表現力に優れたコンプと繊細なEQを備えたチャンネル・ストリップ

TRIDENT AUDIO4T

なんと、TRIDENT AUDIOのチャンネル・ストリップがこの価格帯で入手できるとは……まったくいい時代だ! もちろん、音響設計は“The Father of British EQ”と呼ばれているジョン・オーラム氏。筆者も彼のデザインしたEQを所有しているのですが、本当に素晴らしい。自分の仕事にはなくてはならないアイテムです。

入力インピーダンスが自動で最適化
機材不問のマイク/ライン入力


本機は、ジョン・オーラム氏のプロ・オーディオ界40周年記念モデルということで、Celebration Channel Stripの名が冠された、DIインプット、マイク/ライン、EQ、コンプ、ヘッドフォン端子搭載のチャンネル・ストリップです。DIインプットは10MΩで標準フォーン端子、最大インプット・レベルは15dB。マイク/ライン・インプットはXLRもしくは標準フォーン端子、入力インピーダンスを自動的に最適値へ導くオート・トラッキングなので、どんなマイクであろうが、ライン入力であろうが気にせず使えます。最大インプット・レベルは+60dB、フェイズ・スイッチと48Vのファンタム・スイッチも装備されています。外部ソースを、RCAピンを介してステレオでモニターできるステレオ・インプットは入力インピーダンスが47kΩ、レベル調整も可能。ヘッドフォン出力は常時ONになっていますが、モニター・スイッチによってこれをアウトプットにミックスさせるかヘッドフォンのみにするか選択できます。アウトプットは標準フォーンもしくはXLR端子のステレオ・アウトプットで、アウトプット・ゲインの調整により、−15dBから+15dBまで可変となっています。イコライジング・セクションは、ローレンジがスイッチにて50Hzもしくは150Hzを切り替えるシェルビングEQ、ミッドレンジが100Hzから10kHzのバンド・スウィープEQ、ハイレンジがローと同じくスイッチ切り替えの7kHzもしくは12kHzのシェルビングEQで、それぞれが−15dBから+15dBまで調整可能です。ダイナミクス・セクションは切り替えスイッチにより4:1もしくは30:1のレシオが選択できます。スレッショルドはOFFから−25dBまで、アタック・タイムは0.1msから40msまで、リリース・タイムは0.05sから3sまでの調整ができるようになっています。イコライジング・セクションとダイナミクス・セクションにはそれぞれセクション全体に対するIN/OUTスイッチも付いています。さて、それでは期待大の4Tを実際に試してみましょう。

扱いやすいコンプ
繊細なかかり具合のEQ


第一印象で目を奪われるのはなんと言ってもレトロな丸いVUメーターです。アウトプット、もしくはゲイン・リダクション・レベルをスイッチで切り替えて見られるのですが、アウトプット時はあやしくブルーに光り、ゲイン・リダクション時にはきれいなグリーンに光ります。シルバーの本体にこの光はとても魅力的です。さて、実際に使用してみた上での驚きは、なんと言ってもダイナミクス・セクションです。音を自在に操るこれぞコンプ! レシオは4:1もしくは30:1のみの選択ですが、全く問題はありません。反対に扱いやすいと考えた方がいいと思います。おいしいところが見事に考えられている感じがしました。アタック、リリースはツマミで自由に設定できるのですが、かなり扱いやすく、思った通りに表現してくれます。ベース、ギター、ボーカル、打楽器など守備範囲は広いでしょう。設定次第で、ナチュラルな無理のないかかり具合から、かなりのオーバーコンプまで表現できます。特にラインのインプット・ゲインを無理やり上げていくとナチュラルにひずんでいくので、本当に面白いくらいに効いてくれるのです。足踏みのコンパクト・エフェクターから、スタジオ常設のスタンダード機器までなんでも本機で代用がききそうです。そしてTRIDENT AUDIOと言えば、さりげなく、美しく、繊細なEQです。さすがに、オーラム・デザインのEQ単体機には負けてしまいますが、スムーズな周波数変換を行い位相が狂いにくいというEQマジック回路は同社の名機S80譲り。高域の繊細なかかり具合は、さすが直系のEQといった感じです。ミッド、ローも十二分に効きます。強いて言えば、ローブーストの音にもう少し骨格が見えるといいな……と感じましたが、基本的にはとても音楽的によく効くEQです。本機の特徴でもあるインプット・モニターですが、これは自宅DAW派には頼もしい機能だと思います。CPUに頼るレコーディングでどうしても避けられないのがレイテンシーですが、この機能を使えば完全にゼロ・レイテンシーのモニタリングが可能になります。ギター・ソロなどのシビアなプレイには威力を発揮するでしょう。ヘッドフォンのみのモニター・レベルの調整が行えないのは残念ですが……。さて、肝心なマイク・プリアンプの音色ですが、スピード感があり、野太い感じです。SN比も問題なく、プロ・ユースにも何ら問題は感じませんでした。強いて言えばEQと同じ傾向があり、低域の骨格に若干の物足りなさを感じました。素晴らしいチャンネル・ストリップだと思います。特に積極的に音作りをする人には向いているでしょう。使って楽しさが分かり、その楽しさをそのまま、音にすることができる機材ですね。

▲リア・パネル。左からSTEREO OUTPUT(フォーン×2、XLR×2)、STEREO INPUT(RCAピン)、DYNAMICS CV(フォーン)、MIC/LINE INPUT(フォーン、XLR)

TRIDENT AUDIO
4T
オープン・プライス(市場予想価格144,900円前後)

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/10MΩ(インストゥルメント)、オート・トラッキング(マイク/ライン)、47kΩ(ステレオ)
■周波数特性/10Hz〜35kHz(−1dB:インストゥルメント)、10Hz〜100kHz(−1dB:マイク/ライン、ステレオ)
■全高調波歪率/0.006%(1kHzあたり)
■最大ゲイン/+60dB
■最大インプット・レベル/+15dBu(インストゥルメント)、+23.5dBu(マイク/ライン)
■外形寸法/482(W)×44(H)×144(D)mm
■重量/2.3kg