96kHzに対応したデジタル・マルチエフェクターSPXシリーズ最新機種

YAMAHASPX2000

デジタル・マルチエフェクターという位置付けでSPX90が登場したのが1985年。ベーシックなディレイ、コーラス系以外にもオート・パンやコンプまで搭載し、さらに当時はまだかなり高価だったピッチ・チェンジ機能まで付いて10万円を切ったのには筆者も驚いた記憶がある。その後リバーブのREVシリーズと共にあらゆるプロ・スタジオやSRシステムで必ず見かける機材となったのは皆さんもご存じだろう。そのシリーズ最新作がSPX2000。96kHzに対応すると同時にシリーズの集大成にもなっているようだ。

96kHzで味わいたい
新開発リバーブ・アルゴリズム


最初に主な機能を把握しておこう。
●24ビット/96kHz処理に対応
●新開発のREV-Xアルゴリズム
●フィルターやアンプ・シミュレーターなど新規エフェクトを追加
●初期SPXを再現したCLASSICバンクも用意
●UNDO/COMPAREボタンの採用
●AES/EBUのデジタル入出力
●BNC端子のワード・クロック・インを装備
●USBを装備しPCエディターでコントロール可今回96kHz化に伴ってAES/EBU(XLR端子)のデジタルI/Oが搭載され、デジタル・ミキサーやDAW環境とデジタル信号のままでのやりとりができるようになった。さらにBNC端子のワード・クロック・インも備えており、外部クロックとしてAES/EBU、ワード・クロック・インが、また内部クロックとして44.1、48、88.2、96kHzが選択できる。よってクロック・マスターを別に用意した場合のデジタル接続へスマートに対応可能なのはもちろん、本機をAD/DAコンバーターとして使うことも可能となっている。試しにアナログ入出力で96kHzと44.1kHzでのエフェクト具合を比べてみると、やはり96kHzの方がスムーズで聴きやすく印象が良かった。DAWを48kHzで使用中でも、本機を使えば96kHzのスムーズなリバーブが味わえるのだ。しかも96kHzだからといって動作が重くなるような感じは全くせず、リバーブ・アルゴリズムでもかなりエフェクトの切り替わりは速い。搭載エフェクト中で注目すべきは本機用に新開発されたREV-Xというリバーブ・アルゴリズムだ。従来よりもさらにきめ細かな残響といった感じで、より落ち着いたサウンドである。リバーブ・タイムと独立してディケイのパラメーターがあり、残響音が減衰していく形状をコントロールできるのがいい。そのほかのエフェクトはプログラム名を見れば分かるように同社02R96などに搭載されたものとの共通項が多い。ロータリー・スピーカー、リング・モジュレーションをはじめディストーションやアンプ・シミュレーターなど歪み系エフェクトも入っている。MIDIベロシティに応じてフィルターが変化するDYNA FILTERなどはやりのフィルター系も追加された。ダイナミック・フェイザーも面白い。プリセットは97個でストア可能なユーザーエリアは99個だ。さらに本機では上記プリセットとは別にCLASSICバンクと称して、新しいアルゴリズム上で初期のSPXシリーズのエフェクト25個を再現している。実は筆者の場合、昔のSPX90Ⅱあたりのエフェクト音がかなり気に入っていて、新型が幾つか出た後でもたびたび旧機種の方を好んで使用してきた。さすがに今ではちょっとS/Nが悪いのが気になるので使うことも減ったが、同じパラメーター構成のエフェクトが本機にも入っているのはやはりうれしい。実際の出音は本機の方がだいぶ高級(特にリバーブは違う)に感じるが、そういったシンプルなエフェクトが曲にマッチするケースも少なくないだろう。

シンプルな操作性に戻りながらも
最新機能を随所に搭載


本機と前タイプのSPX990を比べるとその内部構造や操作法が大きく変更になっている点に気が付く。SPX990ではメイン・エフェクトの前後にEQやコンプといったダイナミクス系のセクションが別個に用意されていた。しかし本機ではメイン・エフェクト部だけのシンプルで分かりやすい構成に戻っているのだ。さらにSPX990に存在したダイレクト・リコールなどの付加的な独自機能類も思い切って削ぎ落とされ、十字キーが復活。初めて触る人でもすぐに目的のパラメーターへたどり着ける。PARAMETERとFINE PARAMETER、UTILITYという分類も非常に有効だ。このようなスリム化の一方で“テンポ入力専用のTAPボタン”や“直前のストア操作を取り消せるUNDOボタン”“エディット前の音と比較できるCOMPAREボタン”といった現代的な機能を新たに追加することでさらに操作性が向上している。ライブSRなど瞬時に音決めをしなければならない現場でも安心して使える操作性に仕上がっていると言えよう。また、LCDディスプレイの背景色を5色から任意に選択してストアできるのも、うまく使えば有効な機能だろう。さらに背面にはUSB端子も搭載しており、Webページ(http://proaudio.yamaha.co.jp/download/)上で12月にダウンロード開始予定のSPX2000 Editorを使うことでデータ・バックアップはもちろんコンピューターから本機をコントロールすることも可能になるそうだ。操作面においても同社DM2000や02R96との連携ができるのは、複雑なセッションを管理する場合などに大変魅力的だ。よってSPX990にあったメモリーカード・スロットが今回は省略され、フット・スイッチ端子が前面に配置された。またコンピューター側にUSB-MIDIドライバーをインストールすることでMIDI情報もUSB端子から直接受信することが可能とのこと。筆者にとってSPX2000の一番の魅力はやはりYAMAHAならではのリバーブ音だろう。他機種では代用できないつやを持っているからだ。そして高音質なピッチ・シフトも頼もしい。逆に不満なのは高音質過ぎるディレイ系だが、これは複合タイプの方にあるDIST→DLYでカバーできる。とにかく本機はかなり完成度が高く、SPXシリーズの中で最も使いやすい仕上がりだ。現場で即戦力として評価されてきたSPXシリーズの良さが間違いなく味わえる機種である。

▲リア・パネルの接続端子。左からMIDI OUT/THRU、MIDI IN、USB、ワード・クロック・イン、AES/EBUデジタル入出力(XLR)、アナログ出力(XLR、TRSフォーン)×2、アナログ入力(XLR、TRSフォーン)×2

YAMAHA
SPX2000
108,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz(0dB+1.0、−3.0)@48kHz、20Hz〜40kHz(0dB+1.0、−3.0)@96kHz
■サンプリング周波数/内部:44.1/48/88.2/96kHz、外部:39.69kHz〜50.88kHz(Normal Rate)、79.38kHz〜101.76kHz(Double Rate)
■ダイナミック・レンジ/106dB
■全高調波歪率/0.005%以下(FS@+14dB)
■外形寸法/480(W)×45(H)×372.5(D)mm
■重量/4kg