4種類の音源方式と強力なシンセサイズ機能を搭載した高級リズム・マシン

ELEKTRONMachinedrum SPS-1

シンセ・パートに限らず、ドラム・パートもプラグイン・インストゥルメントによってコンピューター上で手軽扱えるようになった現在。しかし今回紹介するMachinedrum SPS-1(以下SPS-1)は、そんなプラグイン環境とは正反対のポジションにある、ド直球なハードウェアのリズム・マシンだ。いやースゴいです。何がスゴいって、単体リズム・マシンなのに20万円弱という価格設定! 一瞬“正気か?”と思ったが、 チップ・チューンにより独自のサウンドを奏でることでマニアの間で注目を集めているSid Stationなど、ユニークな製品を発表しているELEKTRONからのリリースと聞いて妙に納得。早速チェックしていこう。

アコースティック・ドラムから
LinnDrum系80'sサウンドまで用意


さて、まず印象的なのが、液晶ディスプレイやホイール、ツマミが整然と配置されたテクノっぽい感じのデザイン。どこか高級感もうかがえる。筐体はコンパクトなのだが、持ってみると意外と重量感がある。ちなみに別売りキットでラック・マウントも可能で、単体リズム・マシンとしては珍しい仕様だ。リア・パネルにはステレオ・メイン・アウト&4パラ・オーディオ出力、外部からのトリガー入力×2系統、そしてMIDI IN/OUT/THRU端子が用意されている。本体のみで素早くリズム・パートを作成できるのがリズム・マシンのだいご味であるが、本機も“パーカッション・シンセサイザー”と“エフェクト・システム”という2つのブロックで音を作り込み、“パーカッション・シーケンサー”ブロックで、内蔵16トラック・シーケンサーを使いながら素早くリズム・パターンを組み立てていく流れだ。リズム・マシンの命とも言える音源部分の“パーカッション・シンセサイザー”ブロックは、発音原理の異なる4種類の音源から成るMD方式を採用。その内訳は以下の通りだ。
●EFM/リアルなリズム音から攻撃的な電子音まで、同社独自のアルゴリズムを使用した音源
●TRX/クラシックなアナログ・リズム・マシンをベースに、パラメーター可変範囲を大幅に広げたモデリング音源
●E12/豊富なパラメーターを持つサンプル・ベースのリズム音源
●PI/生っぽい音色変化が作成できる、アコースティック・ドラムのモデリング音源計46種類のドラム音色はアナログ風なものから、最近の80'sブームの影響からかLINN LinnDrum風のサウンドまで幅広くカバーしており、定番のROLAND TR-909/808系の音色ももちろん用意。特にTR-909系のキックと内蔵エフェクトのコンプとの組み合わせは相性が良く、キックだけでもしばらく飽きずに聴いていられる感じだ。シンセ合成されたパ−カッション系が多く用意されているところもマニアックな感じで、これを元にすればザップ系エレクトロ音には困らないだろう。それらのドラム音色を組み合わせたプリセット・キットは25種類用意されており、適当にキットを選び用意されている内蔵パターンを走らせてみたところ、高域から低域まで非常にヌケが良い音で、トータル的にすごくレンジが広い印象だ。そしてSPS-1の魅力は何と言っても豊富に用意されたサウンド・エディット・パラメーター。“エフェクト・システム”ブロックに音色エディット・パラメーターがあるのだが、16個のトラックすべてにアンプリチュード・モジュレーション、1バンドEQ、レゾナンス付きフィルター、サンプル・レート・リダクション、ディストーション等のトラック・エフェクト・システムを用意し、さらにトータル用にリズム・エコー、ゲート・リバーブ、EQ、コンプレッサーといったステレオ・マスター・エフェクト・システムが搭載されている(すべて同時使用が可能)。実際これらのエフェクトを組み合わせて、フロント・パネル右側の8つのツマミでエフェクトを調節しながらバス・ドラムやスネアのエディットを行ってみた。適当にいじるだけでカテゴライズ不能な過激な音色がすぐにできるので、シンセサイズ機能が優秀なのがよく分かる。もはやエディット機能は、リズム・マシンというよりもシンセサイザーに近い印象だ。なお、エディットした音色はキットとして64個までメモリーできる。

時間的なパラメーター変化を記録する
エクステンデッド・モード搭載


打ち込み方法はROLANDのTRシリーズ等でおなじみのグリッド・プログラミング方式。1小節を16分割し(32分割にも変更可能)、パネル下の16個のステップ・ボタンで直感的にパターン作成を行える。もちろんスイングをかけたりパターン・レングスを変更するといったことも可能で、このパターン・モードで作成したパターンをソング・モードで組み合わせて1つのソングを構成することになる。またパターン作成にはトリガー情報を記録するクラシック・モードに加えて、各パラメーターの変化を記録するエクステンデッド・モードも用意されており(パネル左上のCLASSIC/EXTENDEDボタンで切り替え)、これを利用すれば、例えばステップごとにドラムのピッチが変化するフレーズを作ることも可能だ。そのほか16個のトラック・シーケンサーをそれぞれミュートする“トラック・ミュート・ウィンドウ”という機能が便利だったので紹介しておこう。SPS-1ではマニュアル操作で簡単にトラックの抜き差しが可能となっている。つまり、キックやスネア抜きのパターン・バリエーションを複数用意しなくても、各パートのミュートをオン/オフすることで自由に曲の展開を作ることができる。特にライブなどで使うと面白そうだ。以上、SPS-1の概要をざっと見てきたが、とにかく無駄な機能はほとんど無く、好感が持てる機材だ。本体だけでリズム・ループを作ったり、自分で音色を作り込みたいという人にはたまらなく楽しいのでお薦めだ。近年まれに見る超高級リズム・マシンである。

▲リア・パネル。左からMIDI THRU/OUT/IN、インプットA/B、パラ・アウトC〜F、メイン・ステレオ・アウト、ヘッドフォン端子

ELEKTRON
Machinedrum SPS-1
199,800円

SPECIFICATIONS

■シーケンス・トラック/16
■ユーザー・プログラム・パターン/128
■出力SN比/91dB
■入力インピーダンス/100kΩ
■出力インピーダンス/100Ω
■DAコンバーター/24ビット
■外形寸法/340(W)×176(D)×68(H)mm(ノブを含む)
■重量/約2.8㎏