伝統的な真空管サウンドで繊細かつ多彩な音質が表現可能なコンプレッサー

DEMETERHXC-1

高品質な真空管サウンドを20年以上にわたって提供し続けている老舗メーカーDEMETERから、HXシリーズの新製品が登場しました。既に発売されているHXM-1は2chチューブ・マイク・プリですが、第2弾はオプティカル・チューブ・コンプレッサー/リミッターです。名機TELETRONIX LA-2Aのサウンドから多くの要素を取り入れているというHXC-1。その実力やいかに。

ビンテージ・コンプの温かさを
受け継いだクリアな音質


1Uサイズのボディに無駄なく並んだつまみ類のレイアウト。顔を見ただけで使いやすそうな印象を与えてくれる辺りがなかなかよろしいですね。それぞれを解説しますと、左端には控えめに製品名がプリントされていて、その次に+4/−10dBのインプット・レベルの切り替えスイッチとオーバーロード・インジケーター、低域へのコンプレッション感度調節スイッチ(COMPRESS LOW SENSITIVITY SWITCH)、アタック(0.5ms〜100ms)、リリース(200ms〜3s)、コンプレッション(ゲイン・リダクション調整)と、入力/リダクション系のツマミが並びます。続いてカップリング用のリンク・スイッチ、アウトプット・メーターの感度の切り替え(+4/−10dB)、インプット/アウトプット・レベルのメーター切り替え、バイパスと各スイッチが並び、最後にアウトプット・ボリューム。一番右側がパワー・スイッチとLEDになっています。LA-2Aがお手本ということを考えるとスイッチが多いような気がしますが、これはLA-2Aのゲイン・リダクション動作を手本にしてはいるものの、中身はオリジナルであることを主張しているのでしょう。ビンテージ・サウンドの温かさを受け継ぎつつ、LA-2Aでは設定ができなかったアタック・タイムやリリース・タイムなどの調整を可能にすることによって、表現の幅を広げてくれたわけですね。さて、電源を入れてみるといきなりリダクション・メーターが全部点灯するので故障かと思いましたが、なんとユニークなことに一般的なリダクション・メーターとは逆の表示方法となっています。つまり、コンプレッションされた分LEDが消えるという動き方なのです。スタジオでボーカル録りが行われていたので、早速声にかけて聴いてみましたが、とてもクリアな音質に好感が持てました。入力部に採用されたJENSENのトランスがなかなかいい仕事をしているようです。コンプレッションつまみを上げて結構つぶし込んでも、こもったりひずみ過ぎたりしてしまうようなこともなく、音抜けの良い状態をキープしているし、ノイズも非常に低く抑えられていてとてもいい感じです。ただLA-2Aのように、音を通すだけで太くなるといった音質の変化はさほど感じられず、元音に対する忠実度はかなり高いので、単純にビンテージ・サウンドを求めたい人には少々物足りないかもしれません。しかし、LA-2Aでは追い込めなかったような細かい音作りがHXC-1なら可能です。アタック・タイムやリリース・タイムを調整して、タイトでスピード感のある音から、まったりとつぶれた質感の音まで、それこそビンテージ風のテイストを付け足してみるなどいろいろと試せてしまいます。

低域の過剰な反応を防いで
ナチュラルな音質保持を可能に


得意技はほかにもあります。COMPRESS LOW SENSITIVITY SWITCHと呼ばれる、フロント・パネル左から2つ目のスイッチを切り替えると、低域へのコンプレッション感度を調整することができます。その仕組みを簡単に説明しますと、コンプレッションする信号にローカット・フィルターをかけて、低域のピークでコンプレッション動作が支配されてしまうのを回避するようになっているのです。例えば、歌を録音していて、マイクが吹かれたときに瞬間的につぶれ過ぎるのを防いだり、ベースに使って、低域の存在感はそのままにしてラインをはっきりさせてみたりといった使い方ができます。バスドラムやジャンベなどの低域に寄ったパーカッション類も同様に、高域のツブをそろえておいて低域の感じはそのままキープするなど、とても自然な感じでコンプレッションさせることができるわけです。さらに、ボトムのきついミックス・ソースに使って全体の質感を整えるといったことも可能になります。これまでであれば、コンプに入れる信号をパラで出してフィルターでローカットし、それを再びコンプレッサーのサイドチェインに入れて作っていた音を、ボタン1つで作れるのですから便利な世の中になったものです。このように、本機は比較的いろんなシーンで活躍してくれそうなコンプレッサーですが、欲を言えばもう少しリリースを早く設定できるとうれしいですね。そうなればまさにオールラウンダー、2台そろえてステレオでグループやトータル・ミックスに挟んで、さらに細かいところまで詰めた使い方ができると思います。このスペックでも十分と言えばそうなのですが、LA-2Aを1台購入する値段で2台そろえることができるのですから、あのサウンドをステレオで使ってみたいと思うのが人情というものです。HXC-1は全体的に扱いやすく、バランスの取れているコンプレッサーだと思います。“つぶしまくってなんぼ”というたぐいの製品ではないのですが、コンプレッションの効きは良いです。入力も−10dBをサポートしていますので、ホーム・ユースにも問題ないでしょう。初めてのコンプレッサーに選んでも十分使えると思いますし、よりナチュラルに、よりスムーズなコンプレッサーをお探しのあなたも候補に入れておいて損はない1台だと思いますよ。

▲リア・パネル。左からステレオ用リンク端子(TRS)、サイドチェイン端子、アウトプット(XLR、TRS)インプット(XLR、TRS)

DEMETER
HXC-1
オープン・プライス(市場予想価格:159,600円)

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/10kΩ
■周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.1dB)
■SN比/−95 dB
■全高調波歪率/0.02%@1kHz 30dB
■出力/+28dB(600Ω)
■外形寸法/483(W)×44(H)×269(D)mm
■重量/4.3kg