表現力の豊かなダイナミクス系など多彩な音作りができるチャンネル・ストリップ

TRIDENT AUDIOS40

言わずと知れたイギリスのしにせTRIDENT AUDIOより、今回届いたのはS40。このところ名機S80のヘッド・アンプを2本組み込んだ復刻版や8チャンネル・ミキサーS100など、オイラのことを忘れちゃ困るぜ的な勢いで個性的な機器を相次いで発表してきましたが、S40は俗にいうチャンネル・ストリップ……マイクプリやEQ、ダイナミクス系エフェクトを1台にまとめた、使い方は十人十色、あなた色に染めちゃって状態の、一家に1台は欲しい便利マシンであります。

積極的な音作りを期待させる
重厚なツマミ群


まずはその面構えから見ていきましょう。箱を開けた瞬間、古いんだか新しいんだかよく分からないパネル・デザインに面食らってしまいましたが、よくよく見れば愛嬌のある飽きのこない顔をしているじゃありませんか。ツマミなんてカスタム・デザインだそうで、ひねってみればきっと満足できるはずです。しっかりと重いのに、滑らかに回るツマミ……音を聴く前から、こいつはなかなかできる奴だと思ってしまいます。フロント・パネルの左側からマイクプリ・セクションで、Hi-Z用フォーン入力、48Vファンタム電源スイッチ、フェイズ・スイッチ、ピーク・ランプ、ゲイン・コントロール用ツマミが並びます。続いて、ダイナミクス・セクションは、アタック(0.1〜40ms)ツマミ、リリース(0.05〜3.0s)ツマミ、EQのPRE/POST切り替えスイッチ、バイパス・スイッチ、レシオ(1:1〜LIMIT)ツマミ、スレッショルド(18〜−45)ツマミと並び、すべてが連続可変なので、スピードの効いたリミッティングから、まったりとしたコンプレッションまでとても幅広い対応が期待できそうです。TRIDENT AUDIOの肝とも言えるジョン・オーラム氏入魂のEQセクションはLO CUT FILTER、LO SHELF(50Hz/150Hz切り替え)、LO MID、バイパス・スイッチ、HI MID、HI SHELF(7kHz/12kHz切り替え)、HI CUT FILTERとなっており、ブーストとカットはそれぞれ±15dB可変。これでバンド幅の調整が付いていれば申し分無いところですが、その辺りは何と言っても入魂のEQですから問題ないのでしょう。積極的な音作りができそうじゃないですか。そして最後はゲイン・メイクアップ用のOUTPUT DRIVER(±15dB/クリック付き)とVUメーター、TRIDENT AUDIOロゴ・マークに電源スイッチとなります。このVUメーターがなんともクラシカルで良いですねえ。ちなみに、アウトプット・レべルとリダクションが切り替えで表示できるようになっていて、リダクション・モニター時のゼロ・セットのトリムがフロントで調整できるのも何となく親切で好感が持てます。ちょっと失礼してリア・パネルものぞいて見ると、これまたびっくりのコンパクトさ。チェック機がハード・ケースに入って届いたので気付きませんでしたが、このS40の奥行きは何と16cmなんですねぇ。リア側はシンプルにXLR/TRSフォーンの入出力とコンプレッサー用のカスケード端子が並んでおります。

上下が奇麗に伸びたマイクプリと
音作りに最適なEQセクション


さて、お待たせしましたが、電源を入れてみましょう。うーむ、怪しげに青く輝くVUメーターが良いじゃないですか。夜の街に浮かぶネオン管のごとく、早く何か音を入れてみろと誘っているようです。何気なしにメーターの切り替えスイッチを押してみると、今度は緑色に光ります。これまた怪しい……意味も無く切り替えたくなります。青のライトはレベル表示、緑のライトでリダクション量と、一目でメーターのモードが分かるように色分けされているんですね。ここら辺も憎い演出です。とにもかくにも本日はボーカルの録音があったので、声でチェックしていきましょう。マイクはMILAB VIP50で、MONSTER CABLEを介してS40という接続です。VIP50はNEUMANN U87Aiなどに比べるとゲインが低めなので、S40のゲインもおのずと持ち上がります。調子に乗って結構しゃくってみましたが、S40はSN比も優秀。音色は明るくクリアではあるけれど、決して派手ではない感じです。ローエンドからハイエンドまで奇麗に拾えており、好印象と言えるでしょう。なお、ユニティで+22dBに対応しているので、ライン・レベルでも使用可能というから頼もしい限りですね。続いてEQを使ってみようとスイッチを入れたところ、あらら、ツマミはフラットなのにスイッチを入れただけでエッジが立ち、エキサイターでもブレンドしたように、ハイエンドが少しギスギスとしてしまいました。傾向を知った上で狙って使う分にはいいのでしょうか。でも、TRIDENT AUDIOを使いたい人には、EQ目当ての人も多いと思われるので、ちょっと注意が必要かもしれませんね(初めからEQ INの状態で使うなど)。そのほかの効き具合は良好で、Q幅は私の好みよりもやや狭めといった辺りでしたが、ポイントも見つけやすく、修正よりも音を作る方が得意な感じのEQだと思われます。何しろフィルターを含め、6バンドもあるEQですから、いじらないともったいないでしょう。最後にダイナミクス系セクションですが、非常に表現の幅が豊かで、ハイスピード・リミッターとしても、ガッチリ潰しにいくのにも使えます。これならミックス・ダウン時に重宝するでしょう。ちなみに、個人的には一番気に入ったセクションであります。トータルとしての印象は、どちらかというとエフェクティブな使い方に走りそうな製品ではありましたが、あえて繊細に仕上げたい部分にコソッと使いたいといったところでしょうか。
TRIDENT AUDIO
S40
オープン・プライス(市場予想価格/298,000円)

SPECIFICATIONS

■入出力端子/アナログ入力(XLR、TRSフォーン)、コンプレッサーCVカスケード、アナログ出力(XLR、TRSフォーン)
■イコライザー(すべて±15dB)/LO CUT(5Hz〜200Hz)、LO SHELF(50Hz/150Hz切り替え)、LO MID(150Hz〜2KHz)、HI MID(1.5kHz〜15kHz)、HI SHELF(7kHz/12kHz切り替え)、HI CUT(1kHz〜50kHz)
■外形寸法/480(W)×88(H)×160(D)mm
■重量/約3kg