老舗音響機器メーカーらしい機能バランスの取れたミキサー一体型HDレコーダー

TASCAMDigital Portastudio 2488

レコーディング機器分野における先駆的なメーカーTASCAMのミキサー一体型ハード・ディスク・レコーダーDigital Portastudioシリーズに、新モデルDigital Portastudio 2488(以下、2488)が加わった。録音やミックス、さらにマスタリングまでを1台で完結でき、しかも10万円台半ばという意欲的な価格設定での登場だ。各楽器メーカーからの参入製品も多いこの分野であるが、音響機器メーカーの製品としてどのようなバランスを持ったものなのか、早速チェックしていこう。

24トラック構成のレコーダー部
4系統のエフェクトを同時使用可能


本機はレコーダーとミキサーが一体型となったハード・ディスク・レコーダーである。まずは各部の基本的なスペックから見ていこう。レコーダー部は、サンプリング周波数が44.1kHz固定で、16または24ビットでのレコーディングが可能。同時録音トラック数は8で、同時再生トラック数は24となっている。ミキサー部は、24チャンネル(12モノ+6ステレオ)+サブイン8チャンネル構成。入力にはマイク、ラインのほか、エレキギター/ベースに対応するハイインピーダンスのHi-Z入力が1系統装備されている。また、同時使用可能な4系統のエフェクトも標準搭載だ。ハード・ディスクは40GBのものを内蔵し、パーティションを最大4つまで作成できる。ユーザーによるハード・ディスクの交換はできない仕様だが、内蔵CD-RWドライブを使用したデータ・バックアップおよびリストアが可能。さらに、USB 2.0端子を装備しており、コンピューターと接続してWAVファイルのインポート/エクスポート、スタンダードMIDIファイル(SMF)インポートに対応している。編集機能も簡単に紹介しておこう。基本的な機能としては、オート・パンチ・イン/アウト、コピー&インサート、コピー&ペースト、ムーブ&インサート、ムーブ&ペースト、メイク・サイレンス(無音部作成)などを用意。フレーズの移動やコピー&ペーストについては、1/10フレーム、すなわち1/300秒単位の精度で実行できる。さらに、編集ポイントを探す場合などで活用する波形表示も、振幅/波長共に最大32倍もの拡大に対応しており、DAWソフト並みのかなりち密な編集が、本機のみで可能だ。もちろん各編集はアンドゥ/リドゥに対応している。そのほかジョグ・ダイアルによって数値入力できるダイレクト・ロケート機能、早弾きフレーズの練習/レコーディングなどで活躍しそうな最大50%のスロー再生機能なども装備している。1曲当たり最大250までのバーチャル・トラックを確保しているので、大抵のことはこれ1台でできてしまうだろう。本機はCD-RWドライブを標準で搭載、マスタリング機能を活用したCD-R制作はもちろん、前述のようにデータのバックアップ、リストア用途で使用できる。特筆すべきはMIDI周りの機能の充実ぶり。GM音源とリズム・パターン・アレンジ機能を搭載し、GM音源は外部からインポートしたSMFを鳴らす仕様だ。リズム・パターン・アレンジ機能については内蔵ドラム音源を用いた豊富なリズム・パターンが用意されており、それらを編集することでリズム・セクションを作成できるものだ。そのほかの機能としては、テンポを専用ボタンでタップ入力可能な内蔵クリック、基準ピッチをキャリブレーション可能なチューニング・メーターなども搭載。さらにマスター/スレーブどちらにも設定可能な外部機器との同期機能(MTC、MMC)が装備されており、複数の2488はもちろん、他機種との同期再生も可能となっている。

すべてのミキサー・チャンネルに
3バンド仕様EQを搭載


さて、ここまでは主なスペックを駆け足で紹介してみたが、これだけでも録音機器を知り尽くしたTASCAMらしいバランスの取れたレコーダーに仕上がっていることがうかがえる。ここからは各セクションをさらに掘り下げ、実際に試した感想を交えつつレポートしていこう。まず、レコーダーのインプット関係から。インプットには独立した8個のゲイン・トリムが装備されている。パネルの左上に配置されたとても分かりやすい仕様だ。また各チャンネルには数字ではなく、“A〜H”という文字が割り振られており、チャンネルとトラックを混同することがないのは、とても良いアイディアだと思う。入力端子はINPUT A〜Dの4チャンネルがXLR/TRSフォーン兼用のコンボ・コネクターで、それぞれに48V仕様ファンタム電源が用意されている(4チャンネル分を一括でオン/オフする)。INPUT Hはパッシブ・タイプのギターやベースを直に接続できるHi-Zで、単体ダイレクト・ボックス製品と同等の1MΩのインピーダンスと入力感度−55dBという仕様を誇る。ちなみにマニュアルには、電気特性やブロック・ダイアグラム(音声信号がどのような回路をどのような順番で通過し、そのブロックごとにどのような変遷があるのかを書いた図)が分かりやすく書いてある。例えば、音が歪んでしまったような場合にその原因を推測するのに便利なのだが、このクラスの機材でもブロック・ダイアグラムをきちんと掲載している辺り、老舗の音響機器メーカーらしいハードに対するきまじめさを大いに感じた。続いてミキサー部について。本機は、すべてのミキサー・チャンネルに3バンド、フルスウィープ仕様のEQを搭載している。さすがに内部演算56ビットで動いているだけあって、再生中にパラメーターをいじってもすごく滑らかだ。特にミッドの周波数帯は32Hz〜10kHzまでスムーズに変化し、ミックス全体にEQをかけてワウ効果をしばらく楽しんでしまったほど。なお、EQが3バンドでは足りないのではないかと思う人も居るかもしれないが、“EQは、録りで足し算、ミックスで引き算”を想定すれば、6バンドEQと同等の機能を有すると考えることもできる。さらにミキサー・チャンネルは “マイク用ダイナミクス・エフェクト”(コンプ、ディエッサー、エキサイター)および、“ギター用マルチエフェクト”(ディストーション、フランジャー、トレモロ、ピッチ・シフター、ディレイ、アンプ・シミュレーター類など)をインサート・エフェクトとして装備。最低限のものがそろっており、音色についても感触が良い。各パラメーターは単体機に比べると絞られており、無理な作り込みを避けられる、必要にして十分な仕様だと感じた。またマルチエフェクターでは、エフェクト名がよくありがちな抽象的なネーミングではなく、ディスプレイ表示ですぐに判断できるようなものになっている。例えば“スター・ゲイザー”と書いてあるより、“Delay+Chorus”となっている方が分かりやすいわけで、個人的には好感を持った。欲を言えば、コンプとEQのインサート・ポイントの順番を入れ替えできたり(コンプ→EQの順で固定されている)、また入力については、複数のインプット・チャンネル出力を1つのトラックにアサインできてほしかったところ。これらの仕様は録音時にフェーダーを介さずにトリムでレベル調整を行うようになっているためであろう。

