伝統を継承しつつ次世代スタジオ向けに開発されたコンデンサー・マイク

NEUMANNTLM127

スタジオ用コンデンサー・マイクの代名詞とも言える、独NEUMANN社より、新世代リファレンス機と銘打たれた、TLM127が発表になった。ローコスト・マイクが乱立気味の昨今のマイク市場に、しにせが放つ製品とは?

機材にふさわしい精密なケースと
品質の良さを感じさせる外観


豪華な木製ケース(付属品)を開けると、ドイツ製品特有の厳格さを持った風格の本機が鎮座していた。マイク・カプセル部は、TLM103型(NEUMANN製の中ではローコスト・クラス)と同じ?と思いきや、本機用にアレンジした103系が用いられているとのメーカー・コメントあり。それにしてもこの木製ケース、最近では、U87Aiにも付属しているのだが、角の継ぎ目部分を指で触っても凸凹が分からないほど、精密に作られている。高価であろうと思われるケースは要らないからその分安くしてほしいとも思うのだが、これだけ精密に作られていると、除湿庫を持っていない人は乾燥剤を入れておけるなど、実用的なケースとも言える。さて、これまた付属のサスペンデッド・ホルダーに取り付けてみる。嗚呼、まさしくドイツ製のネジの感触。工作精度と金属材料の品質が良いのだろう。わずかな力で確実に脱着できる。これが、いわゆるダメネジだと、緩んでほしくないときに緩む→マイク・アレンジが変わってしまうので強く締める→緩めたいときに緩まないネジに育つ→良い相棒感が育たない、という図式が成り立ってくる。話がそれてしまったが、マイクは、エンジニアが音場との接点を探すとき(マイク・アレンジ時)に、直接手で触れるものである。使用感の良し悪しは大事だと思うのだが、品質の高さを感じるのはネジ部分だけではない。ボディ本体、カプセル部を覆うメッシュ・グリル部分も、剛性の高い作り。カプセルを内包するボディが音圧を受けたとき、不要な共振/共鳴をするようでは、ダメなのだ。仕上げのニッケルサテン・メッキも美しい。昨今メッキ部の仕上げが粗い製品が多くなったが、そんな製品は、時間が経つにつれ、内部部分の接触不良に悩まされることが多い。本機はまず大丈夫であろう。

ポテンシャルの高さを物語る
清楚な印象のサウンド


さて、新世代のリファレンス機とは、歴代の名機U87とはどう違うのだろう。スペックを比較しながらチェックしていく。なお、現行のU87とは、15年前にモデル・チェンジしたU87Aiのことで、それまでのU87とはスペックが異なる。まず、感度についてだが、TLM127は、U87Aiより6dB強低い。U87Aiは、ポピュラー系には感度が高過ぎてやや使いにくい面があったのだが、本機はPADを入れたときの最大耐音圧140dBということで(U87Aiは127dB)、とても扱いやすく、実用的と言える。特に14dBというPAD値は、使ってみればよく分かるのだが、現在流通している製品のプリアンプ部にマッチングさせやすい値と言える。自己雑音レベルもSN比もスペック上では、U87Aiより良い。しかし、マイクの実用SN比は、収音音圧に応じた適切な感度のマイクを選ぶことの方が大事なので、どんな場合でも、U87Aiよりノイズが少ないというわけではない。本体のみでは、単一指向性と無指向性のみだが、本機の指向性を切り替えるスイッチを“R”ポジションにし、別売りの専用ファンタム電源を用いると、ハイパー・カーディオイド、広角カーディオイド、双指向の3つが加わり、5種類の指向性が得られるらしい。本機のXLRアウトは、通常の3ピンなのだが、どうやってそんな機能を作るのだろうか? 残念ながら、近日発売予定なので、手元には無く詳しいことは不明。双指向性が使えるのであれば、U87Aiと同じように、本機2本とマトリックス・トランスを使えば、MS型のステレオ・マイクを構成することも可能。さて音質についてだが、ローコストなスタジオ・マイク、旧型U87i、現行U87Aiと比べてみると、U87iとU87Aiのまさしく中間の感じ(U87Aiを硬質、U87iを柔らかめとした場合)。そして、清楚な音という印象を受けた。これは持論なのだが、マイクに限らず音響製品は、基本的な部分がしっかりしていて、一聴したときの印象が物静かな印象を持つ製品は、うちに秘めたポテンシャルが高いと思う。使い手によって引き出せる要素が広範囲にあり、長く使えるプロの道具となることを私自身が多く経験している。今回は、強い安心感があったため、実際現場で使ってみた。ex-GIRLのボーカル、KIRILOLAさんの歌入れだ。例えば高域では、ボーカリストによって巧みにコントロールされるキラキラ、サラサラ、ギラギラ、ザラザラ感を余すところなく、かつ誇張することなくとらえる、そんな感覚のマイクであった。昨今の安価なマイクも、多少キャラクターが加わるぐらいで、その差を無理矢理数字で表せば数%なのかもしれない。そして、そのわずかな差を得ようとすると、急に投資額が高くなるのは、機械や楽器の常。例えば、32万円あれば、ドラムの周りに10本のコンデンサー・マイクをそろえられる。それはそれで素晴らしいことで、私も最初の32万円はそういう使い方を勧める。しかし、次の32万円は本機のような製品に使うべき。あなたの手元にずっと残っていくだろうから。
NEUMANN
TLM127
320,000円

SPECIFICATIONS

■指向性/オムニ、カーディオイド(専用電源によりリモート切替可能)
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■プリアッテネーション/−14dB
■感度/12mV/Pa
■最大音圧レベル/140dB(0.5%THD)
■外形寸法/58mm(φ)×173(H)mm
■重量/0.45kg