小型ながらスピード感と奥行きのある音像を実現したパワード・モニター

TAPCO BY MACKIE.S・5

今回レビューするのは、アメリカのTAPCO BY MACKIE.のパワード・モニターS・5です。このメーカーはその名の通りMACKIE.のファミリー・ブランドで、創立者のグレッグ・マッキーは1969年にロックンロール・ミュージック用に作られた最初の6チャンネルPAミキサーを制作した人だそうです。ちなみに、S・5のSは“smooth”(スムースな)“satisfying”(満足できる)“superior”(優れた)といった意味で、オーディオ・エンジニアの教祖的存在であるグレッグ・マッキーと、HR824をはじめとしたMACKIE.のスタジオ・モニター開発責任者のテリー・ウェザビーがデザインを手掛けています。

コンパクトなサイズでありながら
豊かな低域を実現


S・5はアクティブ・クロスオーバーやパワー・アンプ、そして2つのドライバーを1つのキャビネットへ統合することによる数多くのメリットを最大限に生かすように設計されているそうです。アンプ部はスピーカーから最大限の音響出力が得られる設計になっているのですが、同時にオーバードライブによるスピーカー損傷の危険性を排除する配慮もなされています。アンプのアウトプットとドライバーの間の配線は徹底的に最短化されており、長いスピーカー・ケーブルの抵抗によってパワーが弱くなることもありません。また、2つのドライバーから合成された音響出力は振幅反応の調和がとれており、位相の差は最小限に抑えられているのです。スピーカー構成は2ウェイで、クロスオーバー・ポイントは4kHzです。完全防磁なのでDAWシステムなどでディスプレイの近くに設置することも可能です。また、コンパクト・サイズながら最大113dB(SPL)の音圧!! 重量は1本7.0kgと非常に軽く、持ち運びも楽々です。入力端子はXLR、TRSフォーン(バランス)、RCAピンと3タイプ用意。電源部はAC115VとAC230Vの切り替えで、日本国内ではAC115Vで使用します。本機はHIGH FREQ FILTERは5kHz以上を+2dB/0dB(フラット)/−2dB、LOW FREQ FILTERは65Hz以下を0dB(フラット)/+4dB/+2dBと切り替えできるので、部屋の大きさや音響変化にも対応できます。さらに、本機の裏側に設けてあるベース・リフレックス・ポートによって豊かな低域を実現しているのです。

小音量でもバランスに優れ
立体感のあるサウンド


本機が届き、早速試聴をしようと箱から出したところ、まずそのデザインに目を引かれました。小型でもなく大型でもない、何ともかわいらしいサイズです。スチール・フレームも高級感があって、視覚的にも良い音が聴こえてくる予感がします。エンクロージャーは共振を排除するMDF合板が使われており、頑丈な作りがこれからの長いつき合いを物語っているようです。では、この愛らしいS・5の音を確かめていきましょう。まず、全体の印象としては音にツヤと躍動感があります。スピード感と奥行きのある音像でありながら、前に音が張り出しています。また、小さな音でもローエンドがしっかりとしており、バランスも好きな感じです。筆者はHR824を普段から聴き慣れているのですが、HR824とは少し印象が違ってアメリカン・サウンドというよりはヨーロッパなども視野に入れて作っている感じがします。それにしても音に立体感があり、新次元のハイフィデリティを感じます。音楽をどんどん聴きたくなります。もちろん普段の作業で使うモニター・スピーカーは粒がクッキリ聴こえるものが良いのですが、長時間作業をしていると徐々に音量を上げていってしまいがちです。そのため、最終的には耳を早く疲れさせてしまった経験がある方も多いと思いますが、S・5はそれほど音を大きくしなくてもバランスが良いので、長時間でも作業に没頭できるでしょう。ただ、ちょっと気になったのが、大きな音で聴くときにバランス自体はそれほど変わらないのですが、レンジが多少狭いこと。音の細部が若干、分かりづらいのと、歌やスネアのピッチが微妙にほかのスピーカーとは違う印象です。中域に特徴があり、若干、歌などが引っ込んでいる感じがします。ただし、これらはリア・パネルのHF/LF FREQ FILTERの設定によって補正できる範囲だと思います。スピーカーを設置する背後の壁の材質や反響によって、設定やセッティングは大きく変わると思いますが、音が反射するようなガラス窓でも上手にセッティングすれば良い音になります。マンションなどのプリプロ・ルームでも能力を発揮できる設計になっているわけですね。また、ローエンドは少し人工的な感じを受けたのですが、ここは音楽を制作する上で非常に重要な帯域なので皆さんもいろんなセッティング/設定を研究してみてください。筆者は割とダンス・ミュージックが好きなこともあって、少し片寄った選曲で試聴したのですが、クラブ・サウンドと相性はバッチリです(もちろんロックなども全然アリですよ)。最終的な感想としては、コスト・パフォーマンスに優れており、若くして音楽制作をしている方々の大きな武器になることは間違いありません。デザインもかわいらしく、しかも音が太い!! 持ち運びも容易ですし、パワード・スピーカーの入門にはもってこいだと思います。TAPCO BY MACKIE.というメーカーは要チェックですね!!
TAPCO BY MACKIE.
S・5
62,800円(ペア)

SPECIFICATIONS

■スピーカー・ユニット/LF:133mmスチール・フレーム付ポリプロピレン・コーン・ウーファー、HF:25mmシルクドーム・ツィーター
■周波数特性/64Hz〜20kHz(±3dB)
■出力音圧レベル/100dB SPL@1m
■アンプ出力/LF:60W/100V、HF:60W/100V
■外形寸法/194(W)×286(H)×232(D)mm
■重量/7.0kg