映像と音を同時にスクラッチできるVJ/DJ待望のDVDプレーヤー

PIONEERDVJ-X1

近ごろのクリエイター周辺のテクノロジーの進歩は目覚ましく、数年前に思い描いてたことが次々と実現するさまには目を見張るものがある。サウンド・クリエイトのシーンではデジタル真っ盛りでサンプリング・レートはバブル時の地価のようにうなぎ上り。新機種も続々発売され、VJシーンにいる僕はひたすら指をくわえてました。そんなデジタルへの追い風の中、ついに発表!PIONEER DVJ-X1! ついこの間、DVDへ自分の映像を記録できるようになったと思ったら、コスれるようになってしまったとは!

急激なスピンにもしっかり追従
対応メディア・フォーマットも豊富


昨年11月にDVJ-X1の製品発表会が開かれた。会場は僕がいつもVJをしている渋谷のクラブ、WOMB。前半はメーカーの人による製品紹介や宇川直宏氏+DJ TASAKA、HIFANAなどによるデモンストレーションが披露され、後半はデモ機をいじれる時間が30分ほどあったので早速触ってみた。まずはスクラッチ。そう、本機はスクラッチ可能なDVDプレーヤーなのだ。とにかく本体中央のジョグダイアルを回してみる。見事に映像と音が一緒になってスクラッチされる。速くコスッてもゆっくりコスッてもちゃんと映像はついてくる。結局、この日は時間を忘れてコスッてばかりいたので、ほかの機能は全くチェックできず。スクラッチだけが本機の魅力ではないであろうと思っていたところ、今回チェックさせていただくことになった。そして待望のDVJ-X1がついに到着。発表会で若干触って知っていたとはいうものの、やはりデカイ! ちょうどターンテーブルを縦置きにしたくらいの大きさだ。そのど真ん中に直径206mmの超大型ジョグ・ダイアルが搭載されており、操作性の良さを予感させる。青とオレンジに振り分けられたボタン視認用LEDの配色も心地よい。でもこの半端じゃない大きさ、目立ちます。なんだかすごそうで良い。やっぱり外見って大事。また、背面に備えられたコネクター類とヒートシンク部分にはガードが付いていて、不意に衝撃を受けても壊れないようになっている。さすがクラブ・シーン向けのCDプレーヤーなどを世に送り出してきたPIONEER、信頼感は抜群である。さて、DVJ-X1にはNORMALモードとDJモードという2つのモードがあり、背面のスイッチで切り替えて使用する。NORMALモードでは一般的なDVDプレーヤーの機能をサポートし、DJモードではジョグ・ダイアルを使ったパフォーマンスやHOT CUE機能などが可能。今回はDJモードでの使用を前提に魅力を探っていこう。まずは先ほども触れた本機の顔といってもいいジョグ・ダイアル。もちろん、DVDをスクラッチ可能である! 同社のスクラッチ可能なDJ用CDプレーヤーCDJ-1000などと同じように、サウンドは途切れること無くスクラッチされ、さらに映像までもが違和感なく追従する。急激なスピンに対しても映像が遅れることは全くない。ジョグ・ダイアルの天板を押すと再生が止まり、離すと再生されるのだが、減速や立ち上がりの速さなどはTOUCH/BRAKEつまみで調節できる。そればかりか、ジョグ・ダイアルの外周を使ったピッチ・ベンドも可能。これは再生中に外周部分を使って回転させると、その分だけ減速/加速が可能という機能で、もちろん映像もキチンと追従してくれる。ロング・ミックス時のテンポの微調整中でも映像のシンクロが乱れることはない。これらはVINYLモードをオンにしたときに可能な機能だが、オフにするとポーズ時にフレーム単位での正確な頭出しやCUEポイント設定などが行える。また、注目したいのがHYPERJOG MODE機能。これをオンにするとスクラッチ時のサウンド、映像の変化率を2倍に設定できる。特に映像での効果は歴然としており、スクラッチに合わせてよりダイナミックに早送り、巻き戻しが可能だ。CDJ-1000にも搭載されている再生方向の切り替えスイッチ(DIRECTION FWD/REV)も搭載。この機能でも映像は違和感なく追従し、ポジションをREVにした瞬間から逆再生される。これをビートに合わせて切り替えるだけで相当遊べてしまう。そのほか、TEMPOフェーダーによる再生スピードの変更もスムーズに行える。DVDの場合は最大−100%〜+70%まで、CDでは最大±100%までコントロールでき、状況に応じて±6%、±10%、±16%、WIDEの4段階で変化幅を選択可能だ。なお、本機はCDJ-1000MK2とほぼ同じボタン配置なので、このシリーズに慣れたDJであれば本機の操作にもすぐになじめるだろう。ここで、再生可能なメディアについても触れておこう。やはりVJたるもの、扱えるメディアのフォーマットにはうるさいのです。せっかく映像をスクラッチするという画期的な機能も、市販のDVDしか使えないのではその魅力は半減してしまう。やはり、自分で編集した映像素材を使いたいところだが、本機はDVD Videoのほか、DVD-R(ビデオ・モード)、DVD-RW(ビデオ・モード)、オーディオCD、CD-R、CD-RWにまで対応している。自作CGネタを多用するVJスタイルでも、パソコンにDVDを作成できるドライブが装備されていれば、本機で使用可能なメディアを作れるわけだ。手元にSuper Drive搭載のAPPLE Power Mac G5/1.8GHz Dualがあったので、APPLE DVD Studio ProでVJ素材をDVD-Rに書き込み、本機で使用してみたところ問題なく再生することができた。

