トランスレスのプリアンプと3種のカプセルからなるマイク・システム

MBHOMBC-604 Studio Pack

私は、古くからドイツに非常に興味がある。ものの考え方や価値観が日本とかなり異なっているからだ。第2次世界大戦後の日本が病院や学校の建築に情熱を傾けていたころ、ドイツではまず劇場を建設した、とさえ言われている。こうした文化の違いは、産業面よりも芸術面へ如実に現れているようだ。MBHOは、そんなドイツのメーカーでハンドメイドのマイクで知られている。我が国では、まだ知名度が低いようだが、クラシックやジャズの生楽器の録音では高い評価を得ている。

カプセルのタイプはオムニ1種類と
カーディオイド2種類


今回試聴したMBC-604 Studio Packは、トランスレスのプリアンプであるMBP-604と、オムニ(無指向性)カプセルのKA-100LK、カーディオイド(単一指向性)カプセルのKA-200N、そしてラージ・ダイアフラムのカーディオイド・カプセルであるKA-1000Nという3つのカプセル、計4点がセットになっている。これらは、もともと同社から発売されていたモジュラー・マイクロフォン・システムと呼ばれる製品群の中で選ばれた製品を組み合わせてパッケージ化されたものだ。モジュラー・マイクロフォン・システムには6種類のプリアンプと9種類のカプセルが用意されており、それぞれ任意のものを選択して購入できる。プリアンプはトランス・タイプとトランスレス・タイプが選べ、カプセルはダイアフラムの大小や指向性の有無、さらに特性の違いなどで選択できるようになっている(詳細はwww.2ndstaff.com/products/MBHO/mbho-intro.htmlを参考にしていただければと思う)。これらを組み合わせることで自由なサウンド・メイクとセッティングが可能となっているのだ。とはいえ、プリアンプとカプセルのコネクト部分が不安定では全く意味が無い。特にマイクの場合は、非常に微弱な電気信号を扱うことになるので心配なところだが、MBHO製品は非常に研究されているばかりか、工作精度がすこぶる高くて全く心配がなさそうだった。このようなモジュールになっている理由としては、現場では絶対的なマイクの本数よりも、バリエーションが必要なケースが多いということも挙げられる。すなわち指向性と無指向性とを同時に使用する必要がないことを考えれば、非常に理にかなった設計といえる。本数が必要というのは、数十本のマイクを同時に立ててオーケストラを録音するようなケース以外は考えられないのだから。こうした発想のマイクはほかにもあり、同じドイツのSCHOEPSにも同様の製品がある。さて、この複雑なシステム構成の中から、最も使い勝手の良い組み合わせでパッケージ化されたのがMBC-604 Studio Packだ。価格はオープンだが、市場予想価格はセットで240,000円前後ということで、このクラスのマイク3本分と考えたなら、非常にコスト・パフォーマンスが高い。プリアンプが1個だけであることが、大きく貢献しているとはいえ、それを考慮してもお買い得だ。また、トランス・タイプのプリアンプを買い足すなど、システムを拡張していける魅力も大きい。

クオリティはプロ・スタジオ・レベル
色付けのないピュアな音が特長


実際のレコーディングでテストしてみた。セッティング時に気付いたのだが、マイク本体の表面の仕上げが気に入った。黒のつや消しの質感がよく、高級感がある。また手に持ったときの感触がよく滑り落ちる心配が少ない。デザインも地味ながらいかにもドイツ製らしい質実剛健なイメージだ。最初にピアノの録音でテストしてみた。音源が全く同じ条件になるようにMIDIピアノ(MIDIで鍵盤が動いて演奏する生ピアノ)をシーケンサーで演奏させた。マイクは1タイプずつ同じポイントに立て、同じマイクプリ(FOCUSRITE ISA430を使用)に立ち上げて、マイクが違っても同じゲインになるようにトリム調整しながらDIGIDESIGN Pro Toolsに録音した。ADコンバーターは192 I/Oでフォーマットは24ビット/192kHz。シーケンサーを同期させマイクを変えて録音していくと、全く同じ演奏が同じ時間軸に並ぶことになるので、再生時には同じフレーズを瞬時に切り替えて聴くことができる。しかもマイクを横に並べて一度に録音したのと違って、全く同じポイントにマイキングして比較試聴ができるため精度の高い比較ができる。リファレンスにはSCHOEPSやNEUMANNなども同条件で録音した。どのカプセルもプロフェッショナル・スタジオ・ユースとして十分なクオリティで、色付けのないピュアな音が素晴らしく、それぞれのカプセルの違いをバリエーションとして楽しめた。無指向性のKA-100LKは臨場感に優れ、KA-200Nは指向性があるにもかかわらず非常にナチュラルだった。ラージ・ダイアフラムのKA-1000Nのふくよかな存在感も魅力的で、ボーカルに使用すると繊細さと太さが同居する生々しい感じが光った。こうした結果になったのはプリアンプの素性が良いことも大きな理由だろう。このプリアンプは新製品なのだが従来品以上にピュアでSN比も非常に優れていた。MBC-604 Studio Packは全体として期待通りで、ジャーマン・クラフトマンシップ溢れるサウンド、そしてデザインだった。これからハイクオリティなマイクの導入を検討されている方には、うれしい選択肢ができたに違いない。
MBHO
MBC-604 Studio Pack
オープン・プライス(市場予想価格/240,000円前後)

SPECIFICATIONS

<MBP-604>
■インピーダンス/35Ω
■フィード・カレント/−4.5mA
■電源/16〜48V
■外形寸法/21(φ)×80(H)mm
<KA-100LK>
■指向性/オムニ
<KA-200N>
■指向性/カーディオイド
<KA-1000N>
■指向性/カーディオイド(ラージ・ダイアフラム)