往年の名マイクプリ/コンプの動特性をDSPで再現したチャンネル・ストリップ

FOCUSRITETheLiquidChannel

今回チェックするのはFOCUSRITE TheLiquidChannelというチャンネル・ストリップです。本機は往年の名機を中心としたシミュレーション機能を搭載しており、同じAD/DAコンバーターを標準装備した同社のチャンネル・ストリップ、ISA430 Producer Packなどとはひと味違うようです。ISAシリーズというと、クセがなく抜けがいいマイクプリ、トーン・コントロールのような柔らかい効きのEQが印象的で、特にボーカルや繊細な生楽器などのレコーディングに使用する人が多いと思います。筆者は歌録りでまずオールドNEVEを試すのですが、バラードなどでは実際にISAシリーズのマイクプリとコンプで美しくレコーディングすることもよくあります。それでは早速、TheLiquidChannelの実力を見ていきましょう。

素直な特性を持つDSP動作の
プリアンプ部とコンプ部


フロント・パネルのカラーリングは高級感の漂う白と銀です。従来のFOCUSRITEの製品群にはないデザインで、これまでのものと差別化が図られていることが一目で分かります。3色のLEDも相まって視認性は良好で、ツマミとメインLCDのレイアウトも分かりやすく、初めて触る人でもすぐ使えるでしょう。なお、本機にはLiquidControlというコントロール用ソフトが同梱されており、セッティング・データの保存などに活用できます。本機の構造はアナログ入力の場合、マイクプリの入力段ですぐにADコンバートし、その後段にあるDSP動作のプリアンプやコンプ、EQなどで音作りをします。本機の特徴の1つであるシミュレーション機能はプリアンプ部とコンプ部で使用可能です。最初は本機のレギュラー陣(FLATというネーミング)からチェックしていきましょう。プリアンプ部は先ほどISAシリーズの特徴として述べたクリアでレンジの広いFOCUSRITEのサウンド・カラーを受け継いでいるようです。音源のキャラクターを正確にとらえることができ、しかも高域が奇麗に伸びているので、ボーカルはもちろんドラムのトップやアコースティック・ギターなどに使うことができそうです。このクセのない傾向はコンプ部にも当てはまります。レベラーのような感覚で扱え、深くリダクションしてもナチュラルな感じは損なわれないので安心して使えます。各帯域を調整可能な3バンドEQに関してはISA110がモデリングされており、Qカーブの幅が広いおなじみのかかり方になっています。1つ1つのEQのレンジが広くHi Qなども併用することで音色補正から積極的な音作りまで、幅広く使えそうです。もちろん、DSP動作なので0.1dB単位の微妙な調整も可能です。サイドチェーンEQ回路も搭載しているので、ディエッサーとしてもいい仕事をしそうです。次はAD/DA部について見ていきましょう。音色はもちろん、44.1kHz〜192kHzまで対応したサンプリング周波数やクロック周りの対応など、問題ない仕上がりです。取りあえず元音を忠実に収録&レベルもいい感じで録音したいといった人にお薦めできるでしょう。これだけでもTheLiquidChannelを十分評価できると思います。

注目のシミュレーション機能は
マイクプリ/コンプ共に40種類以上


さていよいよTheLiquidChannelのセールス・ポイントであるシミュレーション機能をチェックしてみましょう。フロント・パネルの右下にあるDATAツマミを回していくと"UK 1073""UK 1960""US BF 76"といったプリセットが次々と出てきます。その数はマイクプリ/コンプ共に40種類以上もあり、もちろん本家のISAやRedといったFOCUSRITEの製品シリーズも入っています。マイクプリ部のシミュレート機能に関しては、もちろんどれもが本物と全く同じ音とはいきませんが、モデルとなっている機材のキャラクターはよく表現されていると感じます。さらにコンプ部では本物とパラメーターが一緒になるので、同じ感覚でオペレートすることが可能で、さらに実機にはないMakeupのパラメーターは助かります。TheLiquidChannelオリジナルのHarmonicなどもうまく使用すればかなり使い勝手のある多彩なバリエーションを手に入れられそうです。Stereo Link機能も装備し、ステレオ・ペアのマイクでの録音やマスター・インサート系も対応できます。マスタリングなどでも十分使えるのではないでしょうか。また、いつもの"俺セッティング"はセーブして、すぐリコールできるので、もうメモは必要ありません(笑)。なお、新たにシミュレーションされたプリセットは専用Webサイト(www.ffliquid.com)からダウンロードして追加可能で、今後もライブラリーが増えることを期待できそうです。このTheLiquidChannelは基本的なポテンシャルも十分なものを持っていますし、ボーカルのレコーディングはもとより、録りからミックスまでいろんな場面で使えるので、従来のFOCUSRITEファン以外にも大きくアピールしそうです。とりあえず1台いいマイクプリとコンプ、ついでにADコンバーターもなどと思っている人は要チェックではないでしょうか。

▲リア・パネル。上段左からMIC INPUT、LINE INPUT、LINE OUTPUT、下段左からWORDCLOCK OUTPUT、AES INPUT、AES OUTPUT、WORDCLOCK INPUT、DIGITAL LINK BUS INPUT & OUTPUT、USB端子

FOCUSRITE
TheLiquidChannel
493,500円

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz
■量子化ビット数/24ビット
■周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.5dB)@AD変換
■SN比/120dB(A-weighted)@AD変換
■最大入力レベル/+22dB@AD/DA変換
■ダイナミックレンジ/116dB(20Hz〜20kHz、A-weighted)
■ゲイン・レンジ/+6dB〜+80dB(マイクプリ部)、+10dB〜−10dB(ライン入力部)
■外形寸法/484(W)×85(H)×270(D)mm
■重量/8.6kg