優れた操作性や編集機能に加えパソコンとの連携も可能な多機能サンプラー

ROLANDSP-606

SP-606は、そのルックスから受ける印象以上に使い道の多い機材だ。“Sampling Workstation”という肩書き通り、シーケンサー+サンプラーが基本構造である。サンプリングした音をパッドに振り分け、そのパッドをたたいてパターンを作り、それをつなげて楽曲に仕上げる。そこにはエフェクトをかけることもできるし、ツマミによるパラメーター・コントロールも可能だ。

しかし、こうした基本機能以外に、SP-606はパソコンと組み合わせるといろいろ面白いことができるようになる。USBケーブル1本を接続するだけでMIDI/オーディオ・インターフェースとして使えるようになるだけでなく、付属の専用ソフトP606と組み合わせてのトラック制作やパフォーマンスも可能で、本体とパソコンの2つだけで、煩雑になりがちだった作業が簡単に実現できる。本レビューの前半はSP-606本体を、後半はパソコンとの連係にフォーカスを当てて進めてみることにしよう。

サンプラーの基本性能を網羅
BPMシンクやCHOP機能も便利


まずは本体のサンプリング部のチェックから始めよう。本体右のパッドにはDJ/クラブ系に特化したサンプルが、あらかじめ4バンク分(1バンク=16パッド)割り当てられており、買った瞬間から使うことができる。パッドはベロシティ対応なのがウリで、大きさ的にはもう少し大きくてもよいかなとも思ったが、使ってみると片手ですべてのパッドに届くくらいだから、ちょうどいいようだ。たたく指の強さに合わせて感度を変更できるので、力の無い(あるいはあり余っている)人も大丈夫。もう1つ細かい話をすると、フレーズ・ループのような長いサンプルを鳴らす場合、HOLDパッドを一緒に押せば、サンプルが終わりまで再生されるので便利だ。本機はサンプラーなので、音ネタはユーザーがどんどん増やしていくことになる。サンプリングは本体内のメモリーに加えて、別売のコンパクト・フラッシュに記録することも可能(サンプルは本体に8バンク分、コンパクト・フラッシュ使用時はさらに24バンク分の記録が可能)。サンプリング設定時にロング・モードを選択し、512MBのコンパクト・フラッシュを使えばモノラルで最大6時間半近く(ここまで来ると秒単位の細かい表記なんてどうでもよくなりますな)までサンプリング・タイムを延ばすことができる。サンプリングは極めて明解な手順で行え、サンプリング・スタンバイ画面でレベルの確認やアサイン・パッドを選択する程度。気になる音質は、スタンダード・モードは素直なサウンドだ。ロング・モードにした場合、スタンダード・モードに対しておよそ倍のサンプリング・タイムが使えるため圧縮による劣化を覚悟していたが、アナログ盤からのサンプリングなら気にならないほどのクオリティである。録り込んだサンプルには各種の編集機能が用意されている。前後の余分な部分のトリミングなどはもちろん、特にフレーズ・サンプルは拍子や小節の設定などをした上で、同社の製品でおなじみのBPMシンク機能を使えば、フレーズがそのままマスター・テンポに自動的に追従するようになる。同じくCHOP機能も便利で、フレーズ・サンプルを設定値でスライスし、各パッドに単音で割り振ってくれる。こうして下ごしらえが済んだら、パッド・バンクへスライスされたサンプルを登録することで、いつでも呼び出しが可能となるわけだ。