シーン・メモリーを駆使した
ち密なミックスも可能


続いては、録音済みトラックのミックスを行う“トラック・ミックス部”を見ていこう。フェーダーはモノ・トラックが12、ステレオ・トラックが6、内蔵MIDI音源用ステレオ・トラックが1、マスター・フェーダーが1の計20本を完備。ステレオ・トラックはトラック13〜24に用意されている。なお、L/Rはパンを個別に変えることができ、EQ、コンプ、レベルの設定はペアで行う。レベルだけでも個別に変えることができればミックスの自由度が増すことを考えると、少し残念。ただ、サブインとしてチャンネルA〜Hの入力を加えることができるため(EQ、コンプ処理可能)、これらを併用すれば、かなり自由度のあるミックスが可能になるだろう。また、録音済みトラックではフェーダーの現在位置に関係なく、全トラックのレベルがディスプレイ表示されており、作業を進めていくのに安心感があるのはうれしい。これは言うなればマルチトラック・レコーダーのリターン・メーターと同じようなもので、トラックの再生忘れ防止に有効だ。各トラックで使用可能な“センド/リターン・エフェクト”についても見ていこう。ディレイ、コーラス、フランジャー、フェイザー、ピッチ・シフター、リバーブ、ゲート・リバーブの7種類が用意され、そこから1つを選んで使用することになる。プリ/ポストフェーダーの切り替えも可能だ。もちろん外部アウトボードへのセンド/リターンにも対応している。エフェクターの質感については、リバーブのクオリティが光る。マスター・リバーブとして使用するのがお勧めだ。なおトラック・ミックス部に限らず、全体について言えるのだが、操作のレイヤー構造が浅いのもうれしい。実際、シフト・キーを押して機能が切り替わるボタンは12個ほどで、操作上のストレスは少なかった。また、オート・ミックス機能こそ装備されていないが、1曲に付き最大99も設定できるシーン・メモリーを駆使すれば、ち密なミックスを作ることもできるだろう。試しに外部機器からMIDIデータを送って疑似オート・ミックスを行ったところ、内部56ビット処理の威力を実感させるスムーズなシーン・チェンジを実現していた。最後にマスタリング機能について紹介しよう。本機でのマスタリングは“プリマスタリング”と呼ばれる専用トラックに2ミックスを録音する仕様で、これが “マスター落とし”の作業となる。“マスタリング・エフェクト”にはコンプレッサー、エキスパンダーを装備。ミックスのバージョン違いを録っておき、そこから選択したものに、エフェクトでマスタリング処理をしたり、曲間のエディットを施しCD-Rを作成することになる。本機についてチェックを終えて感じたのは、TASCAMらしいバランスの良い製品だということだ。価格面から考えれば、例えばバンドで1台購入し共有の機材にすることもお勧め。さらに、プロの作業環境においても外部機器との連動も抜群なサブレコーダーとして、いろいろな場面で活躍することだろう。

▲リア・パネル。上段右から、マイク/ライン・イン×4(XLR&TRSフォーン)、マイク/ライン・イン×4(TRSフォーン)、USB。下段右から、エフェクト・センド×2(フォーン)、ステレオ・アウト(RCAピン)、モニター・アウトL/R(TRSフォーン)、デジタル・イン/アウト(S/P DIFコアキシャル)、MIDIイン/アウト

TASCAM
Digital Portastudio 2488
155,400円

SPECIFICATIONS

■トラック数/24
■チャンネル数/24+8(サブイン)
■同時再生トラック数/24
■同時録音トラック数/8
■内蔵ハード・ディスク/40GB
■サンプリング周波数/44.1kHz
■量子化ビット数/16/24ビット
■周波数特性/20Hz〜20kHz ±1.0dB
■ダイナミック・レンジ/96dB以上(INPUTS→STEREO)
■入力レベル/MIC/LINE入力XLR:−57dBu(MIC)〜−10dBu(LINE)、MIC/LINE入力TRS:−43dBu(MIC)〜+4dBu(LINE)、GUITAR入力:−55dBu〜−8dBu
■エフェクト/ギター用マルチエフェクト:12、マイク用ダイナミクス・エフェクト:2、センド/リターン・エフェクト:7、マスタリング・エフェクト:2
■最大出力レベル/+6dBV
■全高調波歪み率/0.01%以下(trim at min)
■外形寸法/545(W)×145(H)×355(D)mm
■質量/8kg