サチュレーション感が手軽に得られるコンプが魅力のチャンネル・ストリップ

MINDPRINTEn-Voice MK II

最近になって自宅録音向けのアウトボード製品が増えてきました。DAWを使用していても、取り込み時のアナログ段でのサウンド・クオリティが低いと後でいくらプラグインで処理しても良い音にならない、ということが宅録レベルでも常識となってきているのがその理由でしょう。さて、今回レビューするMINDPRINTからリリースされたEn-Voice MK IIは、プリアンプ/EQ/コンプを搭載したモノラル仕様のチャンネル・ストリップです。同社から発売されているチャンネル・ストリップのフラッグシップ・モデル、DTCで培った技術を惜しみなく投入しているということで、大いに期待が持てます。以前は価格の問題からこの手の機材の中でアマチュアが手にすることができる選択肢は非常に限られていたので、このようなコスト・パフォーマンスに優れた中堅機が登場してくるのは喜ばしいことです。早速チェックしていきましょう。

高級感漂うフロント・パネル
効果が分かりやすいEQ部


まず外見ですが、えんじ色のボディ・カラーが印象的です。また、DTCと同じ銀色のツマミが採用されており、この価格帯のモデルにはなかなか無い高級感を漂わせています。スイッチ類を押すと青色ダイオードが点灯するところなど、いかにも最新機材という感じでわくわくします。入力端子類は、マイクがXLR、ラインがフォーンとXLRとなっています。またフロント・パネルにはHi-Z入力も装備されており、ギターなどを直接入力することができます。なお、この端子に接続すると、自動的にライン入力がキャンセルされる仕組みになっています。プリアンプ・セクションにはマイクとラインでそれぞれ独立した2つのゲイン・ツマミが付いています。自宅録音などでボーカルとライン楽器を録音しているとき、これが1つだといちいちゲインの設定をし直さなければならないのでこの仕様はとても便利です。ゲインの可変幅はマイクは+19〜75dB、ラインは−∞〜+22dB(0dBにセンター・クリック付き)とそれぞれの用途に適した値になっているため、小さいツマミにイライラすることもなく簡単に調整することができました。また、ファンタム電源(48V)、パッド(−20dB)も装備されています。早速実際にライン楽器を入力してみましたが、メーカーが“グッバイ・デモ・クオリティ・サウンド”とうたっている通り、かなりローエンド、ハイエンドともに伸びたクリーンなサウンドです。スイッチング電源使用なのでノイズを心配していましたが、特に気になることもありませんでした。EQ部は3バンド構成で、すべてピーキングとなっています。ミッドのみQ可変ツマミが用意されており、ハイとローのQは固定。帯域はローが20〜300Hz、ミッドは100Hz〜11kHz、ハイは1.6k〜22kHzで、ゲインはすべて−15〜+15dBです。また、各バンドごとのオン/オフも可能となっています。音の印象は効果が分かりやすく、“ざっくり”というより“つるっ”と持ち上がってくるような雰囲気があります。EQとコンプのプリ/ポスト切り替えはできませんが、コンプのキャラクターがつぶしてもあまりハイ落ちする感じが無いものなので、特に必要性を感じませんでした。

原音を損なうことなく
真空管サウンドを付加することが可能


コンプレッサー部はVCAを使用し、カーブはソフト・ニー。アタックとリリースは8つのプリセットから選択する方式になっています。例えば自宅で自分でアコギを弾いて録る場合、モニターしている音とアコギから直接聴こえる生音が同時に聴こえてしまうので、アタック/リリースの最適値を決めるのは初心者には難しいのですが、このプリセット式ならば簡単に設定することができるでしょう。音質は非常にナチュラルで、低価格機にありがちな線が細くなってしまうこともありません。また、フィルター・スイッチを入れると300Hz以下の信号をバイパスできるので、ブレイクビーツに深めのコンプをかけるとき、キックが出てくるたびにハットがヨレヨレになる、なんて事態を簡単に避けることができます。本機で目玉の1つが、このコンプレッサー部に搭載されたチューブ・サチュレーション機能でしょう。本機にはシミュレーション回路ではなく実際に真空管が組み込まれており、ツマミで真空管に送るゲインを決定してしてサチュレーション感を調節するという仕様になっています。この機能はコンプのスレッショルドを越えた信号のみに作用するので、原音の核を残したまま真空管のニュアンスを付加することができます。真空管が入ってることを売りにしている機種でも相当高価なものでない限り内部はICのアンプにバッファーとして真空管回路が付属しているだけのものが多いので、この機種のようにゲインをコントロールできるのはフレキシブルでいいですね。実際にエレキベースを入力して試してみましたが、“ウォームだけれど芯がある”というサウンドを簡単に作ることができました。ボーカルなどで“ざらっとした感じがほしいが歪ませたいわけではない”という場合にも非常に効果的な機能だと思います。なお、今回はチェックすることができませんでしたが、オプションで各種インターフェース用のADコンバーターが用意されており、その中のUSBモデル、DI-Mod USB(オープン・プライス/市場予想価格49,000円前後)ではASIOドライバー経由で直接コンピューター(Macintosh/Windows)に接続することが可能です。本機とラップトップだけを持って友人宅に録音しに行くなんてことが簡単にできてしまいます。最近の音楽の傾向として、1990年代の流行のような“ただただローファイでレンジが狭いサウンド”とは異なり、そのようなローファイ感を持ちつつもサウンドとしてはハイファイという音が主流になってきているように思われます。本機はまさにその辺りを視野に入れて開発されたという印象で、機材の操作に詳しくない初心者でも比較的簡単に今風の良い音を手に入れることができる設計となっています。ソフト・シンセなどを多用していて、ミキサーに立ち上げるものはマイクだけという人も多いと思いますが、本機と同価格帯のミキサーの購入を検討しているのであれば、1chだけにお金をかけて後はDAW内でミックスという方法も良いと思いますよ。

▲リア・パネル。左からライン・アウト(フォーン、XLR)、インサート・リターン(TRSフォーン)、インサート・センド(TRSフォーン)、ライン・イン(TRSフォーン、XLR)、マイク・イン(XLR)が並ぶ

MINDPRINT
En-Voice MK II
オープン・プライス(市場予想価格/100,000円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/5Hz〜127kHz(±3dB)
■入力インピーダンス/ライン・イン:44kΩ、マイク・イン:10kΩ、インストゥルメント・イン:470kΩ
■出力インピーダンス/220Ω
■外形寸法/482(W)×238(D)×44(H)mm
■重量/3.44kg