デジタル環境に最適な192kHz対応ADコンバーター搭載の2ch真空管マイクプリ

ARTDigital MPA

ARTといえば、真空管マイクプリのTube MPシリーズで有名なメーカーですね。それらの製品で定評あるハイクオリティなアナログ設計技術をさらに高めた新製品として、2ch真空管マイクプリのDigital MPA&Gold MPAがリリースされました。共に筐体は思い切ったゴールド・カラーが採用され、さらに今回チェックするDigital MPAに関しては何と192kHz対応のADコンバーターを搭載。良質な中堅向け真空管マイクプリをリリースしてきた同社だけに、本機に対する期待も高まるところです。

低域から高域まで好バランス
上位クラスに引けを取らない音質


フロント・パネルのツマミを触ってみると、ボリューム軸の精度が高く回転は滑らか。正面パネルに並んでいるツマミ群(1ch分)は、左からインプット・ゲイン、インピーダンス調整、アウトプット・レベルです。下の小さなツマミは、ハイパス・フィルターとデジタル・レベル調整用になります。内蔵ADコンバーターは単独での使用もでき、リア・パネルのADインサート端子にアナログ信号を入力すれば、デジタル・レベル・ツマミで−∞〜+10dBのゲイン調整が可能となっています。出力サンプル・レートは44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz、ビット数は16/24に対応。サンプル・レートはパネル中央のツマミで簡単に選択でき、ビット数もボタン1つで設定できます。2ch分の大型VUメーターは、チューブ・ウォームス(真空管への入力信号レベル)と出力レベルの切り替えが可能で、針の視認性がとても良いです。真空管マイクプリの場合、歪みや動作確認のためにも正確なメーターは必須ですが、本機はVU針の反応が聴感にかなり近く、現場でも確実な動作をしてくれる手ごたえを感じます。実際にDigital MPAを現場で使ってみましたが、“即戦力設計”という印象を得ました。ソリッドステートの他機材とも音質傾向のなじみが良く、真空管って本当はこんなにスゴいのか!と、その実力を体感できるスゴモノです。音質は同社の従来のラインナップとは全く別物となっており、今までのウォーム&スローな音とは異なるサウンドです。一聴の価値ありです! 第一印象は、前身機種のPro MPAとはレンジの広さが全く違い、より開放感があります。上位クラスの機材にも引けを取らないクオリティです。重低音の効いたソースでもローエンドまで腰砕けすることなく、また高域は伸びがあって解像度が高く、ハリのあるバランスの良いサウンドです。安定度に関しても、筐体の温度は少し高めになりますが、長時間電源を入れっぱなしで使用しても非常に安定して作動していました。音質は言うまでもなく、高い安定性を求めて必要なパーツを惜しみなく投入している感じです。

入力インピーダンス&電圧可変機能で
音作りの楽しみも増大


また、本機には入力音色を操作する2つの機能があります。1つ目は入力インピーダンス可変機能です。150Ω〜3,000Ωの間で、入力インピーダンスを合わせたり、またあえてミスマッチングさせることができるので、ここで音色のコントロールが可能です。これらの特徴を大まかに表現すると、ローインピーダンス受けでは温かみとゆるりとした存在感を備えたサウンドが得られ、1950年代の優秀録音盤で聴けるようなドッシリした存在感が出せます。一方、ハイインピーダンス受けでは、ソリッドで立ち上がりもシャープなサウンドになります。天井が無いオープンな感じですね。ちとヒステリックな絞り出されるような音色にすることもでき、これがまた面白いサウンドになります。ボーカル用にNEUMANN U87をつなげ、ハイインピーダンス受け設定にした際には、コンプレッサーが深くかかったような息つぎ効果が見られ、アタックに“ピンッピンッ”といったニュアンスが付いてシャープな音色になりました。反対にローインピーダンス受け設定にしたときのサウンドは、アコースティック・ギターの場合、ボサ・ノバの名盤で聴かれるようなあの存在感ある雰囲気を録音することができました。2つ目の特徴は、真空管のプレート電圧の選択機能です。ノーマルとハイボルテージの2種類がスイッチ1つで選択可能で、ハイボルテージでは300Vの高電圧を供給します。特性的にはヘッド・ルームに6dB分の余裕が出て、高域特性も120kHzくらいまでフラットに伸びます。サチュレート具合と音の伸びが変わるのですが、例えばボーカルに対しては、ノーマルではとても自然に繊細なサチュレート・サウンドが得られ、ハイボルテージではヘッド・ルーム限界まで伸びのある真空管サウンドが得られました。さらに劇的な変化は、歪ませたときに起こります。XLR入力端子へドラム・ループを入れ歪ませると、ノーマルとハイボルテージでは低音の膨らみ具合やアンビエンスの深さが変化します。傾向が違うので、どちらも魅力的な歪みです。入力インピーダンス可変機能と組み合わせると、さらに音色の選択肢が広がります。説明書に、電圧変更後は30秒間は待つようにとの注意書きがありますが、切り替え時に突然ゲインが変わるということは無く、サウンドが徐々に変化していくだけなので、気軽に試せる機能ですね。残念ながら、今回はADコンバーターを単独で試す時間が無かったのですが、デジタルとアナログの両方の良さを引き出すことのできる本機を使えば、EQやコンプなどでは表現できない音色コントロールを楽しむことができるでしょう。昨今のデジタル・レコーディング環境を考えると、多くの人のツボとなる製品ではないでしょうか。
ART
Digital MPA
125,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/15Hz〜80kHz(+0、−1dB)
■全高調波歪率/>0.005%(typical)
■最大入力レベル/+18dBu(XLR)、+16dBu(フォーン)
■最大出力レベル/+28dBu(XLR)
■真空管/12AX7A×2
■外形寸法/483(W)×44(H)×165(D)mm
■重量/5.4㎏