アナログ・ノウハウを結集したNEVE 1272タイプの2chマイクプリ

STUDIO ELECTRONICSPre2

STUDIO ELECTRONICSはMidiminiやOmega8、SE-1といったラック・マウント・タイプのアナログ・シンセサイザー・メーカーとして有名な会社です。今回紹介するマイクプリのPre2は、同社のアウトボード/エフェクターとしては、C2S(2chコンプレッサー)に続いての2機種目に当たり、存在感あるビンテージ機器のサウンドを目指して作られたというもの。アナログ機器のノウハウをたっぷりと詰め込んだ、STUDIO ELECTRONICSのマイクプリがどんな音を出すのか! 期待を込めてチェックしてみましょう。

扱いやすいシンプルな操作性
入力インピーダンス切り替えも装備


まずは外観から見ていきましょう。これは至ってシンプルです。しゃれた濃いめのコバルト・ブルーが印象的なフロント・パネルに、3つのスイッチと少し大きめのつまみが2つ。それらがパネルの左右に1セットずつ(2ch分)配置されているだけで、だれにでもすぐに使うことのできる、分かりやすいデザインになっています。スイッチは左から、インプット・セレクト(マイク/ライン)、ファンタム電源(48V)、フェイズとなっていて、それぞれに赤のLEDが付いています。その隣のつまみはインプット・ゲイン・トリム(15〜70dBまでで5dBステップ)で、一番右側のつまみは出力のトリム(ノンステップのバリアブル・ボリューム)になっています。入出力も2ch分用意されており、インプットはリア・パネルのXLR以外にも、フロント・パネルの左側にハイインピーダンス用のインプット(フォーン)が付いています。アウトプットはXLRとTRSフォーンが、いずれもリア・パネルにあります。本機の設計コンセプトは、NEVE 1272のマイク・プリアンプ部分(ディスクリート・クラスA回路)を採用していることでしょう。入出力は、当然SOWTER製のトランスを使用(初期のNEVE 1272やUREI 1176などに使われていたトランスと同等の物)。フロント・パネルのハイインピーダンス入力部はFETバッファーを使った設計になっています。また、ビンテージ機器などとの接続用に、インピーダンス切り替え用のスイッチがリア・パネルに付いています。

ローノイズでワイド・レンジ
ビンテージらしい存在感のある音


それでは、実際にマイクをつないで、我が家のNEVE 1073のマイク・プリアンプと、NEVE 33415、33115のマイク・プリアンプとの3台を使用し、Pre2を加えて比較して聴いてみましょう。マイクロフォンはダイナミック・マイクのSHURESM58とコンデンサー・マイクのNEUMANN U87の2種類を使用し、チェックすることにします。初めに2本のSM58を、NEVE 1073とPre2の両方に同距離でつないで比較してみます。まず設定レベルはPre2の方がNEVE 1073よりも1ステップ(5dB)ほど大きかったです。同レベルでのセッティング後のSN比は、予想通りPre2の方が数段良く、ゲインを上げていくとその差はどんどん大きくなっていきました。声の大きさやマイクの距離などを変えていろいろ試してみたところ、インプット・レベルに余裕があるセッティング時には、両者のキャラクターは結構近い感じで、NEVE特有の腰のある粘ったサウンド・キャラクターでした。しかし歪む直前の設定では、両者のキャラクターの差が出てきて、Pre2は1073よりも歪みづらかったのです。1073はレベルの設定がシビアで、1ステップ変えただけで結構サウンド・キャラクターが変わってしまいますが、Pre2はある程度同じトーンでのキャラクターが持続します。ただ、1073よりも歪むまでのレベルに幅があるので、途中のキャラクターはいろいろ試せそうですね。今度はU87を使って比較してみましょう。このマイクは1本しか持っていないので、1073、33415、33115とPre2をつなぎ変えてDAWに録音し、それぞれの違いをチェックします。ここで33415、33115の補足説明を加えておくと、33415は、1073と同様にNEVEのコンソールに付いていたヘッド・アンプ/EQ部分のモジュールで、33115はそのヘッド・アンプ部分だけのモジュールとなります。共に1073よりも新しく作られたもので、よってサウンド的にも少し新しめの音です(設計はかなり近いが、パーツなどが新しい)。それでは、チェックを始めていくことにしましょう。マイクロフォンを変えたことによりレンジが広がったせいか、ここでの差は少し出てきました。Pre2は33415や33115のキャラクターの方に若干近いサウンドです。アコギによるチェックでは、よりレンジが広がるため、4つの中ではPre2が一番ワイドで、特に高域での伸びが目立ちました。逆に低音域は、NEVE独特の存在感ある野太さに比べ若干物足りなさを感じはしますが、十分NEVEサウンドを体感できます。フロントのローインピーダンスのインプットにエレクトリック・ベースやエレピをつないでみましたが、これも十分存在感のある音です。オリジナルの1272には付いていない機能なので、これはうれしいですね。全体のサウンド・キャラクターとしては、決してスピード感のあるサウンドではないのですが、ビンテージ機器の持つ存在感のある音で、楽器や声などはすごく音楽的なサウンドになりやすいキャラクターでしょう。当然NEVEの各機種と比較すると、その違いは出てきますが、ビンテージ機器はそれぞれのパーツも古い物で構成されています。このほかの機器で真空管を使って、ビンテージ・サウンドを再現しているものも幾つかありますが、このような現在のパーツを使用したコンセプトでのマイク・プリアンプの中では、なかなかの実力だと思われます。また、ビンテージ機器は接触不良によるパーツ交換などのメインテナンスが定期的に必要になりますし、なにしろ機器そのものが高価で手に入りづらい物が多いですからね。いつでも、ある程度の一定したパフォーマンスを実現してくれるのがうれしいところです。アナログ・シンセサイザーなどの開発を、20年近くにわたって手掛けてきたSTUDIO ELECTRONICS。アナログ回線のノウハウを知り尽くした同社が満を持して送り出した今回のPre2は、コンセプトや設計はもちろん、部品やデザインまで妥協を許さない自信作の1つでしょう。
STUDIO ELECTRONICS
Pre2
328,000円

SPECIFICATIONS

■インプット・ゲイン・コントロール/15〜70dB(5dBステップ)
■周波数特性/10Hz〜30kHz
■接続端子/入力:マイク(XLR)×2、DI(フォーン)×2、出力:アウトプット(XLR)×2、アウトプット(フォーン)×2
■外形寸法/482(W)×260(D)×44(H)mm
■重量/6kg