充実のエフェクト・セクション
Dビーム・コントローラーも装備


パッドに音をアサインしたら次にやることはパターンを作ることだ。SP-606のパターン数は140(うち40は出荷時のプリロード分)あり、それぞれ4つのトラックを持つことができる。入力はリアルタイムでもステップでも可能。取りあえずリアルタイムで打ち込んでみたが、作業はパターンの小節数を設定するくらいで、あとはメトロノームを聴きながらパッドをたたいていけばもう出来上がりだ。ループ状態で入力できるので、ドラム・パートを入力する場合は任意の区間をループさせて、各パーツを個別に重ねていけばいいだろう。間違って入力してもその部分だけ後で消去することができるし、入力時にクオンタイズをかけることも可能だ。こうしてパターンを作成したら、後はソングとしてパターンをつないでいけばトラックが出来上がる。ソング・モードで録音スイッチを押し、パターンをつなぎたい順に呼び出していけば完了だ。もちろん後からでもソングの編集は可能である。ソングというよりジャムる感覚でパターンを切り替えながら、各サンプルのミュートや本体の操作子を駆使したプレイも楽しい。特にパネル左上のDビーム・コントローラーは、専用のフィルター(後述のMFX1&2のものとは別)やサンプルのトリガーとして使え、リアルタイムのパフォーマンスで大活躍するだろう。さらに本機搭載のエフェクトもなかなか使いでのあるユニークな仕様だ。3つのセクションがあり、マルチエフェクトのMFX1&2にはそれぞれディレイやリバーブ、フランジャーやフェイザーなどから、ギター・アンプ・シミュレーターやロータリー・シミュレーター(どちらもよくできてる)、ビニール・ノイズ(やり過ぎなくらい面白い)、人声を加工するボイス・トランスフォーマーまで用意されていて、どれも極限までパラメーターは減らしてあるが、即戦力重視という感じで、不自由は感じさせない。MFX1と2は直列に接続されており、より複雑な音作りもできる。また、任意のパッドに対して、例えばパッド2のスネアだけにリバーブをかける、といった選択も可能だ。もう1つはマスタリング・エフェクトで、その名の通りマスタリング時に行うEQやコンプレッサー的な処理を施すものだ。これらはサンプリング時のかけ録りはもちろん、本体内でのリサンプリング時にも使える。サンプリングしたネタをエフェクト加工して別ネタを作りたいときにも大活躍間違いなしだ。

USBオーディオI/O機能に加え
専用ソフトP606を同梱


さて、冒頭でも少し触れたが、SP-606はUSBを利用してMIDI/オーディオ・インターフェースとして使用することができる。パソコンとの接続はUSBケーブル1本だけ。パソコン側でオーディオ・ドライバーの指定をすれば、SP-606を通じてパソコンの音が出るというのは当たり前なのだが(オーディオ・ドライバーはASIO、WDMに対応)、特筆すべきはSP-606をエフェクト内蔵の入力インターフェースとしても使えることだろう。例えば、エレキギターをSP-606に接続し、内蔵エフェクトをかけたものをDAWソフトや波形編集ソフトなどに録音できるのだ。今では、ペダル・タイプの豪華なギター・アンプ・シミュレーターにはオーディオ・インターフェース機能を兼ね備えたモデルも増えたが、そこまで本格的にそろえる必要もスペース的余裕もないというユーザー(筆者がそうだ……汗)には吉報ではないかとひそかに思っている。キーボード系のユーザーなら、SP-606のMIDI端子にMIDI鍵盤を接続すればMIDIインターフェースとしても使うことができるので、入力効率がよくなるだろう。さらにSP-606には、このUSBを使って本体の可能性を広げてくれるソフト、P606が同梱されている(画面①)。P606はDAWソフト、SonarでおなじみのCAKEWALKが開発したもの。パソコン上(Windowsのみ対応)で楽曲を作成するのに必要なシーケンサー、音源、エフェクトをひとまとめにしたオールインワン・ソフトだ。P606に用意された音源は、ROLAND MC-303/505のサウンドを継承したGroove Synth(歴代のROLANDリズム・マシンもズバリそのままの名前で入っている)、シンセサイザー音に特化したPsyn Mini Analog、そして、WAVファイル(Acidized WAVならテンポ同期も可能)のプレイバッカーであるGroove Playerの3種類。これら音源の音質はハード機並みにしっかりした本格的なもの。エフェクトも8種類付属しており、DirectX/VSTプラグインも使えるので独自のカスタマイズも楽しめる。
▲画面① P606のメイン画面。最上段がパターンを組むシーケンス部で、左部からプリセット・パターンを選択でき、右のピアノロールでノート編集が可能。ピアノロールの表示拡大/縮小は、スクロール・バーで瞬時に行える。その下は、音源を呼び出すパッチ、エフェクター、シーケンス選択/パート・ミキサー、トランスポート関連となっている このP606がユニークなのは、基本的な曲のアイディアをソフトが提示してくれるという点だ。例えばトランス系のベースが欲しいとしよう。そんなときは、プリセット・パターンからそれらしい名前のものを呼び、続いてそのシーケンスで鳴らす音源と音色を選べばいい(画面②)。選んだ音色がパターンに合わないと思ったら別のものに差し替えてみればいいし、“ここのパターンを少し変えたい”と思ったら、表示されているピアノロールのノートを変更すればいい(しかも、そのパターンはユーザーとして登録可能)。こうしてドラムや上モノなどのパターンを作り、組み合わせることで簡単に楽曲制作ができてしまうというわけだ。ちなみに、エフェクト部のパラメーター・オートメーションも記録可能となっている。
▲画面② P606上でプリセット・パターンを選択中。画面では“House”から“House1_syn1”を選択。末尾の拡張子でパターンの種別(ドラムとかシンセ系)などの判断できるが、意図的に、例えばシンセの音源に対してドラムのプリセット・フレーズを合わせるというような選択をすると、曲調によっては予期せぬ結果が得られる場合もあり面白い

