【製品レビュー】15種類のプリセットを備えた真空管プリアンプ搭載ステレオ・コンプレッサー

TL AUDIO5060

TL AUDIOの真空管アウトボードIvory2シリーズには、マイクプリ、コンプレッサー、EQといった単体機からそれらの複合機であるチャンネル・ストリップまで、幅広いラインナップが展開されています。今回紹介する5060はそのIvory2シリーズに新たに加わった真空管プリアンプ搭載のステレオ・コンプレッサーです。早速、レビューしていきましょう。

豊富な接続端子を装備
マイク/楽器/シンセと幅広く対応


本機はIvory2シリーズの他製品と同じく真空管を採用し、12AX7を使用した回路で構成されています。フロント・パネルは4つのセクションに分かれており、左からプリアンプ部、コンプのプリセット・セレクト部、コンプのマニュアル・コントロール部、アウトプット部という構成です。プリアンプ部には楽器入力がステレオで装備されているので、ギター、ベースのほか、シンセなどのステレオ・ソースも直接入力できるのがうれしいところ。INPUT GAINはマイク/ライン/楽器の各入力でレベルを調整できるツマミですが、真空管のドライブ調整も兼ねています。ここの設定次第でかなり音色が変化するため、単純なプリアンプと比べると音作りの幅は広いと言えます。アウトプット部にあるFAT EQは、低域と高域を若干ブーストして、太く抜けの良い音色に変化させるスイッチです。レンジの狭いダイナミック・マイクなどを使って録音する際、もうちょっと抜けを良くしたいといった場面で有効な機能でしょう。またアウトプット・メーターがVU式であるのは個人的にかなり好感が持てました。このメーターはスイッチによりコンプレッサーのリダクション・メーターに切り替えることもできます。リア・パネルの接続端子は、マイク入力(XLR)、バランス(TRSフォーン)のライン入力、バランス(TRSフォーン)とアンバランス(フォーン)のライン出力という構成で、ライン入出力は+4/−10dBのレベル切り替えが可能。欲を言えばバランスのライン入出力はXLRにしてほしいのですが、バランス仕様であることだけでも十分と言えるでしょう。また、オプションのデジタル出力カードのDO-2によってS/P DIFコアキシャルでの24ビット/44.1/48kHzデジタル出力が可能となり、ワード・クロックも使用できるようになります。本機でマイクを使用する上で注意すべきはチャンネル構成です。1系統のマイクプリとステレオ・コンプレッサーという仕様のため、“マイクプリ+コンプレッサー”の両機能を使う場合はモノラルでの使用になります。なお楽器入力時はライン入力と同じ扱いになり、ステレオとして機能させることが可能です。また、コンプレッサー単体として使う場合も完全ステレオ仕様のため、左右のチャンネルを独立した設定にはできません。つまり、モノラル2系統という使い方ができないため、自分の用途に合っているかをよく考える必要があります。“録りのときは1系統のマイクプリとコンプで十分だけど、ミックスのことも考えてステレオ・コンプが欲しい”という人に向いている構成だと言えるでしょう。

プリセットとマニュアルの併用で
幅広い音作りが可能なコンプ


では肝心な音の方ですが、まずアコギ、ボーカル、ドラムなどでマイクプリ部のチェックから。思っていたよりもすっきりした印象で抜けも良く、意外と女声ボーカルとの相性も良かったです。一方、中低域の太さと中高域のざっくりした部分などはしっかりと真空管の特徴が出ています。INPUT GAINをちょっと上げ気味にして録ってみたアコギは、存在感がしっかり出てオケの中でも埋もれない芯のある音になりました。この“INPUT GAINをちょっと上げ気味”がポイントで、例えば、迫力あるごっついスネアの音を作るときなどには効果絶大でしょう。続いて、本機最大の特徴でもあるプリセット式のコンプレッサーです。マニュアル・コントロールはもちろん可能ですが、入力ソースに合わせた15のプリセットが用意されており、簡単に好みの効果を選ぶことができます。チェックでは録音済みのさまざまな音源を用い、まずプリセットを試してみました。大別するとドラム/ベース/ギター/キーボード/ボーカル/2ミックスというカテゴリーになっているのですが、どれも“なるほど”という設定で、思わず感心させられます。全体的には薄くかけただけでも音が太くなる印象です。“KICK”はアタックを強調する方向で、反対に“LOOP”はかなりつぶれた迫力のある音。“ROCK VOX”は声がどんどん前に出てくる感じで、“WHISPER VOX”は声に安定感が出るというふうに、同系統のソースに対して違いがはっきり分かる設定が複数あるのは使いやすいものです。2ミックス用のプリセットは全般的に深めにかかる気持ち良いもの。ただ薄くかけたい場合はINPUT GAIN設定に工夫が必要になりそうです。また、プリセット名にこだわらずに選んでいくと意外と良かったりしました。例えば、エレキのカッティングに“KICK”を使うと、粒立ちのはっきりした気持ち良い音になります。このように、プリセットをカチャカチャと回すだけでさまざまな効果が得られるのは、コンプ初心者には心強い仕様と言えるでしょう。さて、プリセットで欲しい効果が得られない場合“MANUAL”モードが登場します。アタックとリリースはFAST/SLOWの切り替えのみですが、どちらも実用的なタイムに設定されていて不自然な感じはありません。また、HARD KNEE/SOFT KNEEの切り替えが可能で、バリエーションは広いと言えるでしょう。プリセットで足りない部分を補う方向で考えれば十分だと思います。全体の印象として音はバッチリです。さらにコンプレッサーはプリセット/マニュアル併用タイプで使いやすく応用範囲も広いため、長く使っていけるアウトボードだと感じました。

▲リア・パネル(DO-2装着時)。上部左からデジタル出力(S/P DIFコアキシャル)、ワード・クロック出力。下部左からアンバランス(フォーン)のライン出力×2、バランス(TRSフォーン)のライン出力×2、レベル切り換えスイッチ、バランス(TRSフォーン)のライン入力×2、マイク入力(XLR)

TL AUDIO
5060
89,250円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/10Hz〜40kHz
■最大出力レベル/+26dBu
■残留ノイズ/−82dBu
■外形寸法/483(W)×88(H)×200(D)mm
■重量/6kg
※オプション:デジタル出力カードDO-2(29,400円)