切り替えモードで多様な素材に対応するビンテージ感満点の英国製コンプ

TFPROP8

あのJOEMEEKのエンジニアだったテッド・フレッチャーが新たに設立したブランドTFPROから、JOEMEEK SC2の進化型として登場したのがこのEdward The CompressorなるP8です。コンプの4つの切り替えモード(VCA、1176、LA2A、Green Box)が追加され、JOEMEEK時代のキャラクターをもそのままに再現。あの図太い“ブリティッシュ・サウンド”を堪能できるステレオ・コンプの名機、早速レポートしてみたいと思います。

ダイナミック・レンジの広い
楽器に適した1176モード


まずは全体的な仕様を見ていきましょう。リア・パネルにはXLRコネクターのインプット/アウトプットがそれぞれ2チャンネル分あるのみという、とてもシンプルな接続です。インプットのインピーダンスは20kΩで、ノイズ抵抗にも強い“Superbal Circuit”と呼ばれる独自の回路を採用しています。また、フロント・パネルを見てみると、ゲインは+20dBまで増幅可能となっています。アウトプットのインピーダンスは300Ωで、最大出力レベルは+26dBu、ツマミで+6dBまでブーストすることができます。なお、2つのインプット/アウトプットのツマミは軽いノッチ式になっているので、微妙な上げ下げが分かりやすくて便利です。スロープは4段階切り替えで、1.5:1〜8:1のレシオ設定が可能。アタックは最速200msからとなっています。また、入力されたステレオ音源をモノ〜150%までいじれるので、最終的にミックス・ダウンされたものなどを通すと、一層の広がり感を持たせることができるでしょう。そしてTRANSIENT RELEASEのツマミですが、GREEN BOXを選択したときのみ操作可能で、コンプレッションされた音色に変化をもたらすエフェクトとして使用できます。このP8の機能の核となるのが、SELECTで切り替えのできるコンプの4つのモードです。ここでは、それぞれのモードを試してみましたので、順に解説していきたいと思います。まず最初に“VCA”モード。4つのモードの中で一番純粋なコンプレッサーという感じでしょうか。緩やかなアタックでスムーズなリリース。録音するときに原音そのままにピークだけ抑えたいという場合には、このモードをぜひ。最終のミックス・ダウンされたものなどにトータル・コンプとしてかけるのも良いかと思われます。次に“1176”モードを試してみました。UREI 1176といえば、レコーディング・スタジオなどで最も愛用されている人気コンプレッサーの1つではないでしょうか。なんといってもあの“ゴリ”っとしたコシのあるキャラクターは、1176ならではといった感じですが、ビンテージFETコンプをシミュレートしたこの1176モードでも、その感触を十分に味わうことができます。ファスト・アタックのあの独特なFETのコンプレッションの感じはかなりうまく再現されていて、ダイナミック・レンジの広い音には最適なモードと言えます。例えば、ハードなピアノやアコギのストロークなどにはグッドでしょう。

Green BoxとEQを併用して
メリハリの効いたサウンドに


ビンテージ・コンプの代表的な存在であるTELETRONIX LA-2Aの特徴といえば、あの図太くなるローの感じと温かさではないでしょうか。ビンテージ・オプトコンプをシミュレートした“LA2A”モードを使うと、周波数によって特性が変わるコンプレッション・カーブや、イコライザーや歪み効果の再現によって、ベースやボーカルなどを通すだけで太く存在感を出すことができます。オーバー・コンプレッッションによる音やせも無いので、オリジナルのオプトコンプに近い効果を得ることができます。アメリカン・サウンドといえばこのモードでしょう。最後に“Green Box”モードですが、これは1993年に開発されたJOEMEEK SC2のシミュレートです。このモードにすると、1960〜70年代に特有の太く、アナログな音質へのこだわりに加えて、力強くツヤのあるJOEMEEKならではのブリティッシュ・サウンドが堪能できます。どの楽器にインサートしても、あの“ブリ、ガツ”というような音質が出て、これはほかには無いのではないでしょうか。また唯一このモードだけでアクティブになるTRANSIENT RELEASEのイコライザー効果により、ドラムなどのピークのある楽器はより前に出て、メリハリの効いた音に仕上がります。ドラムのトータル・コンプとしてかけるとその良さが分かると思います。今回のレビューで初めてTFPROのコンプレッサーを試してみましたが、用途に応じて4つのモードを使い分け駆使すれば、どんなものにもそれぞれ別々のキャラクターを持たせることができるP8のパフォーマンスには、個人的には大満足でした。本機は、4つの別々なコンプが入った、まさしくオールインワンな機材と言えるのではないでしょうか。DAW環境で作業している人で、アナログのあの“温かさ”が欲しいと思っている人は、楽器の録音時にかけ録りしても良いし、またミックス・ダウンの最終的なトータル・コンプとして使用すれば、必ずやその楽曲に一段の奥行き感を出すことができると思います。ホント、いろいろ活用できて便利ですよ。!
TFPRO
P8
366,000円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/20kΩ
■出力インピーダンス/300Ω
■最大出力レベル/+26dBu
■ゲイン/+20dBu
■全高調波歪率/0.1%以下(コンプ動作時は1.0%以下)
■SN比/120dB
■外形寸法/480(W)×120(D)×90(H)mm
■重量/3kg