲイン・リダクション・レベルをメーターで見ていても大まかなレベルが分かる程度なのですが、つまみ操作と音の変化のリンク感は素晴らしいと言えるのではないでしょうか。例えばレシオの調整をしていても、“なるほど”というくらい耳で音の変化が分かります。音が最も変化するときのつまみの位置が、時計で言う1〜2時にあるあたりも、“さすがプロ機”という感じです。また、ステレオ・カップリング時の操作も完ぺきと言えるでしょう。アウトプット・ボリュームを含むすべての操作がLチャンネルだけで行えるため、確実な操作が可能になっています。ニー特性をなめらかにするOVEREASYモードも、この162SLの特筆すべき機能だと思います。信号がスレッショルド・レベルに近づくにつれて徐々にゲイン調整回路が作動し始め、スレッショルド・レベルをある程度超えたところで、設定通りのコンプレッション処理が行われます。簡単に説明すると“厳密にパラメーターを調整しなくても、自然なコンプレッションを得られる”というものです。またスレッショルド・レベルを想定できないような場合でも、162SLが自動的にコンプレッションしてくれるのですが、これも先述した操作感と同様、耳で聴いてすぐにその効果が分かるほど効きの良いものです。また、信号の内容によってアタック・タイムとリリース・タイムを自動的に設定するオート・モードを併用すると、DBX歴代の機種同様に自然なコンプレッションを得ることができるので、コンプレッサーの知識が少ない方でも難度の高い操作が可能になっています。また、DBX特有の機能の1つであるピーク・ストップ・レベルの調整や、ゲイン制御とソフト・クリップ回路を組み合わせたPeak Stop Plusモードでは、まさに“DBXらしい”ひずんだ野太いサウンドを得ることもできます。これはあくまでも特殊な、音作り向けの使い方なのですが、中域にガッツがあり、個人的にはとても好きなサウンドです。162SLはこのように積極的な音作りから、自然なリミッティングまでさまざまな用途に対応する、本当にプロフェッショナル機のかがみのような1台なのです。この価格でステレオ・カップリングできる2ch分のコンプレッサーが手に入れられるのは、にわかに信じがたいことです。ルックス、信頼性、サウンド、すべてにおいて満点という感じでしょうか。

▲リア・パネル。左からチャンネル2のアナログ出力(XLR、TRSフォーン)、サイドチェイン・リターン/センド(TRSフォーン)、+4dBu/ー10dBV切り替えスイッチ、アナログ入力(XLR、TRSフォーン)、グラウンド・リフト・スイッチ、チャンネル1も同構成

DBX
162SL
283,500円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/2Hz〜200kHz(+0/ー3dB)
■全高調波歪率/0.008%(+4dBu、1kHz、0dBゲイン)
■ダイナミック・レンジ/117dB
■外形寸法/483(W)×89(H)×254(D)mm
■重量/5.1kg