ハイファイな音質でマスタリング用途にも配慮されたチャンネル・ストリップ

ORAMGMS The Al Schmitt Pro-channel

本誌のこのレビューでもたびたび登場し、その上質な肌触りの音で定評のあるORAMから、マイクプリ、コンプレッサー、EQがビルドインされたグランド・マスター・シリーズ、GMS The Al Schmitt Pro-channelが発表となった。この大きさと価格にして1チャンネル仕様(!!)といったことからもORAM渾身の作と言えよう。

3系統の入力端子を装備し
即座に切り替えて使用可能


外観は同社の他製品と同じORAMブルー、コントロール部にはコバルト・ブルーを配してパネルを引き締めている。左上部にインプット部、メーターを挟んで右上部にコンプレッサー部、そして下部に5Hz〜32kHzをカバーするEQ部をレイアウト。電源は本体とは別になっており、本機に十分な電力を供給できるようになっている。では、まずインプット部から見ていこう。通常のマイクプリとしてコンデンサー・マイクやダイナミック・マイクが使用できるのはもちろんだが、ゲインの低いリボン・マイクの入力も可能。さらに同じ端子でマスタリング・スタジオにも対応できる+4dBのライン・レベルまで余裕を持って受けられる仕様だ。また、本機の特徴は入力端子が3系統装備されている点。それぞれ独立してファンタム電源(48V)を供給できるので、ボーカル録音のときなども同時に3本のマイクを接続しておいて、それぞれの音を比較することができる。普通は1本のマイクにつき異なるマイクプリやコンプを使用しなければならないため、このような比較はなかなか困難だ。そのためマイクプリとの相性が悪かったりすると、せっかくその人に合っているかも知れないマイクを見逃すことになる。しかし、本機であればマイクプリとコンプ、EQの条件を同一にして、マイクだけの比較を容易に行える。しかも、ミュート・スイッチが用意されていて、ファンタム電源を供給しているコンデンサー・マイクとリボン・マイクを切り替えたりするときに出る“ボツ”というノイズを防ぐことができる。もう1つ本機で特徴的なのは“Transfomer Bypass”と呼ばれるスイッチ。これで入力トランスをバイパスすることにより幅広い入力レベルに対応でき、同じマイクでもよりソースや曲に合った音質を選ぶことが可能だ。コンプレッサー部にはアタック/リリース・タイム、スレッショルド、メイクアップ・ゲインなどのつまみが用意されている。多くのつまみがステップ式の中、スレッショルドだけは連続可変式だ。またレシオは1.4:1〜20:1と幅広く設定でき、イン/アウト・スイッチ、プリ/ポストEQ切り替えスイッチも用意されている。EQ部は6バンドのパラメトリックEQで、Qの設定はLo/Hi-Shelf以外にBroad/Narrow切り替えが付いているのみだが、中心周波数を細かく設定できるので問題ないだろう。またEQ部自体のオン/オフ・スイッチもあるので元音と瞬時に聴き比べることができて便利だ。さらに各バンドの中央には青いLEDが装備されていて、その輝度によって入力された音にその帯域の音がどれくらい含まれているかを確認できる。スペアナのように細かくはないが、これくらいの方が視覚にとらわれ過ぎることなく、かつエネルギー・バランスを管理しながら音作りできるだろう。

SN比に優れたクリアなマイクプリ
位相特性が良く色付けのないEQ


さて、実際の音についてレポートしていこう。チェックにはチューブ・マイク、コンデンサー・マイク2種、ダイナミック・マイク、リボン・マイクを用意。またマイクプリの比較用としてNEVE 1073、SSL Gシリーズのコンソールを使用し、さまざまな組み合わせで試してみた。その印象だが、インプット・ゲイン的には非常に余裕があり、リボン・マイクを使用した際のささやくような声でもとてもクリアに聴かせてくれた。各マイクでのSN比も格段に良く、音の伝達スピードが早い。全帯域がそのままの形でスピーカーから出てくる。突き抜けるようなハイファイ感を求める方にはかなり好みのサウンドではないだろうか。また、音のテイストを変えたいときには前出のTransfomer Bypassスイッチが有効だ。コンデンサー・マイクやダイナミック・マイクを使用するときは、トランスをバイパスした方が素直に伸びる印象の音になる。一方、リボン・マイクではバイパスしない方がふくよかな音に感じた。これは好みの問題だと思うので、マイクが決まった後などに聴き比べて選択すればよいと思う。コンプレッサー部はオプティカル動作で非常にスムーズ。深めにかけてもつぶれ過ぎず、レンジが狭くなる印象は皆無である。ミックス・ダウン時にもインサートして使ってみたが、温かみがあり特にエレキギターには好印象であった。EQ部では圧倒的な位相特性の良さを感じた。各バンドの可変幅は±12dBだが、元音がゆがむことなく確実にブースト/カットできる。多少あっさりめだが、決して効きがヌルいわけではなく、位相特性の良さ故かも知れない。色付けすることなく、必要な帯域だけを調整したいときには本機の右に出る機材はないのでは?と思ってしまった。さらに、ボーカル・トラックにも本機をインサートして、ライン・アンプ、コンプ、EQとしての音をチェックしてみたが、輪郭がくっきりして質の違いを感じさせてくれた。本機はその音の印象から、2台使用してマスタリング用途で使うとより生きてくる製品だと感じた(リンク端子も装備)。スレッショルド以外のつまみはステップ・タイプなのでリコール性にも優れている。また3つの入力を切り替えて使えるという仕様面から見ると、プライベート・スタジオにも標準が合っていると思う。価格的には気合いが必要だが、手を伸ばす価値はある製品であろう。

▲リア・パネル。中央のツマミはメーターのレンジ切り替えスイッチ。左上はリンク用のCV OUTとCV IN、その下はアウトプット(XLR)とDCインプット。右列は上からInput A/B/C(XLR)

ORAM
GMS The Al Schmitt Pro-channel
1,764,000円

SPECIFICATIONS

■チャンネル数/1
■プリアンプ部/ゲイン:0〜70dB
■コンプレッサー部/アタック:1〜50ms、リリース:0.05〜4s、レシオ:1.4