クリアな音質とビンテージ・テイストを併せ持つ1ch FETコンプレッサー

DAKINGFET Compressor/Limiter II

ビンテージ・エフェクターは、今日でも非常に根強い人気があります。希少価値としてだけでなく、独特な音質のキャラクターが、DAW全盛のレコーディングにおいて一層その価値を増していると言えるでしょう。しかしビンテージといわれるだけに、なかなか当時の性能を100%発揮できる機材が少なくなってきているのも事実です。最近では、復刻版やオリジナルのものを踏襲したものがさまざまなメーカーから新製品として登場してきています。今回チェックするのは、非常にこだわりを持って作られたDAKINGのFET Compressor/Limiter IIです。早速概要から見ていきましょう。

ビンテージ機器の特性を手本にした
4種のリリースAUTOモードを採用


アメリカのDAKING社は、資料によれば1993年にジェフ・ダーキング氏によって設立されました。彼はジェームス・ブラウンやホール&オーツなどのエンジニアとしても活躍していた人物とのこと。ある時期より、素晴らしい音を生み出していた機材が、その価格を抑えるためにトランスを廃止してICによる設計に移行したことから、自身の設計による機材を作ることを決心したのだそうです。このこだわりの思想は、本機にもさまざまな部分に生かされています。本機の開発にあたっては、人気のある優れたコンプレッサーとそうでないものを数多くリスト・アップし、それぞれの特徴を研究したのだそうです。その結果として、本機にはUREI 1176やAUDIO DESIGN Compexなどと同じくピークによるレベル検知を採用し、ゲイン・リダクションの回路にはFETを用いています。さらに他のDAKING社の機材同様、オール・ディスクリート、クラスAアンプ回路を採用するなど、設計者の妥協のない姿勢がうかがえます。1Uサイズのパネルは、メーター、5つのノブ、2つのスイッチと非常にシンプルな構成です。小さいながらも視認性の良いアナログ・メーターは、インプット、ゲイン・リダクション、アウトプットと切り替えて表示させることができます。では、5つのノブを左から順に見ていきましょう。まずスレッショルドは、−10〜+10dBの11段階を2dBステップでコントロール可能。後述のメイクアップ・ゲインもそうですが、ステップであることは、ステレオ・リンクの際にとても使い勝手が良いです。コンプレッション・レシオは、1.5:1、2:1、3:1、5:1、10:1、20:1の6タイプを選択できます。これも合理的で使いやすい組み合わせだと言えるでしょう。アタック・タイムは250μs、500μs、1ms、2ms、4ms、8ms、16ms、32ms、64msの9種類の中から選ぶことができます。いろいろな音源に合わせやすいものをうまく選んであると思います。一方、リリース・タイムは0.5s、1s、1.5sの固定モードと、リダクション量に応じてリリース・タイムが変化する4つのAUTOモードがあります。NEVE 33609のAUTOモード、CompexのAUTOモード、そしてFAIRCHILD 670の5番、6番のリリースという設定になっています。パネルに参考となった機材名が書かれているのには少し驚きましたが、自信の現れなのでしょう。先の資料にもあったのですが、ダーキング氏はCompexが非常に好みだったようで、その設定にこだわりが感じられます。筆者も以前Compexを使ったことがあり、特徴的なコンプレッションが記憶に残っているのですが、このセッティングではまさにその記憶通りの音が出てきました。コンプレッサーを使う上で、リリース・タイムは演奏のテンポ感を左右するポイントです。その設定には非常に気を遣うところなのですが、この4つのAUTOだけでも十分に感じられるほど、本機のプリセットはとてもよくできています。最後のメイクアップ・ゲインは、精度の高い1dBステップになっています。レベルのコントロールが細かく行える点も非常に重要です。ボーカルやマスター・セクションへのインサートなどに重宝するでしょう。そのほか、本機はDAKING製品共通のパワー・サプライPSU-4(オープン・プライス/市場予想価格37,800円前後)で電源を供給するのですが、ここにも面白いアイディアがありました。PSU-4から機器への電源供給に25ピンのシリアル・ケーブルを使っているのです。ねじ止めできるので、間違って電源を抜く失敗もありませんし、ケーブルの取り回しも楽です。

高域の伸びが保たれ音がこもらない
ストレートでほかでは得難い音質


では、実際に使用した感想を述べていきましょう。今回のテストでは、DIGIDESIGN Pro Tools|HDと192 I/Oを使って本機をハードウェア・インサートしました。シンプルなパネルと厳選されたプリセットによって、使い方は至って簡単です。すぐに狙い通りの設定にたどり着くことができます。しかしその音質は、個性的かつ非常にクリアです。数々のビンテージ・エフェクターが、経年変化から高域の伸びを失うことが多い中、ストレートに押し出してくる高域には、非常に感銘を受けました。 またコンプレッションに伴い、削れていく成分も非常に少なく抑えられています。25dBものゲイン・リダクションを与えても、65kHzまでフラットであることをうたっているのは大げさではないようです。今回男性ボーカルに使用したところ、低く響く部分を押し出しながらも、高域成分に影響を与えない音質で、非常に使いやすいと感じました。かかり具合を深めに設定しても、抜けの良いボーカルが得られます。そのほか、モノラルのドラム・ミックスに使用して全体をつぶした感じにしたときも、音がこもっていくことなくリズムのしんが残る感じは、ほかでは得難いものがあります。ぜひ2台使って、ステレオ・マスターのインサートにも使用してみたいと思わせる音質です。数々の名機を、しかもそれらがもっとも良かった時期に、実際の現場で使ってきたダーキング氏のこだわりは本物のようです。またこのこだわりは、確実に今のレコーディングの現場に必要とされているものだと言えるでしょう。DAWシステムとアナログ機器の融合に対する1つの答えがあるように感じます。

▲リア・パネル。左からライン・アウト(XLR)、電源コネクター(D-Sub25ピン)、ライン・イン(XLR/TRSコンボ)、ステレオ・リンク(XLR/TRSコンボ)

DAKING
FET Compressor/Limiter II
オープン・プライス(市場予想価格207,900円前後)

SPECIFICATIONS

■出力レベル/+28dBv@1kHz/600Ω、+26dBv@31.5Hz/600Ω
■周波数特性/10Hz〜56kHz(±1dB)、10Hz〜63kHz(−3dB)
■ノイズ/−82dB(10kHz〜25kHz)
■全高調波歪率/0.0033%@1kHz
■入力インピーダンス/15kΩ以上
■外形寸法/483(W)×44(H)×311(D)mm
■重量/2.5kg