使用環境を選ばないバイアンプ方式のパワード・ニアフィールド・モニター

EVENTTR8
ナチュラルなサウンドに定評のあったPSシリーズの後継機として、EVENTからパワード・モニターの新製品Tuned Referenceシリーズが登場しました。今回はその中でも上位クラスのモデルである、TR8をレビューすることになりました。

豊富な入力端子を備え
あらゆるソースにマッチング

TR8はバイアンプ方式を採用したパワード・モニターです。LF用には50W、HF用には30Wのパワー・アンプが内蔵されています。ユニットはLFが20cmのポリプロピレン・コーン製、HFが2.5cmのシルク・ドーム製のものです。

背面にはXLR、フォーン(バランス)、RCAピンの各入力端子があるので、今回使用したようにDIGIDESIGN Pro Toolsのオーディオ・インターフェースから直接入力もできますし、通常のように卓のモニター・アウトをつなげてモニター・ボリュームをコントロールすることもできます。また、本機のインプットには0〜−20dBの連続可変トリムも備えられています。

電源を入れると、ウーファー下のランプが緑色に点灯し、音が入力されると赤くなるので、電源を入れたままで卓の電源を落とすというようなことも無くすことができるでしょう。防磁タイプなので、スピーカーの間にCRTモニターを置いても安心して使用できます。

ローエンドまで分かる豊かな低域
宅録からスタジオでの使用まで対応

今回のテストは、普段のようにスタジオのコンソールの後ろ側に設置した場合と、自宅での使用環境に近い真四角な部屋で行いました。

まずスタジオで試聴してみましたが、第一印象はかなりハイエンドが伸びていて、そのためか音楽の空間が広がったように聴こえました。低音も、以前聴いたことのある同社の20/20Basに比べ、かなりナチュラルに出ていて、聴きやすい印象です。本機の周波数特性は38Hz〜20kHzだそうですが、そのローの出方はスペックを見るまでもなく、出音で分かります。全体の傾向としては、若干派手めに聴こえるモニターと言えるでしょう。

試しに入力ゲインを最大限まで上げてみましたが、あまりウーファーが動かないのでちょっとびっくりしました。この場合、高域はきれいに伸びていたのに対し、低音のビビりが少し気になりましたが、普段の作業ではここまで音量を大きくはしないので問題は無いと思います。Tuned Referenceシリーズには、本機のアンプ部を強化したTR8XL(最大SPL:111dB)というモデルもあるのですが、スタジオでの使用であっても本機(最大SPL:108dB)で全く問題はありませんでした。

普段使用しているYAMAHA NS-10M Studioはかなりフラットです。ボブ・クリアマウンテンはNS-10Mのツィーターにティッシュ・ペーパーをドラフティング・テープでかぶせて高域を抑え、これでミックス・ダウンすると出来上がった音が派手になる、ということをしているそうです。NS-10M Studioと聴き比べた場合、本機はかなり派手な傾向にあるので、ティッシュをツィーターに被せる実験もしてみました。当たり前ではありますが、1枚でも付けてしまうとかなり全体のトーンが変わってしまい、バランスまでもが失われてしまいます。そこで、本機のリアにあるトリムを−20dBまで下げて使用してみました。どうもこの方が低音のビビリも気にならないように感じます。8kHz辺りの高域のピークらしき感じも、若干すっきり聴こえました。

一方、真四角な部屋では、NS-10M Studioでは低音が不足気味で、全体に音が飛び散って遠い感じがします。よく筆者も複数のミュージシャンから“スタジオと同じシステムのアンプとスピーカーなのに、低音が遠いんだよ”と相談されます。普通の部屋では、スタジオと違い吸音もされておらず、壁も平行なため、高域のフラッターなどのビーンというような反響がそういった症状の原因となるのです。そんな部屋でもこのTR8はとても良い状態で鳴ってくれました。

今回チェックしてみて、もちろんスタジオでの大音量モニターにも向いているのですが、自宅用とするのもなかなか良いと感じました。自宅でNS-10M Studioを使用している方も多いと思いますが、スタジオのように大音量で聴くことができないため、低音が聴きづらいこともしばしばあるのです。また、スタジオにおいても最近のR&Bテイストのキックやシンセ・ベースなどは、NS-10M Studioで大音量で鳴らすと必ず歪みますし、時にはウーファーが飛んでしまうこともあります。このTR8では、その低音の不足感を気にすることなくモニタリングができるでしょう。

逆に、大音量再生も余裕でこなせるので、50人規模クラスのPA用スピーカーとしても使うことができると思います。知り合いのミュージシャンがコンパクトなミキサーと組み合わせて簡単なPAシステムが組めるようなスピーカーを探していましたが、そうした用途にも、値段・音質、さらにはセットアップの簡単さの面で薦められると思いました。

EVENT
TR8
85,000円(ペア)

SPECIFICATIONS

■ユニット径/LF:20cm、HF:2.5cm
■アンプ出力/LF:50W、HF:30W
■周波数特性/38Hz〜20kHz(±3dB)
■クロスオーバー/2.6kHz(アクティブFourth Orderフィルター)
■最大SPL/108dB
■ノイズ/100dB以下(最大出力時)
■外形寸法/260(W)×380(H)×300(D)mm
■重量/11.2kg(1本)