映像と音をサンプリングして
即ループ再生が可能


それではもう少し詳しく再生方法についてみていこう。本機ではCDJ-1000と同じ感覚でループ再生も簡単に設定できる。再生中にディスプレイの下にあるIN/REALTIME CUEボタンを押すとループの頭が設定され、LOOP OUT/OUT ADJUSTボタンでループのお尻を決められ、これで設定した範囲がループ再生される。ループを抜けるにはRELOOP/EXITボタンを押すだけでよい。ボタン一発で、自動的にLOOPOUTポイントを設定してくれるEMERGENCY LOOP機能も装備されていて便利。さらに、一般的なCUE機能のほかにHOT CUE機能というものも装備されている。これは再生中に任意の場所へCUEポイントを設定し、それをHOT CUE A/B/Cの3つのボタンにアサインして一発で再生位置を切り替えることができるというもの。設定も至って簡単。REC MODEボタンをオンにし、DVDを再生しながらA/B/Cいずれかのボタンを押すと再生位置が記録される。あとはREC MODEボタンをオフして、A/B/Cボタンのどれかを押せば瞬時に各ボタンに登録した再生位置へジャンプする。しかも、ループ再生中にHOT CUEボタンを押すとループ情報が記録され、3つのループをどんどん切り替えて再生することも可能だ。長々と説明したが、つまり本機は究極のビジュアル・サンプラーとしての機能も兼ね備えているということ。SDメモリー・カードを使えばこれらの情報をディスクごとに保存でき、プレイの前にあらかじめセットして随時呼び出すことが可能だ。ただし、メモリーからの呼び出しに3秒程度かかるのが気になるのはぜいたくというものか。VJ機器としては、再生機能のほかに出力周りも重要だが、まさに本機はかゆいところに手が届く仕様となっている。プレビュー用モニター端子としてS-VIDEO端子とコンポジット端子が用意されているので、プレビュー用のビデオ・モニターを1台用意するだけで、再生状態や経過時間を表示できる。この画面では設定したループ・ポイントやCUEポイントなども視覚的に確認できるので、例えば、SDメモリー・カードに保存したCUEポイントをブラウズする際にも、サムネイルを見ながら選択できて大変便利。この機能はアイディア次第で通常のDJプレイにも応用できる。例えば、サウンドのトラックと一緒に小節数やブレイクの頭までのカウント・ダウンなどを映像としてDVDに焼き込んでおき、これをガイドとしてCUEポイントを設定しておけば、ブレイク中のビートレスな状態からのミックスといった難度の高いプレイも可能になるだろう。そのほか、メインの映像出力としてコンポジット出力のほかコンポーネント出力にも対応し、両端子には信頼性十分なBNC端子が採用されている点も見逃せない。今回は業務用映像機器が手配できなかったため残念ながらチェックできなかったが、コンポーネント端子はプログレッシブ出力に対応。パソコンなどで制作したCG画像なども質感を損なわずに映写できるだろう。

