ずっと気になっていたあの四角い物体と……ついに、対面できる！ その名はCAD E1002 スーパーカーディオイド・エレクトレット・サーボ・コンデンサー・マイク。冒頭からも察せられる通り、残念ながらCADのマイクロフォンを使うのは初めての試みなので、すでに生産終了になっている前身のモデル、CAD E100との比較はできませんでしたが、極めて好感度の高い印象でした。
充電池により無電源で使用可
ファンタム電源のバックアップも
以前から、マイクロフォンにしてはかなりユニークなビジュアル・デザインだという認識で、自分の記憶に刻まれていたE100ですが、このE1002も見た目にはほとんど変わらぬままリファインされたようです。逆にスペック的には変更点が多く見られるので、細部にわたり改良されているのではないかと思われます。そのスペックですが、周波数特性は10Ｈzから18kＨz、指向性は超単一指向性、入力インピーダンスは200Ω、ダイナミック・レンジは126dB、最大耐入力は20dBのパッド使用時で146dBなどとなっています。気になる一番の特長は、交換可能な角型ニッケル水素充電池を装備しているため電源が無い環境でも使用可能なこと。しかも充電池の利点はそれだけではありません。一瞬のピーク信号など大きな信号を収音する場合、オペアンプは一般的なファンタム電源で供給可能な電流以上の電流を要します。E1002はそのために必要な電流を充電池で補えるのです。マイクの動作に必要な電流をファンタム電源から直接マイクへ供給するのではなく、ファンタム電源はいったん充電池に送られます。そこでファンタム電源によって充電池は充電され、さらにそれを電源にして、マイクが動作するというわけです。また、あえて回路はディスクリート・デザインではなく高速オペアンプを採用してばらつきを無くし、高品質を実現したとのことです。
扱いやすい人間味のある音
スネアも表現力豊かに
さて、早速、実践で試してみましょう。第一印象で特に感じたのは、ダイアフラムを３カ所で固定する３点式内部ショック・アイソレーション・システムのせいか、マイクに触れたときやマイク・セッティング時のノイズが非常に少ないことでした。 これはとても大事なことで、ライブ使用時などのハウリング防止にも、もちろん音質そのものにも非常に有利になるのです。なんといっても、空間的な制約の多い自宅などの環境で使用する場合はかなり有利だと思います。感度に関しては全く問題なく、スタジオのスタンダード的存在である高級マイクロフォン群にも全くひけを取らないレベルです。SN比も同様で全く問題ありません。さて音質そのものですが、答えから先に申し上げると、優秀です。最初の一瞬は、ファットで、ハイエンドに物足りなさを感じるかもしれませんが、マイク・アレンジやEQの補正、色付けで、なんら問題ない状態になります。反対に、価格帯の低いコンデンサー・マイクにありがちな高域のザラザラや肉薄なスカスカ感は全く無く、人間味のある、どちらかというと扱いやすい音色です。ボーカルにも問題なく使えます。若干高域に癖があるのが気になりますが、EQでの中高域の補正や、ハイエンドを若干上げてやることで実際には全く問題無くなる程度と言えるでしょう。強いて言うならつややかさよりはスピード感や派手さがあるようなので、どちらかと言えば男性ボーカルの方が向いているかもしれません。アコースティック・ギターにも試してみましたが、いい感じです。ただ、近接効果によるブーミーさが若干出やすいようなので、マイク・アレンジは相応に気を付けたほうがよいかと思います。このマイクの特質でもある入力耐性の高さを試すにあたって、今回はスネアに使用してみました。確かにストレスは全く無く、表現力も豊かに感じます。スーパーカーディオイドということも手伝って、キックやスネアには十分使用可能な戦力になると思います。全般的には、とても優秀で癖の少ない、音色、取り扱いともに使いやすいマイクだと思います。ただ強いて言うならば、音色的な個性にやや欠けるのが筆者には物足りなく感じられました。しかし、それはあくまで多種多様のマイクを所持するスタジオで主に活動している筆者の意見ですから、一般的にはオールマイティなマイクと言ってよいでしょう。自宅録音を始めるにあたり初めてマイクを購入する方や、この価格帯で本数を必要とする方にはおすすめです。もちろんスーパーカーディオイド限定の話ですので、自宅などで数人のコーラスを録る場合や、２人以上で同時に楽器を録音するのにはあまり向かないでしょうが、ほとんどのセッションには対応できるでしょう。それにしても、この価格でこの表現力とこのクオリティはまさに脱帽です。おそらく、あえてディスクリート・デザインの回路を採らなかったことに秘密と秘けつがあるのでしょう……。プロ、アマチュア問わず、十分に威力を発揮してくれるマイクだと思います。
SPECIFICATIONS
■周波数特性／10Ｈz〜18kＨz
■指向性／超単一
■出力インピーダンス／200Ω
■ダイナミック・レンジ／126dB
■最大耐入力／145dB（20dBパッド使用時）
■SN比／75dB
■外形寸法／62.2（W）×152.6（H）×37.3（D）mm
■重量／589.67g
■付属品／ハード・ケース、ショック・マウント・アダプター、スイベル・マウント
