最大32tr再生可能でアナログ・コンプ搭載の超弩級ハード・ディスク・レコーダー

KORGD32XD

D1600、D12などハード・ディスク・レコーダーのベストセラー(と言っていいだろう)をリリースしてきたKORGが、さらに本格的なレコーディングにも対応できる“重量級”モデル、D32XDとD16XDの2機種を発表した。今回は最大16トラック同時録音/32トラック同時再生が可能という上位機種のD32XDを試用する機会が得られたので、その使用感をレポートすることにしよう。

トラック数は余裕の272
アナログ・コンプ搭載の入力部


最近は、比較的コンパクトなハード・ディスク・レコーダーに接することが多かったが、D32XDのボディはスタジオにあるミキシング・コンソールのようで圧倒的な存在感がある。100mmムービング・フェーダーや大型のタッチビュー・ディスプレイが整然と並べられたデザインはどことなく未来的でかっこいい。中でも目を引くのが独特な色調のパネル。グリーンがかったメタリック・グレーと言えなくもないが、正確に説明するのは難しい色だ。見る角度によって変化する不思議なヘアライン仕上げで写真で見てもなかなか実際のイメージは伝わらないかもしれない。かといって奇抜なものでもなく渋い飽きのこないデザインだ。基本性能は冒頭でも触れた通り、最大同時録音は16トラック、同時再生は32トラックと超弩級(16ビット、44.1kHz/48kHz時)。小規模なレコーディング・スタジオでのリズム・セクションの一発録りなら余裕で対応できるだろう。また、24ビット/96kHzでの録音もできるので(同時録音トラック数は4、同時再生トラック数は8)、繊細なアコースティック楽器を主体とした楽曲の制作にも威力を発揮しそうだ。また、各トラックには8つのバーチャル・トラックもあり、D32XDにはマスター・トラックも用意されているので、合計272トラックが使用できることになる。これだけあれば、急に別テイクを録りたくなったときなどもすぐに対応できるだろう。編集機能についてもほとんど完成の域に達していると言ってもよく、ハード・ディスク・レコーダーに求められる編集機能はほとんど網羅されている。もちろん、編集は非破壊で行え、16回前までの状態に自由に戻ることが可能だ。次にミキサーの入出力周りを見ていこう。アナログ入力は8系統用意されていて、XLR端子とTRSフォーン端子を使用できる。ファンタム電源もそれぞれ独立してオン/オフが可能になっているので、コンデンサー・マイク使用時に他の入力端子に接続したダイナミック・マイクなどへ余計な電圧をかける心配がないのはうれしいところ。また、ハイインピーダンスのギター入力端子は本体前面に用意されていて使い勝手がよい。オプションのアナログ・インプット・ボード、AIB-8(30,000円)を使うと、さらに8つの入力(こちらはTRSフォーンのみ)を増やすことができ、マイクでの16トラック一発録音も可能になる。ここで特筆すべき点は、8系統の入力それぞれに標準でアナログ・コンプレッサーが用意されていることだ。デジタル・エフェクトの1機能としてコンプレッサーが搭載されているのはよく見かけるが、本物のアナログのコンプレッサー搭載というのはそうあるものではない。リアルなアナログ回路でDSPとはひと味違った雰囲気のサウンドを手軽に作れるところはポイントが高い。また、便利なのはアナログ・コンプレッサーなのにパラメーターを記憶して呼び出せるところだろう。インプット・オプション・ボードで入力チャンネルを追加した場合でも、追加した8入力分にアナログ/コンプレッサーをやはりオプション(ACB-8:40,000円)で増設することが可能だ。そのほか、本体にはデジタル入出力としてS/P DIF入出力(オプティカル)が用意されているが、ワード・クロック入出力付きのADAT I/Oボード、DIB-8(17,000円)を装着することによってADAT入出力に対応した機器を接続することができるので、かなり柔軟にシステムの拡張を行うことができそうだ。アナログ出力としてはマスター・アウトとモニター・アウトのほかに、エフェクトのルーティングをはじめいろいろと使い回しができそうなAUXアウト端子が4系統用意されている。なお、主なアナログ入力端子類は、オプション・ボード装着時も含めてすべてパネル上面に用意されているので、パッチ・ベイを使用しなくても効率的な作業が行えそうだ。これに対して出力関係やデジタル入出力、MIDI端子といった、さほど抜き差しを行う頻度が高くなさそうなものは背面に設置されているのは使いやすい。

各チャンネルに4バンドの
フルパラメトリックEQを装備


本機の基本的なミキサー構成は32チャンネルだが、24チャンネルのサブミキサーも用意されていて(AIB-8およびDIB-8使用時)、これを使うとMTR録音/再生中にアナログ入力、ADAT入力などをミックスでき、外部エフェクトのリターンとしても活用できる。また、メインの32チャンネルには、それぞれ4バンドのパラメトリック・イコライザーが用意されている。フルパラメトリックは結構扱いが面倒だったりするが、D32XDでは専用のコントローラーがディスプレイ脇に用意されていてスピーディな操作が可能だ。マスター・セクションにはさらに8バンドのパラメトリックEQが用意されていて基本的な音作りは万全の体勢だ。もう1つミキサー部で目を引くのは、マスター・フェーダーを含めた17本の100mmストロークのムービング・フェーダー。D32XDではイベント・オートメーションという機能が搭載され、これによって再生中の曲のフェーダー、パン等の動きを記録することでキメの細かいミックス・ダウンが行えるのだ。デモ演奏でこれらのフェーダーが一斉に動くのを眺めるだけでもなかなか圧巻。また、このムービング・フェーダーにはタッチセンス機能が備わっていて、動作中のフェーダーを操作することによってオートメーションの上書きなどが行えるようになっている。これはミックス・ダウンなどのときに大変便利な機能だ。気になる部分の音量をフェーダーを動かすことによって部分的に書き換えられるPunch Writeモードなどもミックス・ダウンの仕上げの段階では便利そうだ。なお、ミキサーの設定を記憶/呼び出し可能なシーン・メモリーは100個用意されている。エフェクトはKORG製品でおなじみのモデリング・テクノロジーREMSを使用した高品位なものが用意されている。単なるエフェクトだけでなく、アンプ・シミュレーターやマイク・シミュレーターも用意されているので音作りの幅も広がる。また、レコーディングの各段階においてインサート、マスター、ファイナルという3つのエフェクトが用意され、それらを同時に使用できるというパワフルな仕様。エフェクトの種類も実に多岐にわたっているので、大抵の音作りは内蔵のエフェクターで事足りるだろう。また、このエフェクターにもコンプレッサーが用意されているのでアナログ・コンプレッサーと使い分けることができる。

