パワー・アンプ部に真空管を採用した新機軸のアンプ・シミュレーター

VOXValvetronix ToneLab

ハード&ソフト共に、毎年幾つも発表されるアンプ・シミュレーターですが、サンレコ読者にはギタリストも多いでしょうから、毎回気になっていることだと思います(もちろん僕も)。本誌でCMのセミナーを書かせていただいてるせいか、“キーボーディストなんですか?”とよく聞かれますが、僕はギタリストで、スタジオではFENDER Tweed '56 Deluxe(5E3)、'57 Vibrolux、BlackPanel '60 Delux、VOX '60s AC30(Supertwin)といった自己所有のアンプを実際に使っています。上記のアンプを使っている耳で、アンプ・シミュレーターの新機種であるVOX Valvetronix ToneLab(以下、ToneLab)のレビューを行いたいと思います。

難易度の高いシミュレートを実現した
本格的なサウンド


ToneLabを見て最初に気になるのはやはり本物の真空管が装着されている点だと思います。このToneLabにはVOXが開発したValve Reactor(バルブ・リアクター)回路にこの本物の真空管が使われているのですが、真空管を回路に使っているシミュレーターは以前にもありました。では、何が今までと違うかというと、真空管を“歪み”ではなく、パワー・アンプ部に使っており、ベーシックな音作りとトーン・シェイピングはデジタルで処理しています。実際のギター・アンプではプリアンプ部の先に非常にアナログというか“組み合わせの妙”的な部分があります。例えばビンテージ・アンプのパーツで一番何が大事かというと“トランス”です。真空管やコンデンサーも確かに重要ですが、リペアマン所有のNEW OLD STOCK(オ−ルド未使用品)で何とでもなるのです。でも、トランスを交換したら2度と同じサウンドを奏でられません。また、本物のスピーカーを使用するとスピーカーとパワー・アンプの間に“リアクティブ・フィードバック&ダンピング特性”が発生するのですが、過去のアンプ・シミュレーターではこの辺の再現が難しかったわけです。ToneLabは“ダミー・スピーカー回路”が絶えず変化するインピーダンス曲線を読み取り、バーチャルOUTPUTトランスフォーマーにフィードバックするように設計されています。VOXはこの辺のあいまいさをデジタルではなくアナログでシミュレートする方法を“積極的に”選んだわけです。僕はレコーディング時にはほとんど“シールド1.5mでアンプ直”なのですが、過去のシミュレーターで一番不満だったのが、歪ませた状態からギター本体のボリュームを絞っていったときのシラケ具合でした。ギターがフル・ボリュームで、アンプもフル・ドライブの再現はどのシミュレーターもかなりイイセンまで再現していましたが、手元のボリュームでアンプのサウンドをコントロールするという本来の使い心地までは得られなかったのです。さて、結論から言って、このToneLabはその辺がかなりリアルに仕上がっています。FENDER Tweedで軽いクランチといったような過去のアンプ・シミュレーターが不得意だったところもニュアンスが良く出ています。シミュレーターで一番難しいと思うのはT.レックスのような“押し出し”だと個人的には思っているのですが、その辺もいい感じが出ています。加えてMARSHALL系の大型アンプのスタック・サウンドはバッチリです。この辺は本物を使ってレコーディングするよりもToneLabを使った方がいい結果が得られるかもしれないと、ホントに思います。

実際のアンプのように操作でき
エフェクトのニュアンスも的確に再現


次に実際の操作感です。パネル上のツマミですべて実際のアンプを使うように操作でき、マニュアルを読まないと分からないところは無いでしょう。基本的にはパネル下段左のAMP(16タイプ)とCABINET(10タイプ)の中から任意のタイプを選択し、後はその右のツマミで音の調整を行っていくわけですが、“VR GAIN”というツマミだけが見慣れないと思います。これはマスター・ボリュームとして、プリアンプ部からパワー・アンプ(Valve Reactor)部へ送る信号をコントロールします。ビンテージ・アンプに多い、単純にボリュームだけで歪みを調整するタイプのアンプのシミュレートをするときは、このVR GAINはフルにして使用するのが基本です。そしてパネル中段がエフェクト部です。まず、PEDAL部のエフェクトはアンプの前に挟まれています。エディットは右側にある3つのツマミで操作できるので、デジタルの階層を下りていく必要もなく、スピーディに調整できます。COMPなども含め、どれも“コンパクト・エフェクター”の感じをよくつかんでいる使い心地です。そして、MODULATION/DELAY/REVERBの各部分は当然のことながら、スピーカー・モデルの後にきます。フェイザーもDAW系プラグインのような上品なものではなく、MXR系のギターらしいフェイザーでGOOD。これらのエフェクターの一部パラメーター(WAH、UNI-VIBEのSpeed、DelayやReverbの入力など)は別売の専用フット・コントローラー(VC-12:33,000円、VC-4:オープン・プライス)で操作可能です。またWebサイト(www.korg.co.jp/Support/Software)にあるエディター・ソフトのToneLab Sound Editorを使えばライブラリーの保存やエディットをコンピューター(Macintosh版は無し)から行うことができます。最後に。ToneLabはギターのピックアップの特性もかなりフォローできています(割と歪みを多くしても、ビンテージ・ギター独特の“倍音”構成もつぶれずに残る)。ということは、ギターもそれなりにいい音で鳴っていないとToneLabからいい結果は導き出せないということです。
VOX
Valvetronix ToneLab
44,000円

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/44.1kHz
■AD/DA/20ビット
■入出力端子/ギター入力、アナログ出力(TRSフォーン)×2、デジタル出力(S/P DIF)、VOXバス端子、ヘッドフォン、MIDI IN/OUT
■外形寸法/319(W)×79(H)×213(D)mm
■重量/2.5㎏