P606で作ったサウンドを
本体に楽々サンプリング可能


さて、このP606がSP-606とどう関係するかだが、P606に仕込まれた各種パートの選択、ミュート/ソロやシーケンスの切り替えなど一連の操作が、SP-606からコントロールできる。P606のサウンドを流しながら、SP-606のサンプル・パッドをたたいたり、外部の楽器を合わせて弾くなどリアルタイムでのパフォーマンスも可能になる。加えて、P606で作成したデータ(ドラム・ループだけでも、シンセ・フレーズだけでも、ソング全体でも構わない)が、そのままSP-606にコンバート可能となっている。P606からのコンバートと言っても、実際にはSP-606へデジタル・サンプリングを行うことになるわけだが、このとき便利なのが新機能のEXT SEQ SAMPLINGだ(特許出願中だそう)。この機能は、SP-606側でどのパッドに何小節分サンプリングするかを指定するだけで、EXT SEQ SAMPLINGボタン一押しでP606のサウンドをきっちりとサンプリングできるというもの。つまり、フレーズの前後を手動でトリミングする必要がないのだ。SP-606本体にそれほど多くの音源やパターンが内蔵されていなかったのは、このP606の存在があるからで、要するに音源は作れば幾らでもあるというワケだ。ちなみに、この機能はP606以外にもMIDI接続した他機種、例えばリズム・マシンをサンプリングするときなどにも使えるが、設定が必要なので、P606との組み合わせよりは若干手間が掛かる。一通り触ってみて“ありそうでなかった”たぐいの機材だと思った。真っ先に思い浮かぶのは、ノート・パソコンとSP-606を持ってのギグ。SP-606のパッドを、P606の音源パートやシーケンスの切り替え、ミュート/ソロに使ったリアルタイム・セッションは、まさしくフィジカル・コントローラーという感じで楽しい。ネタの作成用にP606を使い、最終的にはSP-606で完パケにしたり、逆にP606をシステムのメインに置くというのもありだ。ルックスから受ける印象よりも、はるかに適応範囲が広いマシンだろう。

▲リア・パネル。左からDC IN、USB、MIDI OUT/IN、デジタル・アウト/イン(S/P DIF)、フット・スイッチ、オーディオ・インR/L(マイク入力対応)&アウトプットR/L(フォーン)、ヘッドフォンが並ぶ。フロント・パネルにはコンパクト・フラッシュ・スロットも装備

ROLAND
SP-606
オープン・プライス(市場予想価格85,000円前後)

SPECIFICATIONS

■サンプラー部
●同時再生発音数/8
●サンプリング・モード/スタンダード、ロング
●サンプリング周波数/44.1kHz
●サンプリング・フォーマット/SP-606オリジナル(WAV/AIFFのインポート/エクスポート可能)
●サンプル・メモリー/インターナル=128サンプル(8バンク、うち4はプリロード分)、コンパクト・フラッシュ=384サンプル(24バンク)
■エフェクト部
●マルチエフェクト/2系統(45タイプ)
●マスタリング・エフェクト/1系統
■シーケンサー
●トラック数/4
●パターン数/140(うち40はプリロード分)
●パターン・レコーディング・モード/リアルタイム、ステップ
●最大記録音数/約18,000(1パターン最大8,000)
■外形寸法/358.3(W)×271.2(D)×84.0(H)mm
■重量/2.3kg
■P606必要システムおよび動作環境
●Windows/2000/XP、Pentium/Celeronまたは互換プロセッサー(Pentium4 1.7GHz以上を推奨)、256MB以上のRAM(512MB以上を推奨)、500MB以上のハード・ディスク空き容量、1,024×768ドットの画面解像度、USBポート、CD-ROMドライブ(インストール時に必要)