真空管の温かみとデジタルの利便性を兼ね備える2chマイクプリ

KORGTP-2

Tritonなどワークステーション・タイプのシンセサイザーに加え、ミキサー一体型ハード・ディスク・レコーダーでも定評のあるKORGから、2chの真空管マイクプリで、コンプレッサーも備えるTP-2が発売された。“なぜKORGからマイクプリ? しかも真空管?”と思われる読者もあろうがしかし、TP-2は作られるべくして作られたものだと言ってもいいだろう。

ミキサー一体型ハード・ディスク・レコーダーのみならず、DAWなど、今ではほとんどと言って良いくらいマルチトラック・レコーダーの世界はデジタル化している。便利になってはいるが、信号の入り口であるマイクプリ部において思い切った仕様のモデルはいまだにリリースされていないのが現状だ。TP-2と、同時にリリースされるTPB-2というモデルはそんな現状に一石を投じるユニークなシリーズで、中でもTPB-2はD32XD、D16XD用のオプション・ボードとしてそれらの本体にハードウェアをインストールできる。非常に興味をそそるセットアップではあるが、まずは単体のマイクプリであるTP-2でその性能をチェックしてみることにする。

ユニークかつ楽器的な
心地の良いひずみ


ではその外観から見ていこう。小さめのマルチエフェクター程度の小柄なボディだが、1.33kgと重量感がある。まず最初に目に飛び込んできたのは頭の飛び出した2本の真空管、12AX7だ。真空管を用いたマイクプリの魅力はなんといってもサチュレーション(増幅飽和状態)などにより、アナログ特有の倍音が発生し中低域に独特な温かみを感じさせるところだろう。TP-2のサウンドもしかりだが、真空管マイクプリにしては、やや硬めな音の印象を受ける。そして、ひずみの感じは非常に面白い。試しにドラムのループを徐々にひずませていったところ、キック、スネアのアタック感はそれほど損なわれず、楽器的な心地のよいひずみ感だった。エレキギターに使うコンパクト・エフェクターのオーバードライブに近い感じだ。次に目についたのは2チャンネル分のレベル・メーターとアウトプットのレベル・フェーダー。レベル・メーターはアウトプット・フェーダーの前段に至ったところでのレベルを表示し、動きは早めで視認性はまずまず。アウトプット・フェーダーのストロークも長めで微妙な調整を可能にする。アナログ入力端子はフォーンとXLRが併存しているコンボ形状で、ファンタム電源も供給可能だ。これに対してアナログ出力端子はフォーンとXLRが別々に装備されている。また標準でデジタルの出力端子(S/P DIF)を装備していて、RCAピン(コアキシャル)とオプティカルの両方の端子も装備している。また、デジタル出力はサンプリング・レートを切り替えられ、背面パネルのミニ・スイッチで、44.1kHz/48kHz/96kHzからチョイスする。AD変換も24ビット64倍オーバー・サンプリングで音のクオリティが非常に良い。これにより、録音を行う機材のソースに合わせて、真空管マイクプリならではのサウンドをデジタルで録音することが可能なわけだ。少々残念なのは、デジタル出力された信号はアウトプット・レベル・フェーダーを通らないこと。ワザとひずんだ音を作りたいときなどは、ゲインだけではなく、アウトプットの調整も重要なので、できればアウトプット・レベル・フェーダーは通ってほしいものだ。

シンプルで扱いやすい
オプティカル・コンプレッサー


オプティカル・コンプレッサーはCOMP SENS(スレッショルド)ツマミと、リリース・タイムをFast/Slowの2段階に切り替えるスイッチだけという非常にシンプルなデザイン。コントロールもシンプルでオン/オフのスイッチが無く、COMP SENSツマミを回せばコンプがオンになる。かかりは非常によく、特にアコースティック・ギターやエレキベース、打楽器など立ち上がりの早い楽器には向いているだろう。またレベル・メーター下にあるLINKスイッチを押すことで、ステレオ・リンクも可能になっている。このときはチャンネル1、2両方のCOMP SENSツマミが有効だ。2ミックスのトータル・コンプとして使うのには、少々かかりが強めに感じるが、ドラムやリズム・トラックの2ミックスには良いだろう。ちなみに、レベル・メーターでリダクションのかかり具合を確認することはできない。このほかに信号の位相を反転させるフェイズ・スイッチ、PADスイッチ、70Hzから下の周波数を6dBカットするローカット・スイッチを装備、エレキギターやベースなどハイインピーダンスの楽器を適切に入力できるHi-Zスイッチもあり、DIとしての機能も果たす。またADコンバーターとしても使用可能とフレキシブルなマイクプリであるだけに、用途はオール・ジャンルと言ってもいいだろう。特にミキサー一体型ハード・ディスク・レコーダーで作業をしているユーザーにはお薦めだ。

▲リア・パネル。左からAC9V端子、電源スイッチ、アナログ出力端子(フォーン×2、XLR×2)S/P DIF出力(コアキシャル、オプティカル)、サンプリング周波数切替スイッチ

KORG
TP-2
59,850円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/4kΩ(XLR)、10kΩ(フォーン)、1MΩ(Hi-Z)
■周波数特性/10Hz〜44kHz±1dB @出力+4dBu、10kΩ負荷
■SN比/85dB
■出力インピーダンス/150Ω
■最大レベル/+16dBu
■外形寸法/224(W)×170(D)×88(H)mm
■重量/1.33kg