80GBハード・ディスクを標準装備
ナチュラルで深みのあるサウンド


ここまでにD32XDのベーシックな部分を紹介したが、ほかにも便利な機能が豊富に装備されているので紹介しよう。まずは“PCドライブ”機能だ。D32XDには標準で80GBのハード・ディスクが内蔵されているが、このPCドライブ機能はD32XDとコンピューターをUSBケーブルで接続し、D32XDの内蔵ハード・ディスクの一部をあたかもコンピューターの外付けドライブのように使えるというもの。これによって録音したデータをWAV形式でやりとりしたり、コンピューターにD32XDの録音データをバックアップしたりすることもできる。さらに、本機にはCD-R/RWドライブも内蔵され、“アルバムCDプロジェクト”と呼ばれる機能で、シンプルな操作でCDを作成できる。任意の曲順に並べて曲間などの設定を行うことができ、試聴も可能だ。そのほか、単なるドンカマとは一線を画したDシリーズ伝統のリズム・パターンも健在だ(265種類内蔵)。使い勝手としても今までのDシリーズをさらにブラッシュアップしているように感じられた。タッチビューと過不足のないフィジカル・コントローラー類で、ストレスなく操作できるという印象を受けた。特に、タッチビュー画面の下部に表示されるタブでページを切り替える“タブメニュー”方式のおかげで、階層がいたずらに深くならないことも操作しやすさの一因だろう。フロント部にはヘッドフォン出力が2つ備えられているが、これらのボリュームを独立して調整できるのも、多くの同時録音数を持つ機種ならではの配慮だ。音質的には、24ビット/96kHzで録音されたアコースティックなデモ曲を聴いても分かる通り、ナチュラルで深みのあるサウンドに感じられた。マイクプリも音やせすることなく、空気感も含めてコンデンサー・マイクの音をよく引き出してくれる。アナログ・コンプも汎用的なサウンドながら、デジタルとはまた別の雰囲気の滑らかなコンプレッション感で、ノイズも極めて少ない。マイクプリとのバランスもよく取れている。D32XDはサイズ的にも機能的にも超弩級と呼んでいいハード・ディスク・レコーダーだろう。全体的に従来のDシリーズで培ったものをさらにブラッシュアップしているという印象を受けた。入力などをフルに拡張すれば、小規模なレコーディング・スタジオでも十分活躍できるだろうし、音にうるさいアマチュアも満足する製品だと思う。それに何といっても、このスペックをこの価格で手に入れられるというのは大きな魅力だ。

▲フロント・パネル。左からGUITAR INPUT、エクスプレッション・ペダル、フット・スイッチ、ヘッドフォン×2(ボリューム付)。右側にはCD-R/RWドライブを標準装備



▲リア・パネル。右側上段に並んでいるのはファンタム電源(+48V)のオン/オフ・スイッチ。下は右から、MASTER OUTPUT、MONITOR OUTPUT、AUX OUTPUT、S/P DIF INPUT、S/P DIF OUTPUT、MIDI IN/OUT、USB。薄いグレーの部分はオプション・ボード、DIB-8を取り付けた状態でワード・クロック入出力とADATオプティカル入出力が追加されている

KORG
D32XD
370,000円

SPECIFICATIONS

■録音フォーマット/16ビット/24ビット非圧縮@44.1kHz/48kHz、 24ビット非圧縮@96kHz
■トラック数/272トラック=(32+マスター2)×8バーチャル・トラック、同時再生32トラック/同時録音16トラック@16ビット/44.1kHz/48kHz、同時再生16トラック/同時録音8トラック@24ビット/44.1kHz/48kHz、同時再生8トラック/同時録音4トラック@24ビット/96kHz
■ミキサー部構成/56チャンネル入力:レコーダー32チャンネル、サブミキサー24チャンネル(AIB-8およびDIB-8装着時)、12バス:EffSend×2、AUX×2、SOLO×1(ステレオ)、CUE×1(ステレオ)、マスター×1(ステレオ)、モニター×1(ステレオ)
■信号処理/69ビット、44.1kHz/48kHz/96kHz
■アナログ入出力/INPUT1〜8(XLR/+48Vファンタム電源&スイッチ付き、TRSフォーン)、GUITAR INPUT(フォーン)、MASTER OUTPUT L/R(TRSフォーン)、MONITOR OUTPUT L/R(TRSフォーン)、AUX OUTPUT 1〜4(フォーン)、ヘッドフォン×2
■デジタル入出力/S/P DIF(オプティカル)
■その他の入出力/USB、MIDI IN/OUT、フット・スイッチ、エクスプレッション・ペダル
■外形寸法/682(W)×474(D)×185(H)mm(ディスプレイを最大に起こした状態)
■重量/13.5㎏(本体のみ)