DVDの高音質を活用した
新たなDJプレイの可能性


VJ用ツールとして魅力満載な本機だが、実はDVDというメディアを上手に使えばDJツールとしても見逃せないマシンでもある。昨今、レコーディング環境はハイビット、ハイサンプリング・レート。そこでサンレコ的な裏技としてお勧めなのが、自作曲をDVDに焼いてしまうこと。本機はDVDの規格に準拠していて、サンプリング・レート96kHz(!)まで対応。超ハイクオリティ・サウンドをフロア中に響かせることが可能なのだ。映像も作り込んだ自作のトラックを本機で再生し、DJミキサーでは音をミックス、映像をVJブースに送ってビデオ・ミキサーでVJにミックスしてもらうという新たなプレイも可能になる。さらに別の活用方法としては、トラックの情報、例えば曲頭からの小節数やループを設定したい部分などをサウンド・トラックと一緒に映像としてDVDに焼いておき、本機にビデオ・モニターを接続して視覚的に曲の構造を把握しながらのDJプレイも行える。このように本機はDVDというメディアを新しいパフォーマンス・ツールに変貌させてしまうことができるマシンだ。機能的に大変満足でぜひとも僕のVJセットに加えたいのだけれども、できればヘッドフォン端子を付けてほしい! イベント当日にかかる曲に対して映像を作り込んだ場合、DJプレイに合わせてそのDVDを再生させるガイドになるのは、やはりオーディオ・トラック。VJといえどもヘッドフォンで音をモニターしてCUEポイントを設定したり、テンポを微調整できると便利だと思う。次期モデルではぜひ実現してほしい。今回は残念ながら1台でのテストだったが、DVJ-X1×2+DJミキサー+ビデオ・ミキサーというセッティングにすれば、よりパフォーマンスの可能性は広がるだろう。特に打ち込み系のライブ・ステージにはかなりの威力を発揮すると思う。このセッティングは近い将来、ぜひ自分のイベントでトライしてみたい。ともあれ、このDVJ-X1によってDJとVJが共にDVDという同じメディアでパフォーマンスができるようになったということは革命的である。DVJ-X1でパフォーマンスすることを前提にサウンド、映像を作り込んでDVDに焼き、クラブで本機を用いてプレイするというスタイルが根付くのもそう時間がかからないと思う。欧米、特にヨーロッパのクラブ・シーンでは"AUDIOVISUAL"という新たなスタイルがここ数年で急速に浸透しつつある。AUDIOVISUALとは、サウンドも映像も同時にクリエイトされ、パフォーマンスされるということ。サウンドと映像がセットとなって1つの作品、1つのトラックとして扱われるのだ。つまり、DJとVJの互いの領域がクロスオーバーした次世代のシーンということなのだが、DVJ-X1の登場はこの新しいシーンを後押しする強力な追い風となるに違いない。

▲リア・パネル。上段左より、モード切り替えスイッチ(NORMAL/DJ)、コンポーネント・ビデオ出力端子(Y、CB/PB、CR/PR)、コンポジット・ビデオ出力端子(COMPOSITE)、モード切り替えスイッチの下にはデジタル出力端子(DIGITAL OUT)、コントロール端子(CONTROL)、同期信号入力端子(SYNC IN)が並び、その右にオーディオ出力端子(AUDIO OUT)、ビデオ出力端子(VIDEO OUT)、プレビュー・ビデオ出力端子(PREVIEW OUT)が並ぶ

PIONEER
DVJ-X1
400,000円

SPECIFICATIONS

■再生可能メディア/DVD Video、DVD-R(ビデオ・モード)、DVD-RW(ビデオ・モード)、音楽CD、CD-R、CD-RW
■映像特性(水平解像度)/540本
■映像出力/コンポーネント映像出力(BNC)、S1/S2映像出力、コンポジット映像出力×2(RCAピン、BNC)、プレビュー映像出力2系統(RCAピン、S1/S2映像出力)
■デジタル出力/コアキシャル(RCAピン)
■音声出力/アナログ2ch(RCAピン)
■その他の端子/コントロール端子(3.5φミニ・ジャック)、同期入力端子(BNC)
■音声特性/S/N:115dB以上(JEITA)、全高調波歪率:0.006%(JEITA)、周波数特性(CD):4Hz〜20kHz、周波数特性(DVD、96kHz):4Hz〜44kHz
■外形寸法/348(W)×128(H)×451(D)mm
■重量/7.3kg