定位やバランスを細かい部分まで的確に把握できるパワード・スピーカー

ESINear 06

オーディオ・インターフェースで有名なESIから、低価格でありながらハイクオリティなパワード・ニアフィールド・モニター、Near 06が発表されました。今回はこのモニター・スピーカーをRinky Dink Studio荻窪のミックス・ルームで試聴してみたのでレポートしていきましょう。

クリック式のレベルつまみで
音量合わせもごく簡単


まずは仕様から。スピーカーは6インチのウーファーと1インチの防磁型シルク・ドーム・ツィーターを搭載しています。リア・パネルにはXLR入力端子、TRSフォーン入力端子、それにレベル調整用のつまみと低音を豊かにするためのSub-Frequency Portと呼ばれるホールが用意されていて、全体として至ってシンプル。TRS入力端子を用意している点が、今どきの宅録&プロジェクト・スタジオにおけるミキサーのアウトプット端子を考えて設計されていて素敵です。レベル調整つまみはクリック式になっており、+4dBと−10dBの表示もプリントされているので、自分が持っている卓のレベルと合うところまでつまみを回すだけで、簡単にスピーカーの一番効率の良いレベルを得られるようになっています。トレブルやベースなどの調整つまみはありませんが、宅録の場合、そういうつまみを使って自分でモニター・スピーカーの音質を微調整するというのは大変難しいことです。Near 06の場合は、そういう難しいことを抜きにして、壁との距離で調整していくといいでしょう。このような物理的(原始的)な作業を行うと、部屋の鳴りなどをつかむのにとても重要な要素を自分自身で把握できるとともに、その部屋の欠点も見えてきて、ミックスする場合に役に立つと思います。

スタジオでの録音作業にも対応
長時間のミックスでも疲れない音


試聴にあたっては、最初にいつも聴いているCDを再生してみたのですが、まとまっていてすごく聴きやすいという印象を受けました。粒が細かく、低域から中域が気持ちよく出ていてバランスがとても良いのです。音楽の中に入り込むというより、一歩引いて音楽をバランス重視で聴ける、そんなクールなスピーカーだと思いました。次に、スタジオでのレコーディング用モニターとしての使い勝手をチェックしようと思い、最初はソフトなジャズ系のドラムを録ってみました。すると、音作りに必要な音量を十分に稼ぐことができ、“優秀なスピーカーだな”と思ってさらに音を作り込んだのですが、最後にアンビエンス・マイクのフェーダーを上げたときに驚きました。空気感を伴った音が良い定位感と共に前後左右にふわっと広がり、スピーカーの周りを包むように音像がきれいに出てきたのです。気持ちいい!!次に、ロック系のドラムでコンプをインサートしつつ音作りをしてみたところ、キックはとても気持ちのいい低音とともに中域も充実したいい感じに聴こえました。ただ、スネアはアタックの1kHz近辺が少し引っ込んだ印象を受けたので、その分コンプをかけ過ぎてしまう可能性もあるなと思いました。しかし、その引っ込んだ感じが、すべてのバランスをすっきり聴かせている要素なのかもしれません。実際、ドラム全体で聴いてみると、空気感や奥行き、左右の広がりなどがよく分かり、バランスも取りやすい音になっていました。では、ミックスでの使用感に移りましょう。今回は打ち込みものとバンドもの(轟音系ロック)の2つを試してみました。まず打ち込みものからミックスしてみたのですが、ひたすら気持ちよく、すべてのバランスがよく見える感じで最後まで作業を行うことができました。細部にわたって音のバランス、定位をきちんと把握でき、長時間聴いても疲れない音です。ミックスした音源を自宅に持ち帰って別のスピーカーで聴いても印象は変わりませんでした。とても好感触です。次に轟音系ロックをミックスしてみました。最初にすべてのフェーダーを上げてみたときには、やはり1kHz辺りが少し引っ込んでいる感じがしました。また、3〜4kHzくらいが少し持ち上がっているようなクセも感じたのですが、これは低音が充実しているからこその配慮だと思います。ただ、あまり大きな音のロック系には向かないような印象は受けました。総合的な感想ですが、Near 06は宅録での使用には全く問題なく、むしろ今までにないほどのコスト・パフォーマンスを持つスピーカーと言えるでしょう。また、ほとんどのジャンルで作業できる製品だと思いました。こんなに安いなら、僕も1ペア買おうかなと思わせられました。なお、同社のモニター・スピーカーのシリーズとしては、Near 05というNear 06より一回り小さいモデルが既に発売されています。これはペアで市場予想価格が31,500円前後!!という安さから、宅録に重点をおいた設計がうかがえるモデルです。既にヨーロッパではかなりの人気だそうで、実際に試聴した印象もとても良いものでした。しかも、こちらはツィーターの向きを変えられるようになっていて、これはすごく面白い仕様です。僕は一度録ったドラムやギター、打ち込みものなどに空気感を出すため、レコーダーに録った音をスピーカーから出してもう一度マイクで拾ったりするのが好きなのですが、ツィーターをいろいろな角度で試して鳴らしてみたところ……うーん、いい。ツィーターを動かした際に生まれる位相感がさらなるアンビエンスを生むのです。モニターとしてだけでなく音作りにも一役買い、個性的な音をいかに作っていくかという宅録精神にかなった仕様になっていますね。皆さんもいろいろ試してみると今までにない音を表現できるでしょう。
ESI
Near 06
オープン・プライス(市場予想価格:52,500円前後/ペア)

SPECIFICATIONS

■タイプ/2ウェイ・バスレフ・パワード・モニター
■スピーカー構成/1インチ・シルク・ドーム(HF)、6インチ・プリプロピレン・コーン(LF)
■周波数特性/55Hz〜20kHz
■クロスオーバー周波数/2.7kHz
■アンプ出力/40W(LF)、30W(HF)
■入力端子/XLR、TRSフォーン
■外形寸法/200(W)×280(H)×223(D)mm
■重量/6.5kg(1本)