大音量でも輪郭が見えやすく信頼性の高いパワード・ニアフィールド・モニター

DYNAUDIO ACOUSTICSBM5A

スタジオで使うモニターとしての理想は、気持ちいい音が鳴って、そのスピーカーで作り込んだ音がどのスピーカーでも同じように聴こえること。筆者のホームグラウンドTAKEOFF STUDIOでは、KENWOOD LS1001というオーディオ・スピーカーと、YAMAHA NS-10M、MACKIE. HR824をレコーディングの用途によって使い分けています。LS1001は筆者の自宅にもある音楽鑑賞用のもので、ミックスの確認などに使っています。いい感じで低音が鳴るのですが、大音量での再生には適していません。ですからバンドの一発録りなど、コントロール・ルームでギターやベースを演奏するといった場合は、NS-10Mを使用することが多いのです。音圧で選ぶならばHR824ですが、環境的に低音が回ることがあり、ベーシストから弾きにくいと苦情が来たり……そんなところへ本機の試聴のお話をいただきました。

“聴こえる”というより“見える”音
くっきりしたアコースティックな響き


本機は2ウェイ・アクティブ・ニアフィールド・モニター、いわゆるパワードのスモール・スピーカーです。背面には+4dB/0dB/−10dBの入力切り替え、ハイパス・スイッチとロー/ミッド/ハイの3バンドEQが付いています。各バンドとも周波数固定で、設定できるゲインも3段階に決められています。外観は最近よく見るようなモニター・スピーカーと似ているのですが、より洗練された都会的な感じ。サイズはNS-10Mと同じくらいですが、持ってみるとずっしりとした重量感があります。今回チューニングはフラットの状態です。普段NS-10Mを置いているスピーカー台に幅およそ1mの間隔で設置し、電源をつないでYAMAHA 02Rからのモニター・アウトを差し込みます。まずはロックのCDを大音量で聴いてみました。第一印象はくっきり!という感じ。パワードと言えばデフォルメされた音という先入観があったのですが、非常にアコースティックな響きです。高域はボーカルのざらつき感が奇麗に出ていて中高域がバシッと前に来ます。ドラムのハイハットの切れもいい感じです。大音量で聴いていても高域のひずみ感が少なく輪郭がちゃんと見えてきます。50Hz〜21kHzで±3dBの周波数特性も納得という感じですね。耳に痛い感じは全くありませんでした。低域もこの大きさの割に相当出ています。しかし、スピーカー台自体の厚みが無いせいかやや低音楽器が濁って聴こえたので、本機の下にインシュレーターを置いてみることに。こうすることでベースとキックの輪郭が見えてきました。個人的にはもうちょっとふくよかな低音を期待していましたが、それよりは音圧がしっかりしていて低音の具合も隅々まで確認でき、楽器が一歩前に出てきたような印象。とにかくいろいろな音が“聴こえる”というより“見える”といった感じです。輪郭がはっきりしているせいか、定位感も分かりやすく、端に定位されているギターなどはいつもより一歩前に来ている感じがしました。また、場所をいろいろ変えて聴いてみましたが、 音の印象があまり変わらないので驚きました。ミックス確認では、アーティストの聴いている場所によりベースなどの音量感が違ってしまうことがよくありますが、この問題も解消しそうですね。

細かいニュアンスもしっかり表現
各パートの音量バランスも明確に


ちょうど進行中のセッションがミックス・ダウンに突入したので、そこで使ってみることにしました。今回ミックス・ダウンを行ったのは女性ボーカルとピアノ、ギター、ベース、ドラムという編成のロック・バンド。曲はポップで明るい曲調の16ビートです。まずドラムを単体で聴いてみましたが、音の立ち上がりが速い印象です。キックやタムの皮をたたいているニュアンスがよく分かります。ハイハットの刻みもスピード感がありますね。ベースは指弾きですがコリっとしたニュアンスと中低音のうねうねしたところがいい感じ。しかし、体の下の方から感じる低音にはやや物足りなさを覚えました。ボーカルはフラット。中高域の耳に痛いピークが良くも悪くも抑えられているようです。ピアノも中域の木の鳴りがいい感じでした。ミックス中は中くらいの音量で音作りをしていましたが、微妙なイコライジングもきちんと聴こえてくるので細かい音作りをするのにストレスを感じず、かなり集中できます。特にボーカルなどは細かいニュアンスまで聴こえていたし、本機で音を決めた後、ラジカセやほかのスピーカーで確認しても音の感じは変わっていませんでした。小音量にすると当然ながら音圧は無くなりますが、今度は各楽器の音量バランスがよく見えてきます。結局ミックス終盤はほとんど本機で確認を行っていました。ニアフィールド・モニターということでしたが、数メートル後ろに下がって聴くと、低音の気持ちいい、それでいてバランスが崩れない音像が得られました。個人的には手元にあるスピーカーと比べても最も信頼できる気がしました。特に生楽器のサウンド・チェックには最適なのではないでしょうか。今回はミックス・ダウンでの試聴でしたが、かなりの音量が出せてスピード感もあるので、ダビング時のモニターにはより重宝するな、と思いました。また、スタジオ・モニターとしてだけでなく、これなら自宅でも楽しめそうです。サラウンド・スピーカーにして映画やライブDVDを見たら、リアルな音像できっと迫力も倍増するに違いありません。
DYNAUDIO ACOUSTICS
BM5A
72,450円(1本)

SPECIFICATIONS

■タイプ/アクティブ2ウェイ
■スピーカー構成/28mmソフト・ドーム(HF)、175mmポリプロピレン・コーン(LF)
■周波数特性/50Hz 〜21kHz(±3 dB)
■クロスオーバー周波数/1.5kHz
■アンプ出力/50W(HF)、50W(LF)
■入力端子/XLR
■外形寸法/186(W)×320(D)×320(H)mm
■重量/8.7kg(1本)