高品位なマイクプリ/コンプ/EQ/ディエッサーを搭載した1ch真空管プロセッサー

PENDULUM AUDIOQuartet

プロ/アマ問わずDAWでの音楽制作が主流になりつつある現在、DAWに取り込む際の音の入り口や処理は重要になってきています。最近はさまざまなプロセッサーがありますが、PENDULUM AUDIO Quartetは、マイクプリやEQ、コンプ、ディエッサーなどを持ったオールインワン・タイプ。回路には真空管が使用され、現在のワイド・レンジなレコーディング環境に対応するスペックで設計されています。PENDULUM AUDIOは1988年に設立された米ニュージャージー州のオーディオ・メーカー。『Pro Audio Review』『EQ』の2つの雑誌で賞に輝いたその実力はいかに!

多くの機能が分かりやすく配置された
2Uのフロント・パネル


まずは外観。2Uのフロント・パネルに並ぶ大小のツマミと、大型のVUメーターが印象的です。左側からインプット・セクション、EQセクション、コンプとディエッサーのダイナミクス・セクションの順で並んでいて、各スイッチやツマミは、マニュアルを読まなくても分かる感覚的に使いやすい配置となっています。リア・パネルには入出力端子などが並んでいますが、特徴的なのはセクションごとの入出力端子が装備されていること。これを利用すれば各セクションを独立して使用することも可能です。またメイン出力はトランス/トランスレスの両方に対応しています。セクションごとの入出力端子にも真空管回路が採用され、計6本の真空管が配置されています。それでは各セクションを見ていきましょう。まずはインプット・セクション。入力モード・スイッチを“MIC”にすると、リアのXLR端子が有効となりマイクプリとして動作します(48Vのファンタム電源も装備)。また、“DI”にするとフロント/リア両方のフォーン入力端子が有効となり、さらに別のスイッチで切り替えることによってライン・レベル、もしくはギターなどのハイインピーダンス楽器を入力できます。これらのゲインは3dBステップで変化するツマミで調節しますが、それとは別にアウトプット用のツマミも用意されているので、ここで微調整することも可能です。そのほか、このセクションにはローカットやフェイズなどのスイッチも備えられています。EQセクションはHI/MID/LOと3バンド。HIはシェルビングで7/10/15kHz、MIDはピーキングで0.7/1.6/2.2/3.3/5.0/6.5kHz、LOもシェルビングで50/100/200Hzでそれぞれ±10dBまでツマミで設定できます。またEQセクションをダイナミクス・セクションのプリ、もしくはポストにルーティングでき、バイパスも可能です。

真空感の魅力を十分に引き出した
つやのあるきめ細かいサウンド


最後に、ダイナミクス・セクション。本機のコンプレッサーはオプティカル・システム。スレッショルド/レシオ/アウトプットの3つのツマミが用意され、アタックとリリース・タイムは4つのモード、Fast(アタック/リリース・タイムが早くコンプくささが少ないモード)、Average(Fastよりはゆっくり作動。ボーカルなどで自然な効果が得られる)、Vintage(入力音量により3段階に設定が変化。ビンテージ・コンプレッサーのエミュレート・モード)、Manual(アタック/リリースのツマミで調節。それぞれ1msec〜100msecと0.1sec〜2secで連続可変)から選択して調整します。またリアのコンプレッサー/ディエッサーLink端子で本機2台を接続し、ステレオ仕様のコンプとしての使用も可能です。ディエッサーは3.4kHz〜11.5kHzまでの11ポジションに設定ができ、スレッショルド・デプス(−2〜−10dB)で効果を調節。それぞれバイパスが可能です。それでは、実際の音でのチェックを行います。今回マイクはNEUMANN U87とU47 Tubeを使用し、マイクプリはNEVE 1073、コンプはUREI 1176で聴き比べ。まずボーカルではマイクプリのみでキャラクターの違いが分かります。1073のざらついた音質に対して本機はきめ細かくつやがあり、レンジもかなり広い感じでした。EQを入れるとその傾向はより強くなります。次に、同セットにダイレクト・ボックスのCOUNTRYMAN Type 85をプラスして、エレキギター/ベースとシンセサイザーの音で比較。これも本機の方がレンジも広く、明るめなサウンド。また、軽いオーバードライブのセッティングもでき、真空管のウォームなサウンドも楽しめます。コンプの感触としては、レンジが広いまま押し出しが強くなる感じです。ボーカルやソロ楽器などのメイン・トラックの音を目立たせるのには特に効果を発揮するでしょう。本機2台を使用し、ステレオのリズム・トラックやマスターに深めのセッティングで使用するのも面白そうです。設定は4つのモードとも使えそうな印象。ビンテージ・モードの音は名機TELETRONIX LA-2Aに近いのではないでしょうか。全体の印象としては、真空管を使ったシステムを感じさせない多機能さと高性能さを感じさせつつも、音質はまさに真空管の素晴らしさを十分に引き出したサウンドと言えます。“Quartet”の名前の由来は“プリアンプ、EQ、コンプレッサー、ディエッサーの4つの要素が調和されたシステム”とのこと。まさに見事なハーモニーです。ただレトロなサウンドを目指しているだけの機種とは違い、十分に広いレンジとつやのあるサウンド。この機能と実力でこの価格は、かなりのコストパフォーマンスを感じます。試してみる価値は十分にある魅力的な機種であると言えます。
PENDULUM AUDIO
Quartet
オープン・プライス(市場予想価格/428,000円)

SPECIFICATIONS

■入出力端子/【フロント】ライン/インスト入力(フォーン)、【リア】マイク入力(XLR)、ライン/インスト入力(フォーン)、マイク/DIインサート・センド&リターン(フォーン)、EQ入出力(フォーン)、コンプレッサー/ディエッサー入出力(フォーン)、コンプレッサー/ディエッサーLink(TRSフォーン)、ライン出力(XLR、フォーン)
■周波数特性/【マイクプリ】10Hz〜85kHz(−1.0dB@10kΩ負荷)、20Hz〜78kHz(@+45dBゲイン、トランス付き)
■全高調歪率/0.015%以下(20Hz〜20kHz@+4dBu)
■外形寸法/482(W)×88(H)×318(D)mm
■重量/6.4kg