名機610と1176LNを2Uサイズにまとめたモノラル仕様リミッター付きマイクプリ

UNIVERSAL AUDIO6176

UNIVERSAL AUDIOはこれまでに、UREI 1176LN、TELETRONIX LA-2Aなどのコンプ&リミッター系アウトボードを復刻したり、過去の回路図を元に新たにデザインした2-610やM610等のマイクプリ系機材も発表してきました。そして今回リリースされたのは、何とぜいたくに1176LNとM610を合体させた製品です。レイアウトは2Uサイズにコンパクトにまとめられていますが、その実体はいかに? 早速チェックしてみましょう。

真空管を2本使用したプリアンプ部
ポイント可変式2バンドEQも装備


6176は、610を元にしたプリアンプ部610Bと、リミッター部1176LNを2Uサイズにまとめた、モノラル仕様のアウトボードです。プリアンプ部とリミッター部は、それぞれ入出力を備え単体でも使用可能。加えてDIやイコライザーも装備されており、本機1台であらゆる録音に対応できるようになっています。まず、プリアンプ部610Bから見てきましょう。マイクプリは12AX7Aと6072Aの2本の真空管が使われた回路となっています。最大ゲインは61dBですが、本機で特徴となるのは設定と表示です。ゲインは基準レベルを中心に、-10、-5、0、+5、+10と5dBずつ増減を設定でき、レベルは、0〜10の連続可変になっています。信号の流れは、入力された音がゲインを通過し本機の最大レベルまで常にブーストされ、レベルで音をアッテネートして実際の出力レベルを調整するようになっています。ですから、ゲインを+10に設定すると真空管に送られる信号レベルが大きくなり、その結果、音が飽和して歪み倍音の多い力強い音になるのです。反対にゲインを-10にセットにすると、歪みが無くクリアでナチュラルな音になります。また、インピーダンスについても、マイク入力で500/2kΩ、DI入力で47k/2.2MΩにそれぞれ切り替え可能です。インピーダンスを切り替えると音質はもちろん、音量やノイズ・レベル等も変わりますが、どちらを使うかは自分の耳で聴いて好みの方を選択すれば良いと思います。音色を変えるキャラクター・スイッチだと思って積極的に使用したいところです。そのほか、マイクプリ部には、2バンドEQも装備されています。HIGHでは4.7/7.5/10kHz、LOWでは70/100/200Hzを選択でき、共に1.5dBずつブースト/カットできるものです。次に1176LNリミッター部について。レイアウトを含め、パネル・デザインは変わりましたが、回路はFETディスクリートで、1176LN(ブラック・パネル)と同じです。インプット/アウトプット・レベル、アタック、リリースが装備され、オリジナル機と同様にスレッショルドは固定(ツマミなし)で、インプット・レベルでリミッティングの深さを調整します。レシオについては、オリジナル機はボタンでしたが、スペースの問題なのか本機ではツマミになっており、何と1176LNの専売特許である“レシオ4つ押し”モード(表記はALL)まで装備されています。なお、メーターも小さなものになっていますが、VUが装備され使いやすいレイアウトです。

“明るい音”のマイクプリ
リミッティングは安定したかかり


では、肝心の音を聴きましょう。610のオリジナル機は所有してないのですが、1176LNは本機のモデルでもあるブラック・パネル、Eタイプがあるので、聴き比べながらチェックしてみました。まずマイクプリ部ですが、押し出し感が強く、明るく倍音の豊かな音です。“明るい”と言っても、ICオペアンプを使ったクリアでガッチリし、硬質感が漂うものとは違い、本機はピーク感や硬さが無く音が前に素直に出てきます。ゲインで真空管の飽和感を足し歪む寸前にすると、真空管ならではの力強く生々しい音になります。DIの音はとても存在感があり太く前に出る音です。倍音も豊かで、とても良質なアナログ的な質感を得ることがきます。決してワイド・レンジではありませんが、素晴らしい質感と言えるでしょう。610のマイク・プリアンプは今まで聴いたことが無かったのですが、かなり完成度の高い製品です。最後にEQですが、とても緩やかに自然にかかるタイプで、録音時に全体的に硬くしたり太くしたりする用途にピッタリです。細かい設定こそできませんが、実際の録音作業においてとても使えるEQでしょう。では、リミッター部である1176LNの音についてもチェックしていきましょう。まず、何と言ってもかかりが安定しています。トランジェントの鋭い音からアタックの緩やかな音まで、スレッショルドのかかりが安定しているのです。その結果、滑らかで癖が無く、“安心して聴いていられる”音となっています。“明るめでパンチの効いている”というオリジナル機のサウンドは同様に再現されていますが、厳密に比較すると、本機の方が歪み感が少なく、低域はダンピングが効いて締まり、中高域はフラットで素直なので、若干おとなしい感じの音と言えるでしょう。例えば、“TUBE-TECH CL1Bでは少し素直過ぎる、オリジナルの1176LNだとレンジが狭く、リミッター音の癖が多すぎる”と迷ったときに本機を使うのはうってつけです。そして、“レシオ4つ押し”が良くできていて、“使える”音となっています。私も“レシオ4つ押し”のこれぞリミッターという音は好きなのですが、オリジナル機ではかかり方が不安定で、使うのをあきらめることもあります。その点、本機は安心して使用できるでしょう。いろいろ試して感じたのは、610と1176LNの相性が絶妙だということ。例えば、“音を明るく前に出して存在感を与えたいが硬く、ギスギスさせたくない、あくまでもアナログ的な質感で”なんていう要求にもこたえることのできる製品なのです。
UNIVERSAL AUDIO
6176
420,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz
■最大入力レベル/+18dBu(マイク)
■最大出力レベル/+20dBm
■SN比/90dB@Maximum Gain
■外形寸法/483(W)×89(H)×310(D)mm
■重量/5.1kg
※ステレオ使用が可能になる1176SAステレオ・アダプター(別売:18,000円)もあり