アクティブ増幅回路を内蔵した高出力/低ノイズの新時代リボン・マイク

ROYERR-122

米カリフォルニアのROYERは、リボン・マイクの開発・製造を行っているメーカーです。リボン・マイクは1930年代から使われ続けていますが、同社はこれをただ復刻するのではなく、新しい技術で現在によみがえらせています。今回はその製品の中でも、アクティブ増幅回路を備えたユニークなR-122を紹介します。

アクティブ増幅回路を内蔵し
リボン・マイクの弱点を克服


まず、リボン・マイクになじみがない読者も多いでしょうから、リボン・マイクの構造について説明していきましょう。一般的なコンデンサー・マイクでは、ダイアフラム(振動板)に金やニッケルを蒸着してバイアス電源をかけ、その信号を静電容量の差として取り出し、アンプで増幅しています。コンデンサー・マイクのダイアフラムは、たいこの皮のように張った状態で音の振動を変換するため、素直な周波数特性にならず、硬い音色になりがちです。それに比べ、リボン・マイクの構造は、磁石で磁界を作りその中に薄いリボン状のアルミニウム金属箔を張った構造になっています。リボンは非常に薄く(R-122ではわずか2.5μm!)、空気の振動を直接電気信号に変換する大変シンプルな構造なので、自然な高域と豊かな低域が得られます。また、リボンはその表裏で音を拾うので、一般的には双指向のモデルがほとんどです。しかし、このリボンは非常に薄く軽いので、起電力が小さいため出力も低く、SN比もあまり良くありません。また、大きな昇圧出力トランスが必要になり、RCAに代表されるいわゆるビンテージ・リボン・マイクは大きく重いものがほとんどです。さらにその構造上、ボーカルなどでの"吹かれ"や衝撃に弱く、取り扱いには細心の注意が必要となるのです。R-122はそうしたリボン・マイクの弱点を克服するために、内部にアクティブ増幅回路(FET構成)を内蔵しています。普通のリボン・マイクでは、誤ってファンタム電源を入れるとリボンが切れてしまいますが、R-122ではこの回路を動作させるために、48Vファンタム電源の供給を必要としています。このアクティブ増幅回路を内蔵したことにより、高い出力を得られ、今までのリボン・マイクの弱点であったSN比も改善されています。音の小さい楽器でもノイズに埋もれることなく収録できます。また、出力インピーダンスも低くなるため、インピーダンス・マッチングを気にせず使え、長いケーブルを使ったときにもその影響を受けにくくなっています。さらに、出力段の昇圧トランスが不要なので、R-122の本体重量はわずか309g。ビンテージのリボン・マイクに比べ大変軽く、小さくなりました。コンデンサー・マイクのNEUMANN U87Aiでも約500gですから、本機の軽さは驚くべきものです。また、小型化したことにより、マイク・アレンジにも自由度が増し、スイート・スポットが狙いやすくなっています。さらに、R-122では、最高135dBまで音圧レベルに耐えることができます。従って、従来のリボン・マイクが苦手としていた、ギター・アンプやドラムなどの大音量ソースのレコーディングにも使えるのです。

豊かな低域とスムーズな高域を持つ
新しいビンテージ・サウンド


さて、実際に音を聴いてみることにしましょう。今回は一口坂スタジオで、数名のハウス・エンジニアとともに代表的なコンデンサー・マイク、ビンテージのリボン・マイクとの3本との比較テストをしました。ソースはアコースティック・ギター、ボーカル、コンガです。まずコンデンサー・マイクとの聴き比べでは、音の違いは明らかです。アコースティック・ギターでは低域が豊かに、ボーカルではスムーズな高域が表現され、コンガでは余分なピーク成分が抑えられます。逆にコンデンサー・マイクの音を聴き慣れた耳からすれば、高域は抜けが悪く、低域が豊か過ぎると感じるかもしれませんが、これが本来のリボン・マイクのサウンドです!また、ビンテージ・リボン・マイクとの比較では、R-122の方は低域が豊かで、メーカーの主張通りSN比も格段に良いものでした。ちなみにロゴのある正面と、裏側で音質が異なるのですが、テスト機では裏側の方がわずかに高域が伸びているようでした。これまでのリボン・マイクは、大きく、重く、デリケートだというのが常識でした。しかし、アクティブ増幅回路を備えたR-122は、扱いやすい大きさで、SN比も改善され、しかも高い音圧でも使えるようになりました。小音量の繊細なストリングスにも、ノイズを気にすることなく使えますし、パワフルなドラムや大音量のギター・アンプにも使っていけそうです。しかもコンパクトですから、大きなマイク・スタンドを探す必要もありません。そして何よりも特徴的なのはその音。コンデンサー・マイクにはない温かみとナチュラルさを持つ、新しい"ビンテージ・サウンド"を、R-122で試してほしいと思います。ROYERのWebサイトには、姉妹機で録音した音のデモもありますので(残念ながらR-122で収録したものはありませんが)、リボン・マイクに関心のある方はそちらもチェックしてみてください。
ROYER
R-122
オープン・プライス(市場予想価格220,500円前後)

SPECIFICATIONS

■指向性/双指向
■マグネット/レア・アース・ネオジウム
■周波数特性/30Hz〜15kHz(±3dB)
■感度/−39dB(1V/Pa、±1dB)
■自己ノイズ/20dB以下
■出力インピーダンス/200Ω(バランス)
■最大音圧レベル/135dB以上
■外形寸法/25(W)×206(H)mm
■重量/309g(本体)
■付属品/木製ケース、布製袋、マイク・クリップ